ハテナソンという、
知的挑戦

アイデアソン、ハッカソンに続く、京都発の新たな知的プロセスがいま、社会に普及中

「問い」が変えてきた、世界の歴史、私たちの暮らし

一方、「問い」の技術を学ぶ機会は少ない

「ハテナソン」という、教育、社会への新たな試み

集い、視点を交換し合い、みんなで「!」を生み出す挑戦が始まる

「問い」が、私たちの世界を変えてきた

「音楽プレーヤーも、電話も、ネットコミュニケーションも、それぞれ別々の端末である必要があるのだろうか?」
アップルはこれをひとつにする、とスティーブ・ジョブズが多くの聴衆の前で発表したのは2007年のこと。
現在私たちが当たり前のように使う“スマホ”誕生の瞬間だった。
またここには、「スイッチやボタンっているの?」という問いも含まれていた。ディスプレイにタッチすることで操作も文字入力も可能にするものであり、それまでの携帯電話や小型端末に必須とされ、画面の大きさを狭めていた“常識”を一瞬で覆した。

「私たち市民のことは市民で決めればいいのではないか? 王様や貴族ではなく。」
18世紀後半まで続いた絶対君主制を覆したフランス革命も、突き詰めていけばこうしたシンプルな問いから。

私たちの世界を変えてきたのは、こうした「問い」の数々。

しかし、問いとは実に難しい。
著名な経営学者、ピーター・ドラッカーは、「私たちの持っている知識は質問の結果です」と言い切った。
また、「問いを発することができないために必要な情報と社会的支援を得られない貧困層が…」と語った学者もいる。“常識”や“アタリマエ”といわれることからも想像できるように、自分たちがこれまで生きてきた環境や自分たちを取り巻く状況を疑うことは非常に難しい。そして意外にも、この重要な技術を訓練するための専門的授業や機会もほとんどなかったといえるだろう。

実は1990年代に、アイデアソン、ハッカソンという2つの手法が米国で生まれた。アイデアを生むマラソン、という造語のアイデアソン。ハック(様々な解決や改善の手段)を生み出すマラソン、という意味のハッカソン。いずれも、エンジニアや専門家に限らず、いまやビジネスパーソンや学生にも広く用いられている。しかし、ある意味これらは手法・手段である。これらの前に、そもそもの「解決の対象を発見する」ための「問い」がいるのではないか?
そのことを重要に考え、「ハテナソン」という新たな概念と取り組みを生み出したのが京都産業大学生命科学部の佐藤賢一教授である。

※「ハテナソン」クリエイティブ・コモンズ・ジャパン登録済

「ハテナソン」のワークショップの様子(京都産業大学 サギタリウス館)

「ハテナソン」という創造。教育の現場が変わる

「一人一人の発想を尊重し、かつ民主的な方法のもとで、質問や課題、問題等を発見し言語化したい」と佐藤教授は語る。「マラソン」だけに、思いついたことや発想に対しどんどん積み重ねや発展、整理などを行いながら「問い」を広げ、整理していく。個人の努力も必要だが、集団でそれを行うことにより、互いを刺激し合い、元気づけ合い、自分にはない視点を交換し合いながら、ブラッシュアップしていくのだ。そのため、
●メンバー同士を知り、まずは打ち解け合うアイスブレイキング
●問いを発する前に、課題を理解し、互いを刺激し合うためのグループディスカッション
●自由に「問い」を出来るだけたくさん書き出す
 (この時点では話し合ったり、評価したり、考え込んだりして発想のリズムを止めないことがポイント!)
●メンバーから出揃った「問い」の分類や書き換え、整理
といった具体的なプロセスや工夫が細やかにガイドされている。
また、課題の種類によっては、ババ抜きなどのゲームやアクティブ・ブック・ダイアローグ®といった最新手法も用いて、参加メンバー一人ひとりの脳内活性やメンバー間の対話を活性化する工夫も導入されている。

例えば近年話題の「SDGs」は国連が定めた17の目標から成る「持続可能な開発目標」であり、国際機関や政府に限らず、企業や教育機関、そして一人ひとりが関わっていくものとされているが、実際にそれを「自分ごと」として捉え、行動できている人も組織も少ない。そもそも分からないこと、自分にとってどう関係するのか、何ができるのかなど、「問い」を通じ、理解を深め、具体的に自分の行動へと落とし込んでいくことができる(そして、ありがたいことに自分にはなかった気付きまでたくさん手に入れて帰ることができる!)。

佐藤教授はこの取り組みを大学内だけでなく、出張講義として社会人向けや小中学生向けなど、広く社会に広げようとしている。2017年にはNPO法人ハテナソン共創ラボを立ち上げ、メンバーの木村成介教授(京都産業大学生命科学部)らと協力しさまざまな場でハテナソンの実践や、「ハテナソンという場」を取り仕切り活性化する存在であるファシリテーターの養成支援を行っている。メンバーや対象領域も次々と広がっており、例えば、京都市内の小学校では、6年生対象のハテナソンが実施され、「鎌倉時代の武士の成立 」という小学生にとってはやや難解な、そして社会科の教科書では詳細にまでは語られることのない課題について、活発な問いが次々生まれ、生徒たちが理解を深め、試験の点数が向上しただけでなく、もっと知りたいという意欲も引き出されたという。

問うことが知識を増やし、視点を増やし、新たな挑戦をうみだしていく。ハテナを生み出すことは、自分自身の観点や知識を増やし、人と、社会とつながっていくことだといえるだろう。ハテナソンはそのための強力な知的ツールなのだ。教育、そして社会が、「問い」から変わりつつある。

さまざまな「視点」が集まり、よりよい「問い」をうみだしていく

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