ミツバチDNAの解明が
日本の食糧生産と環境保全を推進する

ニホンミツバチのフルゲノムを解読

万葉集の時代から!? 長い歴史を持つ、日本の養蜂

文明開化。セイヨウミツバチがやて来た!

日本在来種と、西洋種の強みは一長一短

フルゲノムの解読成果を、養蜂産業の支援へ、そして農業全体の危機回避へ

改良を重ねてきたミツバチの性質。さらなる進化はあるか?

人類とミツバチの歴史は非常に長い。古くは中石器時代にスペインのアラニア洞窟の壁画に、 高い崖に身をさらし、ハチの巣を採集しようする人の姿が描かれている。さらにエジプトの古代墓からは、紀元前1千年前とみられるハチミツ保存用の壺が発見されている。別の発掘調査では、約9000年前の土器からハチミツや蜜蝋(ミツバチの巣)の痕跡が見つかっている。これらの遺物からヒトとミツバチとの付き合いは、1万年以上の歴史があると考えられている。

日本においても平安時代に京都で、藤原宗輔という太政大臣がミツバチを飼育していたという話も残されている。東西を問わず、人類から愛されてきたハチミツ。しかしその採集元が全く同じというわけではなかった。その大きな違いのひとつは、種の違いである。実は、現在の日本で主に「ミツバチ」として知られているのは明治時代に輸入された「セイヨウミツバチ」。元々、飼育が難しく採蜜量も少なかったニホンミツバチに対し、飼育が容易で採蜜量も多かったことから、一気に日本中に広まったという。

こうして現代の日本の養蜂産業を支えるに至ったセイヨウミツバチ、だが、近年は病気や寄生虫(ダニ)の蔓延、農薬への曝露(ばくろ)等に伴うミツバチの弱体化が問題となっている。一方、セイヨウミツバチに養蜂の主役の座をとってかわられた形のニホンミツバチだが、病気や寄生虫に強く、特にセイヨウミツバチで問題となっている寄生ダニや細菌病に強い、という有用な性質を持っている。また、養蜂の天敵であるオオスズメバチを集団で取り囲んで熱死させる方法も備えているなど外敵に対しても対抗する術を持っている。ならば、このニホンミツバチの特徴を利用してセイヨウミツバチを改良すればよいのではないか? しかし、様々な試みをもってしても両種間に雑種はできず、交配育種ではニホンミツバチの有用形質をセイヨウミツバチに導入できなかった。ニホンミツバチをセイヨウミツバチの改良に利用する研究は進展していなかったのだ。

ニホンミツバチ
セイヨウミツバチ

三種類の方法を併用することで確度を上げた、ゲノム配列決定のスキーム

はるか昔から改良を続けてきたセイヨウミツバチに一種の閉塞状態が訪れたとき、そこに突破口をうみだしたのが国立研究開発法人農研機構、東京農業大学、京都産業大学の三者である。共同で、京都産業大学で飼養されているニホンミツバチのフルゲノム配列の解読に取り組んだ結果、約1年をかけて解析に成功した。この成果をセイヨウミツバチのゲノムと比較することで、両種の病気に対する抵抗性などを遺伝子レベルで解析でき、有用なミツバチ利用技術の開発に貢献できる。

しかし、どのようにしてニホンミツバチのフルゲノムを見出したのだろう? ヒントは「ハイブリッド」にあった。現在、DNA配列を決定する方法は複数あるが、そのいずれかに拘泥せず、それぞれを組み合わせることで解析の確度を高めたのだ。

まず、短いDNA断片の配列データを想像してみてほしい。短い配列がゆえにエラー列は起こりにくいだろう。一方長いDNA断片ではどうか? そう、エラー率が比較的高くなるのだ。しかし一方で、長いDNAデータを得ることは、ゲノム上の繰り返し配列の領域を正確に決定する際に必要となる。いわば、短いDNA断片による「データ」と、長いDNA断片による「ストーリー」のコラボレーションと言えるのかもしれない。そこで、
●短いDNA断片の配列データ(エラー率は低い)
●長いDNA断片の一部を読み取ってコンピュータでつなげた長い配列(エラー率は低い)
●長いDNA断片を直接読み取った配列データ(エラー率が比較的高い)
という、3つの異なる手法で得られたデータを合わせることにしたのだ。それにより、これまでより質の高いゲノムデータが得られた。

私たちはつい正解をひとつに求めがちであるが、科学に制約はない。持てる様々な武器を駆使して科学を前進させることが、世の中の産業を前進させていくのだろう。意外に知られていない事実だが、ミツバチの産業上の役割は、ハチミツをつくることだけではない。実は様々な農作物の約70%の種類がミツバチによって受粉されている。ミツバチを見つめるプロジェクトは、世界の農業を見つめるプロジェクトでもあるのだ。

ミツバチを守り、農業を守る取り組みは続いていく

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