アルツハイマー病、パーキンソン病…。
難病克服の鍵が「核」の中に見えてきた。

世界初!核内の分解標的タンパク質を核外に運び出すメカニズムが解明された

未解明の難病にどうアプローチするか

細胞核に不要なタンパク質が溜まると?

“排出”を管理する、高度な管理機構が見えてきた

溜まったら、排出する。健全を守るキーパーソンが、そこにいた。

細胞核の中に不要なタンパク質が溜まり、遺伝子の機能を阻害する!?

脳が萎縮していき、認知機能の低下などを引き起こすアルツハイマー病。手の震え・動作や歩行の困難など、運動障がいを引き起こすパーキンソン病。いずれも、原因がいまだに解明されない神経変性疾患とされ、研究が続けられている。かろうじて分かっていることのひとつが、細胞内での変化である。細胞質において病因タンパク質が蓄積され、細胞にとって毒性を持つ凝集体が形成されるという現象が、広く観察される病理所見として知られている。しかし、凝集タンパク質の毒性と疾患の進行の関係性は明らかになっていない。この難題を解き明かす鍵として注目され、米国科学アカデミー紀要(米国科学誌・略称 PNAS)にも掲載されたものが、京都産業大学の永田和宏教授、東京大学の平山尚志郎助教らのグループが発表した、世界初の発見である。臓器はもちろん、人間の体は全て無数の細胞から構成されている。そしてそれぞれの細胞の中には「細胞核」があり、その核の中に、人体の設計図である遺伝子などが格納されている。この細胞核の中に、病因タンパク質が蓄積されることで、この大切な細胞核に影響を与えているのではないかと考えられている。では、「蓄積されない健全な仕組み」とは? 彼らが解明したものこそ、その仕組みである。

高齢化が進む社会。アルツハイマー病の克服が重要。

核内から核外へ。“排出”のキーパーソンが解明された。

解明されたプロセスを極端に単純化していうならば、こうである。人体の設計図、遺伝子を格納する「核内」に不要なタンパク質が溜まってくると、「細胞質」という核外に排出される。この、細胞内の“品質管理機構”が発見のひとつである。永田教授と平山助教らのグループは、室温飼育が可能で比較検証を行いやすい線虫を用いてその事実を確認した。もうひとつの発見は、その管理機構のキーパーソンの存在である。細胞にとって毒性を持つ「分解標的タンパク質」は、具体名称を「ユビキチン化タンパク質」という。これを認識する「ユビキチン認識タンパク質UBIN」と、関連する因子「POST」※がキーパーソンではないかと考えたのだ。研究グループは、狙ったタンパク質の発現量を抑えることが可能な“RNAi”という手法を用いて線虫のUBINとPOSTタンパク質の発現量を低下させた。すると線虫の寿命が短くなること、そしてその場合、線虫の細胞核内には、細胞への毒性を持つユビキチン化タンパク質の凝集体が発生していることが観察された。核から細胞質にユビキチン化タンパク質を運び出す機構は、細胞や生体の恒常性を維持する上で重要な機構であることが明らかになったのである。アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患も、この機構の機能不全が関係しているのかもしれない。だとすれば、難病克服への階段を、人類はまた一段登ったといえるであろう。

※UBIN・POST(polyubiquitinated substrate transporter)複合体は、「郵便ポスト」になぞらえた名前。発見した「細胞核の外に届ける」働きにちなんで、永田教授と平山助教らのグループが命名した。

矢印部分が、ユビキチン化タンパク質の凝集体。

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