「よそ者」を受け入れるか抑制するか。
植物ゲノムの進化の秘密に迫る

植物の核ゲノムへ入り込んだ塩基配列のDNAメチル化修飾による制御機構が報告される

生命の中に含まれる、「別の生命体由来」のDNA

「よそ者」を受け入れ、生命は変化する

「核ゲノム」に取り込まれるか否か。その判断が進化を変える

生命に秘められた「よそ者」取捨選択という進化の鍵が解明される

「よそ者」を受け入れる多様性は、我々人類の起源?

近年、「多様化」という言葉が社会のキーワードとなっている。自分たちとは異なる(と思われる)他者を排除し、単一化・安定を求めるものを閉鎖的社会とするならば、他者を受け入れ、変化をするものが開かれた社会だ、ともいえるだろうか。

実は我々人類という生命体も、そもそも「他者の受容」から始まったといわれている。人類を含む動物・植物・菌類・原生生物は「真核生物」と呼ばれている。この真核生物の細胞内には、核とよばれる部分と、それ以外の細胞小器官がある。細胞小器官の分かりやすい例をあげれば「葉緑体」や「ミトコンドリア」など。この2つの単語については、中学の理科で教わったことを覚えている人も多いだろう。真核生物の原点をさかのぼれば、初期はバクテリアと呼ばれる細菌。葉緑体やミトコンドリアは、「核」のもととなった細菌の“体外”から取り入れられた別の細菌たちだったということが定説である。

つまり我々人類はそもそも、複数の細菌、すなわち生命体がひとつになって(共生して)誕生した原点を持ち、その痕跡が細胞内に残っているというわけだ。当然、核が所有している固有のDNA以外に、葉緑体やミトコンドリアにも、それぞれ別の生命体として所有していた異なるDNAが存在していた。これらは共生関係が成立する過程で核に取り込まれていったのだ。しかし現在に至っても、葉緑体やミトコンドリアにはそれら固有のDNAが残っており、このようなオルガネラゲノムから核ゲノムへのDNAの移行は共生の成立過程にとどまらず、現在も継続的に起きていることが近年のゲノム科学の進展により分かって来た。

真核生物では、葉緑体とミトコンドリアは共生に由来すると考えられている

核ゲノムで見つかった「不活化」と「受容」の壮大なメカニズム

オルガネラからやってくるDNA断片は、核ゲノムにとっては外来のDNA、いわば「よそ者」だ。ごく少数は核ゲノムでも機能を獲得しゲノム進化の素材となる可能性がある一方、大多数はゲノム安定性を損ねる有害な効果を持つと考えられる。つまりこの「よそ者」を受容するか否かは進化の分岐を左右する大きなターニングポイントである。しかし、これらのオルガネラゲノム由来のDNA断片が、細胞核内にある核ゲノムに移行した際にどのように制御・抑制され、最終的に核ゲノムに受容されていくのかについては未解明な点が多く残っていた。その解析に挑戦したのが、京都産業大学 生命科学部の吉田貴徳研究助教と河邊昭准教授、東京大学による共同研究チームだった。

この研究では、シロイヌナズナやイネといった、オルガネラゲノムと核ゲノムのゲノム情報が揃っている17種の植物をサンプルに、バイオインフォマティックな手法を用いて、核ゲノムでのオルガネラ由来配列の塩基置換パターンを解析した。ここでひとつ理解しておきたい言葉が「DNAメチル化」である。イメージ的に言うならば、DNAにメチル基(-CH3)が結合することにより、そのDNAの働きを制御する化学反応のことだ。研究チームでは、植物の核ゲノムに存在する葉緑体ゲノム由来のDNA断片がDNAメチル化修飾を受けることに着目し、このような修飾が進化スケールの時間の経過とともにどのように変化するのかを解析した。様々な実験と検証の結果見えてきたのは、移行後比較的新しい配列は強くDNAメチル化されているのに、時間の経過とともにメチル化レベルが低下しているという興味深い事実だった。つまり、移行後はまず不活化される傾向が高く、時間が経過するにつれてその不活化が軽減され、受容に向かっていくということだ。

人間社会でも「よそ者に冷たい」などという言い方をするが、生物の核ゲノムも、オルガネラから来たDNAを数百万年※になるかと思われる時間をかけて「身内」として受容しているのではないかと想像すると、生命という存在があらためて愛おしく、貴重な存在に見えてくる。

※d = 2μtより、オルガネラゲノムDNAとの分岐時間tは、遺伝的距離(d)を突然変異率(μ)の2倍で割った値。μ = 10-8〜10-9を仮定する。

今回の研究で明らかになった事象

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