ブラックホールとは何か?
その追求から見えてきた空間の概念

光も重力に引張られる?引力のニュートンから相対性理論のアインシュタイン、そして…

万有引力が見つかった。すると、新たな疑問も見つかった。

光も重力に引っ張られるのか? その疑問が、矛盾の提示と突破口に

四次元空間という概念にも発展

光より速いものは存在しない。しかしそれは物質のこと。時空が縮むという発見

ニュートンの発見から始まった、重力と光の矛盾。そして思考実験

科学者というのは、実にさまざまなことに関心を持つ。いや、疑問を持つ、といってもいいだろう。17世紀に、リンゴが木から落ちるのを見て重力の法則に気がついたというニュートンの逸話があるように、科学者たちは「見えない世界」の仕組みに思いを馳せ、仮説を立て、それを実証してきた。面白いのは、先人の発見からさらに新たな疑問が出てくることだ。「万有引力」とよばれるように、重力があらゆるものを引っ張るのだとするならば、「光も重力に引っ張られるのか?」と疑問を持った科学者たちがいる。ラプラス、ミッチェルという、18世紀ころに活躍した2人の科学者たちだ。

実はこの話がブラックホールへとつながっていく。その理解を進めるために「思考実験」をしてみよう。仮説の実験を脳内でするだけでも、私たちは見えないものの可能性に踏み込んでいくことができるのだ。手に持ったボールを上に放り投げると戻ってくる。だが、重力よりも強い力で放り上げた場合、ボールはもう戻ってこない(実際、それを実現しているのが人工衛星を打ち上げるロケットだ)。この、地球の重力を振り切る速度は秒速約11.2km。「地球の脱出速度」とよばれている。ではボールでもロケットでもなく「光という物体」ならどうなるのだろう。光の速度とは秒速30万kmというとんでもない速さである。
物体間の重力は
●物体の質量が大きいほど強くなる
●物体間の距離が近いほど強くなる
という特性がある。太陽のように地球より大きい(約100倍)と、かえって重力は小さくなるのだ。しかし太陽の場合は質量が重いため、半径の影響を補って、地球よりも大きな重力を持っている。

というプロセスを経ると、●質量が大きく ●小さい天体 があれば、その天体からの脱出速度が、秒速30万kmという光の速度になることもあるだろうと、ラプラスやミッチェルたちは考えたのだ。光が脱出でき、私たちが住む地球の夜空にまで、私たちの目まで届くからこそ、その天体は「光って」見える。投げ上げたボールが落ちてくるように、光がその天体から脱出できないと、その天体は「真っ暗」にしか見えない。これこそがブラックホールの基本的な考え方である。

しかし、科学者たちの疑問や反証はまだまだ続いていく。

2019年4月に公開されたブラックホールの黒い影(EHT collaboration)

ブラックホール追求から見えてきた、どこでもドア理論

ラプラスたち自身も、実際に存在するとは考えていなかったブラックホールだが純粋に理論的には「あり得る」話ではあった。しかしその理論が覆るときが来る。20世紀に入って、アインシュタインが「光の速度はそれを測る人の速度に関係なく一定である」ことを突き止めたのだ。
●光の速度はつねに一定
●光より速く走る物体は存在しない
どんなに速く追いかけたとしても、光に追いつくことはできない。この不思議な理論が有名な「特殊相対性理論
」である。この理論もまた、青年だったアインシュタインの「光を光の速度で追いかけたら、光はどう見えるのか?」という、ある意味無邪気な好奇心から生まれたのだ。こう考えると、科学者とは非常に地道で高度な検証を行う人たちであると同時に、誰よりもロマンチストで、誰よりも子どものように無邪気な存在であるといえるかもしれない。

19世紀末に行われた実験では、光をどんなに速く追いかけても、光の速度は変わらなかった。だが、そこにひとつの解決をもたらした思考実験もまた、アインシュタインによるものだった。それは、思考の壁を突破する、ものすごい大転換だった。
「速度が変化しないなら、変わるのは時間と空間しかないではないか」
違った速度で運動している人は、それぞれ違った時間の流れ・空間の尺度をもっている、としたのである。

17世紀に万有引力を発見したニュートンは、物質の存在や運動は時間や空間に影響を与えることはないと考えていた。時間や空間は万人に一定のもの、大前提という考え方。これは我々の一般的な感覚にも近いものだ。しかしアインシュタインは、例えば光の速度の60%で運動している人の時間は、静止している人に比べて25%もゆっくり進むのだと、逆転的な考え方をもたらした。さらに、大質量の天体のまわりでは空間が曲がり、時間の進みが遅れると考えた。つまり、時空自身が運動するのだ。

ここで、ようやくブラックホールの話が見えてくる。光を引き止めているものは重力ではないし、重力である必要もない。天体の中心に向かって縮んでいく時空が光を吸収しているのだ。縮んでいく時空を下りのエスカレーターだとイメージしてみよう。普通はやってはいけないことだが、その下りエネルギーを逆に登っているのが光だ。光自身の速度は一切変わらない。だが、時空がそれを上回る速度で縮んでいくとき、光は引きずり込まれていく(ように見える)だろう。

こうしたブラックホールや重力、光に関する科学者たちの、年代を超えた発見の継承、疑問の継承が、宇宙だけでなく時空に関する概念すら変えてきた。我々が認識している3次元空間ではもはや認識できないものを「4次元時空」として考えられたのもこうした流れがあってのことであり、そこから、ワープ、すなわちどこでもドア的な発想もうまれてきたのである。

いまを生きる科学者たちも、そうした発見や疑問を継承し、思考実験を続けている。京都産業大学理学部の二間瀬敏史教授もそのひとりだ。ブラックホールや相対性理論の研究から見えてきた宇宙論における暗黒物質(ダークマター)、暗黒エネルギー(ダークエネルギー)の重力レンズを用いた観測的研究に情熱を注いでいる。「知れば知るほど謎が増えていく、謎だらけの宇宙。ですが、わからないことに挑戦することから思いもかけないアイデアが出てきて、真理に一歩ずつ近づいていく」醍醐味を伝えるべく、『ブラックホールに近づいたらどうなるか?』という思考実験の本を出版、また2019年には『宇宙の謎 暗黒物質と巨大ブラックホール』という書籍を出版した。科学に情熱を燃やすロマンチストたち。その問いかけと実験は、これからも受け継がれていくのだろう。

銀河の彼方へ。謎が見つかるたび、新たな時空の可能性が見えてくる

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