去りゆく平成。
冷戦時代と現代の相違

平成のはじまりを象徴する「ベルリンの壁崩壊」。その後あらわれた「新たな壁」とは?

思想的でもなく、地理的でもなく

いっそ分かりやすかったかつての「二極化」という構造。現在は「多極化」

世界中に見えない壁がある。壁は消えてはできる

平成元年(1989)ベルリンの壁崩壊から30年。今我々が向き合うべき壁とは…

東西を隔てるリアルな壁

ある日、目が覚めると、そこに壁が出来ていた。
……
国家分断の象徴として有名な、ドイツの「ベルリンの壁」は、国を東西に分けるまさにリアルな壁。ブロックと有刺鉄線で一夜のうちに張り巡らされたその壁は、次第にコンクリート製へと増強され、最終的には総延長156kmに及ぶコンクリート製の壁となったという。場所にもよるが概ね高さ3mもある壁は、ほんの前まで隣町だった母国を「見えない隣国」に変えた。壁を乗り越えようとして捕らえられた人は約5000人、射殺された人は191人に及んだという。

他人事ではない。実は日本もそうなる危険性があったという説がある。ドイツも日本も第二次世界大戦の敗戦国。その当時、資本主義国の代表である米国と、社会主義国の代表であるソ連(ソビエト社会主義共和国連邦/現・ロシア)は、少しでも自分たち側の陣営を増やそうと覇権を争っていた。ソ連が関与する東ドイツと、アメリカが支援する西ドイツに分かれたのは、そういう時代の背景があった。その後生まれる朝鮮半島の分断やベトナム戦争なども、資本主義対社会主義という構図が背景にあり、こういった対立は第二次世界大戦後くらいから数十年「東西冷戦」とよばれた。戦後の「昭和」という約40年間は、そんな世界的対立の時代だったともいえるだろう。

1989年、年が明けて間もない1月7日。昭和天皇が崩御し、元号は「平成」となる。変化を象徴するかのように、この年は目まぐるしい年だった。2月、ソ連軍がアフガニスタンから撤退開始(これも冷戦の象徴のひとつだった)。6月、北京で天安門事件が起こる。民主化を求めて広場に集まった若者たち約10万人が軍によって鎮圧された。7月、“東側陣営”の一国だったポーランドで自由選挙が実施。10月、これも東側陣営の一国だったハンガリーが社会主義体制を放棄。。。
そして11月、ベルリンの壁が崩壊した。文字通り市民たちの手で「壊された」のである。翌年には東西ドイツが統一され、現在の私たちが知る「ドイツ連邦共和国」となり、今に至る。平成という30年は、そんな「対立の崩壊」から始まったのだ。

ベルリンの壁

世界をいびつに切り分ける、たくさんの見えない壁

時は経ち、2019年4月。私たちは今、平成に代わる新しい元号、新しい時代を迎えようとしている。世界はこの30年の間にますます融和を……したかというと、そこには疑問が残るだろう。トランプ政権がロシアに中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄を通告し、プーチン大統領も同条約の履行義務の停止を表明した。まるで冷戦時代への逆行を思わせる状況だ。しかし、京都産業大学国際関係学部の河原地英武教授は、「少なくとも次の3点から、今日の情勢は冷戦時代と異なる」と語る。

第一に、「自由民主主義」対「社会主義」という政治思想(イデオロギー)の対立はない。米露とも自国の利益をめぐって対抗しているのだと考えられる。

第二に、米ソ冷戦の時代とは異なり、中国の存在感が非常に増したという。アメリカがIFN全廃条約を破棄した理由の一つは、この条約に縛られない中国が、中距離核ミサイルを着々と製造していることだという。中国抜きの核軍縮条約は、もはや無意味ともいえるだろう。いまや主要な国際問題で、中国が関わらない問題はないと言ってよい。アメリカの貿易問題にしても中国が当事者であって、世界経済はもはや中国抜きで論じられなくなっている。

そして第三に、現在の国際関係は冷戦時代のように味方と敵がはっきりと分かれていないことである。すなわち大国間でも相互依存が相当進んでおり、表向きは対立しながら、その実、裏ではしっかり手を握り合っているという局面が随所に見られるのだのだという。

河原地教授の分析する通り、世界は複雑化を増している。EUの一員でもあるイタリアが中国の一帯一路構想に与したり、一方で英国がEUからの離脱を模索するなど、協力関係や敵対関係はいまや、日々移り変わる。いやむしろ、「敵であり味方でもある」というべきか。かつては分かりやすく見えやすかった「対立の壁」。今は自国の利益を守るための防衛策としての見えない壁が無数に存在する。心の中に、秘めた打算の中にうみだされる無数の壁。新しい時代を生きていく私たちは、ニュースに現れる「見えるもの」の裏側に、「見えないもの」を見つめていくべきだろう。そして自分の心の中にも、「無意識の壁」がないであろうかと。

アメリカとロシア、アメリカと中国、はたまた英国…など、関係はモザイク的に

シェアする

関連する学び

あわせて読みたい記事

地域

地域と行政のはざまから、 貴重な人的リソースが見えてくる。 京都市北区役所が大学と連携。「健康長寿」の基盤づくりをめざす取り組み 京都産業大学

環境

より遅く危険になる台風、 上陸後の速度は30%減 「この傾向はずっと続いています」と研究者、被害の拡大を懸念 NATIONAL GEOGRAPHIC

漁業

衛星で漁船を追跡、なんと 海面の55%超で漁業が 地球規模のデータを水産資源の持続可能な管理に役立てる NATIONAL GEOGRAPHIC
記事一覧に戻る