欲しいものを、欲しい人がつくる。
スタイルを、もっと多様に

学生自身が欲しいものを開発する。「退色しにくく匂いもつきにくい」カラー剤のファブレス開発

衣服のように、ヘアカラーも季節やシーンに合わせて多様にしたい

退色するという構造的デメリットが日常のヘアカラーを困難に

欲しいものの「コンセプト」を描き、メーカーに開発依頼

大学の実践型開発にも、「コンセプト主導」の自由な商品開発の波が

個性や表現に多様性がうまれる時代、商品開発のスタイルにも多様性を

服やカバン、靴などといった「身につけるもの」のファッションはまさに十人十色。安価で多様なものが手に入れられることもあり、ファッションはまさに多様化の時代を迎えている。キャンパスやオフィスにおいても、かつては「制服」や「スーツ」が基調とされ、男性のサラリーマンであれば「みんながグレー」と海外の人々から揶揄された時代もあった。女性においてもさまざまな制約があり、ファッションには有形無形の制約が見受けられてきた。

こうした時代を変えてきたのは、一人ひとりの「もっと自分らしくしたい」という欲求である。SNSの普及もそれを後押ししたと言えるだろう。一人ひとりが自分のファッションを外部にシェアし、それに刺激された一人ひとりが、また一歩踏み出して自分のカラーを変えていく。「多様性の時代」とは、そんな日常の一歩が変えていくものでもある。

こうした時代に、また一歩踏み出したチームがいる。京都産業大学の経営学部のゼミ生たちだ。衣服や小物といったファッションは多種多様。ヘアースタイルも多様だ。だが、ヘアカラーについてはどうだろう。黒髪から一歩進んで茶髪。アッシュとよばれる、少しくすんだグレー色を足し、変化をつけるということも流行っているが、まだまだ衣服のように「全員がそれぞれ違う色」とまではいえない。さらにいえば、季節やシーンによって、衣服のように使い分けたいニーズもある。春ならば桜に映える軽めの色。夏ならば強い太陽光にも負けずに輝く強めのカラー、秋はしっとり、クリスマスシーズンならば…と、実に多様なニーズがあり、楽しみ方がある。衣服を変えるように、髪型を変えるように、ヘアカラーも変えることで新しい季節やシーンに一歩踏み出す気持ちも高まるのだ。

しかし、残念ながらヘアカラーには日が経てば「退色する」という特性がある。とはいえ資金に限りのある学生にとって頻繁に美容室に通うことは難しい。退色防止シャンプーという商品もあるが、わざわざお風呂場に行かずとも洗面台で気軽に処理できる商品があれば、ケアはもっと日常的な行為になるはずだ。もっと手軽に、もっとこまめに退色防止ができれば、カラーリングはこれまで以上に持ちが良くなり、浮いた費用でカラーチェンジの選択肢も増えるだろう。「私たち学生のようなお金も時間も限られている人が、もっとオシャレを楽しめるように」という声から、その商品開発は始まった。

商品コンセプトをまとめ、著名なヘアメイクアップアーティスト柳延人氏と相談

次々と強くなっていく「コンセプト」

開発を行った学生たちが所属する京都産業大学の経営学部では、近年「マネジメント」に重点を置いたマネジメント学科を新設。マネジメントに必要な知識を3つの学習領域「ドメイン」に編成し、分野を横断する学びを推し進めている。こうした中でも「価値共創のマーケティング」をテーマに、ゼミと企業をむすび、社会や顧客の課題解決となる商品を産み出す活動を行っているのが、上元亘(わたる)准教授が指導する上元ゼミである。

オシャレに割ける資金が限られている学生にとって、髪のカラーリングは悩ましい問題でもある。オシャレもしたい。市販のカラー剤を用いることはもちろんできるが、基本的にカラーは「退色」していく。しかし、髪質へのケアも大切にしながらカラーリングができる美容室は比較的高額でそう頻繁に通えるわけでもない。ゼミの仲間たちや周囲の仲間に聞くと、同じ悩みを抱えている人は意外に多かった。「既存の商品で改善点はないのだろうか」と調べを進めるうち、退色防止シャンプーの効果とちょっとしたデメリットや、ヘアスタイリング剤が髪に与えるヘアオイルの保全効果も見えてきた。

「ならば」と出てきた発想が、退色防止シャンプーとヘアスタイリング剤の「いいとこどり」である。
●退色防止の効果 ●ヘアオイルの効果
という「既存のものを組み合わせて今までなかったものをつくる」マーケティングに挑戦したのだ。
そして生まれたのが「洗い流さず退色防止ができるヘアスタイリング剤」である。
サイズは持ち運び用として手軽に。形状もポンプ式として適量を出しやすく、大事に使えるように。価格も2,000円台として学生が購入しやすくした。さらに、UVカット成分、リペア成分、フレグランスも取り入れた。タバコのニオイがつきにくいように、というユーザーならではの目線も入っている。

誰かが声を上げなければ、埋もれたままの「小さなニーズ」だったかもしれない。しかし、同じような思いを持つ仲間と議論し、一人ひとりの気付きを集約する中で、これまでにない商品コンセプトが生まれてきたのだ。
●退色防止シャンプーとは違い、洗い流さなくても良いので手間も省け、お出かけの服を着たままケアできる ●日々のヘアセットに使える ●毎日使うもので気軽に退色防止が出来る ●退色防止効果により美容院へ頻繁に行かなくて済む ●持ち運び用などサイズ展開することで多様性がある といったメリットを実現した。

コンセプトをまとめた学生たちは、開発協力者であるプリヴィレージュ株式会社の村田尚也氏とともに、東京でサロンや専門学校を経営し、美容業界の多方面で活躍している著名なヘアメイクアップアーティスト、柳延人氏(株式会社ウィロー代表取締役)を訪ね、ゼミで考案した「退色防止スタイリング剤」のコンセプトを提案。そのユニークさが高く評価され、商品開発への支援を快諾いただいたという。柳氏からは美容関連商品の特性や資金調達の方法、競合商品との差別化の重要性、プロモーションの方法など、有益な業界の最先端の情報やアドバイスを得て、今後は、製品デザインの決定や開発費の調達、メーカーとの商談、メディアの活用などより商品化に向けた具体的な取り組みが行われる予定だという。

こうした「企画主導」で自らのシーズ(ある組織が持つ“種”/例えば技術やノウハウ)にとらわれない開発手法を「ファブレス経営」といい、米国ではApple社が著名な例である。iPhoneなどの製品コンセプトを社内でまとめ、アジアをはじめとした世界中のメーカーに製造を発注している。(そのため、iPhoneなどの裏面に刻印されているのは「Made in ……」ではなく、「Designed by California」)。日本ではユニクロや無印良品などがこのファブレス経営を行い、幅広く「いま欲しいもの」をうみだし、世の中に提供している。大学ではこれまでもアクティブ・ラーニングや産学連携授業の一環として、商品開発の実践は広く行われてきたが、その多くは、「学内の理系分野の研究成果を活用」するものや、「ある企業との提携ありき」だった。今回京都産業大学の学生たちが行った、「まず欲しいものありき→その後提携先を探す」というファブレス開発が示唆するものは、そうした制約からの脱却であり、「あらゆる人が欲しいものをうみだせる」世の中へのシフトであろう。欲しいものがうみだされるのを、もう待たない。消費者は生産者となり、さらなる多様性社会が実現されていく。

開発商品「Frieese(フリーゼ)」。フリージアに「期待」という名を込めた

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