蒔絵(まきえ)の美が世界を救う?
環境対応技術と伝統文化がうみだす未来

京の漆芸家が、漆ブラック調バイオプラスチックをNECと共同開発

プラスチックが生命への凶器に?

NECが取り組むバイオプラスチックが解決する未来

そこに伝統文化が果たす役割とは

技術開発から技術の普及へ。「人の心をどう動かすか」が環境問題解決のカギ。

環境の危機、人類の危機。最新技術が“伝統文化”とタッグを組んだ。

2018年2月、衝撃的なニュースが世界を飛び交った。エリザベス女王が、イギリス王室の領地内でのプラスチックストローとペットボトルの使用を禁止したというものである。プラスチック問題はいまや、世界の緊急課題。本サイトの別記事で紹介した「太平洋ゴミベルト、46%が漁網、規模は最大16倍に」や、海中で微細化されたプラスチックをプランクトンが食し、食物連鎖で我々人間の体内に取り込まれるといった問題も世界中で懸念されている。NEC(日本電気株式会社)は、2006年にバイオプラスチックを外装全体に採用した携帯電話を発売するなど、環境対策への取り組みを長年続けてきている。地球温暖化の要因とされるCO₂排出量の抑制に向け、トウモロコシを原料とした植物性プラスチックなどの自社開発を進めてきたのだ。しかし環境問題は技術の開発に加え、「技術の普及」も重要となる。モバイルに、PCに、インテリアに、家電に、自動車に、そして日用品に。バイオプラスチックがその機能だけでなく「見た目の美しさや文化的な魅力」を併せ持つことで世の中により普及し、これまでの化学的なプラスチックから自然にやさしいプラスチックへの転換が図られる。そこでNECが着目したのが京都の伝統文化であり、それを現代に継承する京蒔絵(まきえ)師、京都産業大学文化学部教授の下出祐太郎氏であった。

下出祐太郎氏の蒔絵を表現したバイオプラスチック。

漆黒の美、蒔絵の美。日本の美が世界を救う。

下出祐太郎氏はさまざまな顔を持っている。漆芸家・京蒔絵師としては、多くの作品を世に出すとともに、即位の礼や大嘗祭の神祇調度蒔絵、第61・62回伊勢神宮式年遷宮御神宝蒔絵を手掛けた。2005年に開館した国立京都迎賓館では60点もの漆工芸調度品を担当。また、詩の創作活動や漆芸の研究、日本の伝統文化の継承にも努めている。バイオプラスチックと伝統の融合は、伝統の継承発展に情熱を燃やす氏にとってやりがいのある挑戦であった。しかし上の写真が示すとおり、蒔絵の美は精緻にして複雑精妙。金粉や銀粉などを文字通り「蒔く」ことにより、立体的な美を実現させている。製品として普及させるための「蒔絵調印刷」での美の再現は容易ではなかった。まず、漆特有の「漆黒」の表現。そして精緻さと立体感の再現。さらにはその美しい外観を保持するための高度な耐傷性…NECの研究陣は下出氏と意見を交わしながら、その課題を一つひとつクリアしていった。研究開発をクリアした今後は、その量産化・実用化に向け、樹脂材料メーカーとの連携体制の構築に入るという。伝統の美が人を魅了し、エコロジカルな暮らしを実現していく。そんな未来はもう間もなくだ。

漆芸家、詩人、教授…多様な顔を持つ下出祐太郎氏。

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