もやもや病の病因究明から、
肥満の仕組み解明へ。

もやもや病の責任遺伝子が脂肪代謝の制御因子であることを発見

発見!もやもや病の責任遺伝子は意外にも、脂肪代謝の制御因子

病態解明と根治療法確立が期待される

肥満、動脈硬化、糖尿病…各種の代謝疾患の解決につながる可能性

思いもよらぬ二つの病因に共通する責任遺伝子…人体の謎がまた見えてきた

なぜか脳の特定の血管だけが狭くなる、しかし他の血管には異常はない

「もやもや病」は、ソフトな名称とは裏腹に、難しい病気である。
簡単にいえば、脳への血液の流れが減少する、あるいは止まってしまう病気だ。脳に血が足りなくなることにより、患者は脱力発作におそわれたり脳梗塞を起こしたりする。この血液不足は脳の底の部分にある特定の血管が狭くなったり閉じてしまうことで起こるのだが、不思議なことに全身の他の血管にはほとんど異常がない。一体なにが原因で血管が狭くなったり閉じてしまうのか?どうして全身の中でも脳の底でだけ血管が狭くなるのか?その理由はいずれも不明である。病気の詳細が分かっていないため、これまでのところ根治療法は確立されていない。主な治療法として頭の表面の血管を頭蓋骨の内側までつないで血液を補給する方法があるが、血液の足りない部分が出てくるたびに手術を行わなければならず、負担が大きい。それから、もやもや病にはもう一つやっかいな性質がある。脳に血が足りなくなるため、体がそれに反応して新しい血管を作り始めるのだ。細い血管がたくさん作られて煙のような「もやもや」とした形状になる。この見え方が病気の名前の由来にもなっている。もやもや血管によって血流はある程度回復するので、生体の反応としては成功しているのだが、この血管がもろいため、破れて脳出血を起こすことがある。もやもや病では、脳の血液不足だけではなく脳出血にも気を付けなくてはならない。

原因不明とされてきたもやもや病だが、「遺伝」が関係するという可能性が考えられてきた。理由は大きく二つある。一つは民族によって発症率が大きく違うことである。東アジア人は白人より約十倍、この病気にかかりやすい。もう一つ、遺伝との関連を示す事例として、家族性発症がある。つまりある家系ではもやもや病の発症率がとびぬけて高いのである。2011年、東北大学と京都大学をそれぞれ中心とする二つの研究グループ から、ほぼ同時にもやもや病の責任遺伝子同定が報告された。17番染色体にミステリン(別名RNF213)というこれまで知られていなかった遺伝子があり、その遺伝子の変異によってもやもや病の発症率が上昇するというのである。京都産業大学タンパク質動態研究所の永田和宏教授と森戸大介主任研究員(現・昭和大学医学部)は、京都大学グループと協力してこの遺伝子ミステリンを世界で初めて物質として取り出した。この遺伝子がどういう機能を持ち、また、どういう異常により病気を引き起こすのかについて調べるためであった。

もやもや血管(脳血管造影)の仕組み

研究が進むたび、新たな不思議が見えてくる

体の中では、ミステリン遺伝子を設計図としてミステリンタンパク質が合成される。実は2014年の時点で、永田和宏教授と森戸大介研究員らは、ミステリンタンパク質が細胞内でドーナツ状の巨大な集合体を形成し、ダイナミックに動く分子エンジンとしてはたらくことを明らかにしていた。つまりミステリンの形や動きはおおまかに分かっていたのだ。しかしミステリンがダイナミックに動きながら、一体、どういうはたらきをしているのか、ここが分からなかった。同研究員らはさらに研究を続け、5年後の2019年、新たな事実をつきとめた。

きっかけは、共焦点レーザー顕微鏡と呼ばれる高精度の顕微鏡によりミステリンの細胞内分布を観察したことだった。興味深いことにミステリンタンパク質は直径1μm(1 mmの千分の一)の球状構造を形成していた。しかも驚いたことにその内部には中性脂肪が充満していたのだ。この構造は、脂肪滴と呼ばれる細胞内のエネルギー貯蔵庫であった。ミステリンがエネルギー貯蔵庫に結合することで、脂肪やエネルギー代謝に関連したはたらきをするらしいということが分かり、ここを突破口として研究は一気に進んだ。その後の解析により、ミステリンは脂肪の表面から脂肪分解酵素をとりはずすこと、それによって脂肪分解が止まり、脂肪が細胞にたまりやすくなることなどが分かった。機能不明のもやもや病遺伝子ミステリンは、脂肪の分解を止める「脂肪代謝の制御因子」であった。

これまで、もやもや病患者において顕著な代謝異常などは見出されておらず、もやもや病と脂質代謝の関係についてほとんど注目されていなかった。しかし、今回の研究成果により、もやもや病が何らかの代謝バランス異常と関係している可能性が示された。ただ、その関係がどういうものなのか、現時点では分かっていない。また、ミステリンの正常機能が代謝と関連しているだけで、変異により病気が引き起こされるメカニズムはまったく別である可能性も残っている。謎は解けたのか、深まったのか。そのどちらとも言えるだろう。確かなのは、「解くべき問い」が見えれば見えるほど、その難題に取り組む仲間が世界中で生まれ、人体の仕組みがまた見えてくるということだろう。思いがけず見えてきたミステリンの持つ役割により、もやもや病だけでなく各種の代謝関連疾患(肥満や動脈硬化、糖尿病など)の原因究明、ひいては解決の糸口が見えるかもしれない。新たな人体の謎への扉、次にその扉を開けるのは誰だろう。そしてその先にどのような可能性が見えてくるのだろうか。

青が細胞核、緑色が脂肪、そして赤色がミステリン

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