複製技術の共有が、
人類の科学を進化させる

PCRクローニングを効率的に行うための新しいベクターが誕生

クローニング技術は、生命科学、ひいては再生医療などの発展につながる

「ベクター(媒介)」の開発でクローニング技術の効率向上へ

技術のシェアが世界の研究を加速

開発した知の財産を、世界共有の財産へ

クローニング技術の向上が、健康長寿を豊かにする

「クローニング」というと、クローン人間やクローン動物のことを想像する人が多いかもしれない。クローン動物で有名なものとしては、1996年にスコットランドで生まれた世界初の哺乳類の体細胞クローンである雌羊「ドリー」がいる。体細胞の核を除核した胚細胞に移植する技術によって誕生し、6歳で死去。その剥製はいまもエディンバラのスコットランド博物館で大切に保管されている。

「クローニング」と聞くと、難しい技術のようだが実は人類は古くからこの「クローニング」の理論は知らずとも使いこなしてきている。サツキなど私たちに身近な植物でいえば、その枝を切り取り、別の土壌に植えると、元々のサツキとは別のものとして根を生やし、枝を伸ばし、美しい花を咲かせていく。挿し木により、細胞を複製し、新たな生命体をうみだしているのだともいえるだろう。しかし今回の話題である「クローニング」は、様々な生命科学の実験・開発の基盤となる「遺伝子のクローニング」を指す。これは「特定の遺伝子を増やし、複製する技術」のことである。

iPS細胞もクローニング技術が重要である。このクローニング効率を高めることがその進展につながるといわれている。2014年に世界で初めて、実際の患者への臨床研究として、網膜色素上皮細胞の移植手術が行われただけでなく、将来的には、腎臓や心臓といった臓器を丸ごとつくり出すこともできるのではないかという期待も寄せられている。クローニング技術とは、こうした再生医療の発展をはじめ、生命科学全般の進化を左右する、重要な基盤技術なのだ。

世界初の哺乳類の体細胞クローン羊「ドリー」 (画像はイメージです)

「媒介」に着目。その共有が世界中の研究を加速させる

この重要なクローニング技術を進展させるために、「媒介」に着目したのが京都産業大学生命科学部の本橋健教授である。ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction, PCR)は、特定の遺伝子を増幅する遺伝子工学技術の基本であるが、このPCRにより増幅した遺伝子はベクター(媒介)と呼ばれるDNAに組み込まれ、様々な研究に用いられる。「PCR増幅した遺伝子を効率的にベクターへ組み込めるよう」、効率の良いクローニングベクターの開発に取り組んだ。

まず「組み込み」には、大きく分けて「TA-クローニング」、「平滑末端クローニング」という2つの方法がある。下の図を見れば視覚的に理解しやすいだろう。
●突出端の断片を生じる場合(図左・オレンジ色部分/凸凹があるイメージ)
●平滑末端の断片を生じる場合(図右・オレンジ色部分/平坦なイメージ)
が、増幅遺伝子の断片である。
これに対し、青色部分のように効率よく組み込まれる(いわば“きれいにはまる”というイメージ)ベクターが望ましい。本橋教授は試行錯誤の末、既存の制限酵素を利用して、遺伝子を簡単に効率よく組み込めるベクターをつくりだし、利用できるようにした。さらにいえば、「2種類どちらのタイプでも適応できる」ベクターまで開発。研究者にとって非常に作業効率の良い3種のクローニングベクターを開発したのである。

しかし、これらの財産が一部の研究者のものであれば、生命科学への影響もまた一部にとどまるだろう。本橋教授はこの3種の新ベクターを人類の共通資産として、米国のプラスミドレポジトリーであるAddgeneに寄託した。研究者にDNA分子を分譲する非営利組織であるため、世界中の研究者が自由に入手できるのだ。共通資産の活用を通じ、世界中で進められている再生医療や生命科学の研究が、世界中で加速していく。研究成果をシェアすることは互いの研究を加速させることであり、ひいては人々が利用する科学技術の発展につながるのだ。いま、モノのシェアが話題だが、こうした「知のシェア」も、人類を進化させていく。クローニングベクターの「シェア」はその貴重な一歩である。

PCRにより増幅した遺伝子断片のクローニング法

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