「見えない力」の追究は続く。
物質をつくるミクロの世界の仕組みとは

ペンタクォーク状態の有力な候補を理論的に予言

ペンタゴン(五角形)のように、5つの粒子がむすびつくペンタクォークの新たな可能性を発見

つながりの力を一つひとつ予言し、実証していくたび、私たちの世の中が解き明かされていく

理論的予言が実験の可能性をうみだし、実験が理論を証明する

人類から宇宙まで。この世を構成する「クォーク」

スマホをうっかり落として壊してしまった。
こんな失敗はよくある話だが、「そもそもなぜ落ちるのだろう?」「そこに何かの力が働いていなければ、モノは動かないはず」と考えた科学者たちがいた。
木からリンゴが落ちるのを見て「重力(万有引力)」のヒントを得たニュートンの逸話は、真偽のほどには諸説あるものの、「なんでもない風景」に見えない原因を探し求めてしまう科学者たちの性格を分かりやすく表したものだといえるだろう。

現代も、そうした科学者たちの挑戦は続いている。ミクロンというレベルをはるかに超え、いまや10-15m以下。まったく想像のつかない世界だ。
実は、重力以外にも「力」は存在する。例えば磁力が身近だろう。物理学者たちはこれらの見えない力を「基本相互作用」として4つに分類。〈重力相互作用〉〈電磁相互作用〉〈強い相互作用〉〈弱い相互作用〉とした。「弱い相互作用」とは、「電磁相互作用」と比較して力が非常に弱いことから分類されたものであるが、では、「強い相互作用」とは何だろう?
これが、今回発見された理論的予言と関係してくる。ちなみに、中学校や高校の授業で学ぶ「原子」は原子核と電子たちが「電磁相互作用」により結合したものである。これはまだしもイメージしやすいが、原子核の中の「陽子」と「中性子」を構成する「クォーク」と呼ばれる、粒子の最小単位と現在考えられているものたちは、電磁相互作用ではなく「強い相互作用」の一形態である「核力」でむすびつくとされている。私たちの目に見える世界から、目に見えない世界へ。見えてきた構造からまだ見ぬ構造へ。探究がミクロに迫れば迫るほど、相互作用の新たな性質も見出され、謎も探究課題も増えていく。

ちなみに、2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林誠、益川敏英両博士の功績とは、かいつまんで言えば、このクォークは6種類もあるということを指摘したことと言われている。これが、第一世代といわれるアップクォーク、ダウンクォーク。第二世代といわれるストレンジクォーク、チャームクォーク。第三世代といわれるボトムクォーク、トップクォークである。

陽子や中性子は通常3個のクォークでできている。一方、ペンタクォークは、5個のクォークでできている短命で風変わりな粒子だ。実は、一旦はその存在が否定されたのだが、スイス・ジュネーブ近郊の欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使ったLHCb実験で、不安定な粒子の崩壊に関する実験データを分析した結果、否定されたものとは別のペンタクォークが発見された。「この発見は、原子核を1つにまとめている強い相互作用の理解において新たな時代を開くものだ」と言われている。

我々の宇宙の、4つの基本相互作用

理論と実験が協力しあい、この世の中は解き明かされていく

短命で風変わり。しかし、こうしたペンタクォークの形が他にもないのかと追究していくことで、この世の中を構成している「力」の性質が次々と明らかになっていく。科学者たちの追究はいまも続いている。

2019年7月、京都産業大学 理学部物理科学科の山縣淳子准教授は、日本原子力研究開発機構(現所属:大阪大学核物理研究センター)の関原隆泰研究員と共同研究を行い、ある発見をした。理論的予言のため、今後の実証が待たれるところであるが、ペンタクォークの新たな可能性を見つけるものとして注目されている。

強い相互作用は、クォークで構成される粒子(ハドロンと総称)に発現する。強い相互作用を解明するためのひとつの鍵が、複数のハドロンが強い相互作用で束縛した、ハドロン分子状態である。なんと、ハドロン分子状態はそれぞれの粒子の質量を足した値よりも軽くなる。既に、いくつかのハドロン分子状態の候補が実験で見つかっており、例えば、過去の報告によると、Λ(1405)粒子とよばれる候補は、反K中間子と核子(陽子・中性子)、Ds₀(2317)粒子は反K中間子と反D中間子のハドロン分子状態と言われている。

今回、『Physical Review C』に発表した論文で山縣准教授らは、反K中間子と反D中間子と核子が1つの束縛状態となった新しいハドロン分子状態として存在することを理論的に予言した。この状態は3つの粒子の質量を合わせた値、Λ(1405)粒子と反D中間子の質量を合わせた値、さらに、Ds₀(2317)粒子の質量を合わせた値のどれよりも軽い。しかも、7つのクォークのうち、2つの中間子に含まれるアップクォークと反アップクォークが「見えなくなる」ので、計5つのペンタクォーク状態に「見える」と期待されている。

この状態については、前述のLHCb実験や茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構にあるBelle IIでの実験でも検証可能である。「理論的に予言されたこのような状態を実験で観測することで、強い相互作用の理解を少しずつ深めていきます」と山縣准教授は語る。研究が理論をつむぎ、実験が証明する。科学者たちの挑戦は続き、協働がこの世の中を、さらに解き明かしていく。


※注釈
●ペンタクォーク(pentaquark)… 5個のクォーク(4個のクォークと1個の反クォーク)からできているとされる新しいハドロン。
●ハドロン(hadron)… クォークで構成される粒子の総称。3個のクォークからなるバリオン(baryon)とクォーク・反クォークからなる中間子が知られている。
●強い相互作用 … 我々の宇宙に存在する4つの基本相互作用の1つ。

反K中間子(K)、反チャーム中間子(D)、核子(N)の密度分布

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