てんかん発生の
「目印」が発見された

側頭葉てんかんモデルマウスを用いた、新規の尿中揮発性有機化合物・バイオマーカー

てんかんの発作は、患者や家族の日々の生活を脅かす、不安要素

初期診断で、早めの検査と治療にむすびつける

着目したのは体内の物質変化。尿の検査で患者にも負担が少ない

てんかんが腸内細菌の変化を誘導。尿から検知できる

てんかんという、私たちの日常生活をおびやかす存在

私たちの脳には、およそ1000億個ものニューロンとよばれる神経細胞が張り巡らされている。このニューロン間で行われる電気信号の伝達こそが、ニューロン間における情報伝達や情報処理を可能にしているのだ。具体的にいえば、まず神経細胞体で起こった電気信号が、軸索と呼ばれる長い突起を伝わり、その終末部(シナプス)で化学信号に置き換わる。その化学信号が次のニューロンに伝達され、引き続き電気信号に変換される、というプロセスだ。こうした一連の信号伝達、すなわち無数の電気的活動が私たちの脳の中で常時行われているのである。てんかんとは、こうした電気的活動に関係するものであり、脳内の神経細胞の過剰な電気的興奮に伴って、意識障害やけいれんなどを発作的に起こす慢性的な脳の病気である。この過剰な電気的興奮を記録するために、脳波による診断が行われている。

ただ、一口にてんかんと言っても、その中にはさまざまな分類がある。まず、その発作の原因となる疾患が見つかっていない突発性てんかんと、原因がはっきりしている症候性てんかんの2種類がある。症候性てんかんの原因としては、脳梗塞・脳出血、脳腫瘍、脳炎などが知られており、近年,高齢化に伴い,高齢者のてんかんも増える傾向にある。また、てんかんの発作は、その症状から2つに大きく分けられる。脳全体が一気に興奮する全般発作と、脳の一部から興奮が始まる部分発作である。全般発作は、手足をガクガクと一定のリズムで曲げ延ばしする間代発作や、手足が突っ張り体を硬くする強直発作、非常に短時間の意識消失が突然起こる欠神発作、全身や手足が一瞬ピクッとするミオクロニー発作に分類され、部分発作では、感覚や感情の変化、特殊な行動などいろいろな症状があらわれる複雑部分発作などが知られている。

治療の基本は薬物療法であり、てんかん患者の7-8割において発作が止まる。しかし一方で、薬により発作をコントロールすることが困難な、難治てんかんがある。このように発作をコントロールしづらい場合、「いつ起こるか分からない」というリスクを抱えたまま、患者やその家族は不安な日々を送らざるを得ない。小児では発達や就学、成人では就労や自動車運転、女性では妊娠や出産など、生活上のさまざまな問題に対する継続的なサポートを必要としているのだ。

さらに、意外と知られていない事実であるがイヌの死亡原因の第4位は、てんかん発作である。言葉でコミュニケーションをとることが難しい動物の場合、病気の発見が遅れることが多く、特にてんかん発作は、ひどくなってから見つけられることが多い。さらに動物の場合、体内に対し侵襲性のある検査は、麻酔を必要とすることが多く、てんかん診断のために脳波を測定する場合にも全身麻酔を必要とする。てんかんは、人間だけでなくペットや動物まで含む、私たちの日常生活に対し、不安や影響を与え続けてきたのだ。

てんかんの発作が事前に分かれば、出かける際の不安は軽減できる

尿検査の実現化が、発作の事前予知と、その先のより良い暮らしをうみだす

てんかんの診断が、もし尿検査でできるようになったら?
その可能性に道を開いたのが、京都産業大学生命科学部による新発見である。同学部の加藤啓子教授と藤田明子研究助教らのグループは、2019年7月、「側頭葉てんかんモデルマウスを用いた、新規の尿中揮発性有機化合物・バイオマーカー」の発見を発表した。

彼らはまず、情動中枢として知られている扁桃体の外側基底核に電極を挿入し、辺縁系回路(海馬→視床前核→大脳皮質帯状回)を刺激することでてんかん発作を誘導する、側頭葉てんかんモデルマウスを作成した。このてんかんモデルマウスの尿を採取し、尿中揮発性有機化合物を、微量有機成分の定性・定量が可能なガスクロマトグラフィー質量分析計を用いて検出した。

その中から、てんかんのバイオマーカー、すなわちてんかんの発生を示すサインとなる物質を見つけ出そうとしたのだ。発見された新規のてんかんバイオマーカー候補物質は15個。そのうちの13個の物質名を特定することに成功した。また、15個の揮発性有機化合物を3つのグループに分類することにも成功している。さらには、てんかんモデルマウスとそうでないマウスを、これら15個のバイオマーカーを使った主成分分析を行うことで「完全に分別できる」ことが判明したのだ。

さらに追究は続いた。物質名が特定できた13個のバイオマーカーが尿中の最終代謝産物であることを理由に、てんかん発作が影響する生体内での代謝システムを逆行性に探ったのだ。その結果、てんかん発作がトランス硫酸化、メチオニンーホモシステインサイクル、ヒスチジン代謝系に影響すること、また、腸内細菌の脂肪酸代謝や解糖系に影響を与えていることが見つかってきた。てんかん発症で腸内細菌の性質の変化が確認されたのは初めてである。また、今回用いた疾患モデルがマウスであり、マウスは哺乳類であること、さらに、13個のバイオマーカーのうち11個がヒトの尿、便、血、液、唾液等において検出されていることから、今回の発見は、ヒトや伴侶動物にも十分外挿可能であると結論付けられた。

この成果をもとに尿検査のキットをつくれば、見落としや誤診の防止につながるだけでなく、患者が比較的容易に検査を行えるようになるだろう。基礎研究から応用へ。その先に、てんかんと上手に付き合いながら、患者が「当たり前の日常」を送る未来が待っている。

16匹のてんかんマウスと15匹の手術後未刺激マウス(対照群)を調べた

シェアする

関連する学び

あわせて読みたい記事

化石

宝石になった恐竜の化石を発見、しかも新種 ゴンドワナ超大陸の恐竜について新たな手がかり、オーストラリアで発見 NATIONAL GEOGRAPHIC

絶滅危惧種

マサイキリンを絶滅危惧種に指定、IUCN 過去30年でほぼ半減したキリンの亜種、原因は密猟や生息地の減少 NATIONAL GEOGRAPHIC

安全

五感をクラウド! 人というセンサが津々浦々を変える IoTによるバス安全運転支援システムの開発が、社会を安全にする 京都産業大学
記事一覧に戻る