協力型アナログゲームを通じて、
京の未来の風景を考える

3年間の長期プロジェクトで京都の学生が取り組む「町なみのこれから」

いま、減少の危機に直面する京都の町家

「行動する社会学」現代社会学の長期プロジェクトが見出した答え

ゲームをしながら思考と対話を重ね、これからの町なみを考える

町家は都会の中でスローライフを可能にする装置。未来の町なみにどう生かすか?

町なみの均一化という現象を、ゲームを通じて考える

「ゲーム」で学ぶ、というと、パソコンやスマートフォンを利用したクイズ形式の問題を思い浮かべる人が多いかもしれない。また、ゲームというのはいかにも勉強と対立する概念で、「いつまでゲームしているの! そろそろ勉強しなさい」といった文脈で使われることも多い。だが、ゲームそのものを通じて学ぶことは非常に多い。
飛行機のパイロットや電車の運転士を養成するための「シミュレーター」もゲームの一種だ。上達には、失敗→振り返り→改善といったプロセスが伴う。実践で失敗するたびに死亡していては身が持たない。社会に与える迷惑も甚大だ。かくして人は、ゲームで擬似的に体験し、理解の深耕や実践での応用へ生かしていく。職業やスキル的なシミュレーションだけではなく、チームや協働のシミュレーションができるのもゲームのメリットのひとつといえるだろう。それは、ゲーム要素を多分にはらむスポーツによって、社会で発揮できる協働力が育まれることからも分かる。

こうしたゲームを、一見なんの関係もなさそうな京の町家継承を考えるツールにできないかという試みがある。町家とは古民家の一種で、町人の住む店舗併設の都市型住宅と考えるとよいだろう。江戸時代などの、大通りに面していた町家が京都にはいまも数多く残されている。同じ京都の大学、京都産業大学の現代社会学部で学ぶ学生たちは、この町家の現状を調査するうち、いくつかの課題に気付くと同時に、町家の減少による京の町なみの均一化も懸念するようになる。一方で、町家を愛し、リノベーションしながら現代のニーズに沿った形で京の町なみを「伝統的に、そして新しく」形作っていく人々の存在にも気付かされる。そうしたダイナミックな現実を、ゲームを通して疑似体験することで、自分ごととしての理解をさらに深めようとしたのだ。

京都の町家はいま、減少や解体の危機にある

協力し合う「ボードゲーム」で、問題を“自分ごと”化

一方で、読者の中には「ゲームって現実と乖離しているのではないの?」と思われる方もいるだろう。もちろん彼らもまずは「リアル」と徹底的に向き合うことから始めた。ゼミナールの指導員である山中千恵教授に指導を仰ぎながら、京都市役所、京都市景観まちづくりセンターなどにヒアリング。“建築、空間、まちに関する調査と提案を行う”民間団体からも町家の現状に対する聞き取り調査を行った。その後も、地域コミュニティの中核的役割を担っている京都信用金庫に協力を仰ぎ、三条会商店街でのフィールドワークを実施。こうした中で見えてきた「町家の活用事例」7件に対する詳細なヒアリング調査も行った。彼らが最初に抱いた疑問、すなわちテーマとなる問いは「なぜ、今この時代に町家を選んだのか」である。現代の暮らしの中では住みづらい環境であるにも関わらず、あえて町家に住む理由は何なのか。それを導き出そうとした。リアル、すなわち具体事例は、集まれば集まるほど多種多様になる。彼らはその都度、事例のポイントをまとめ上げ、抽象化。そして抽出された要素から、モデルとなりうる町家暮らしのパターンを示してみた。

かくして出てきたモデル像は以下の4つにまとめられた。
●不便なものも楽しむ「ていねいな」暮らし
  →京町家で暮らしたい4人家族
●町家が文化をより本物らしく引き立てる
  →京町家で自分の店を開きたい自営業の男性
●町家はコミュニティ作りの起点になると思っているから
  →京町家で展覧会を開きたいと思っているアーティスト団体
●歴史の連続性に身を置きたい
  →京町家でゲストハウスを開きたいと思っているオーナー
さらにこれらを、「町家は都会の中でスローライフを可能にする装置である」という仮説に集約した。

彼らは考えた。これらのモデルのように、町家ぐらしのニーズを持つ人々が社会のあちこちにいる。しかし現実の町なみは、こうした人々が、異なる住まい方をする人々と共につくっていくものだ。モデルの生き方を核としながらも、さまざまなニーズを調整しつつ町家、ひいては京都の景観について多くの人が“自分ごと”として考えるために何をすればよいか。それを実現するために採用したのが、冒頭で紹介したゲームである。あえてオンラインではなくボードゲームにすることで、参加者同士が考え、対話しながら、京の町なみや町家の文化継承の知識と知恵をシェアできるようにと考えたのだ。

ちなみに、多くのボードゲームではプレイヤーが競い合うが、このゲームではプレイヤーは競い合わない。カードをめくると進行していく「ボード上から町家が消滅し、町なみが均一化していく」というシステムがもたらす〈脅威〉に対し、プレイヤー全員が「協力し合い、それを防ぐ」のだ。

プレイヤーは区役所職員・大工・警察・消防士などに分かれる。役割分担をした上で、解体の危機にある町家の特徴と地区が持つ可能性をつかみ、自分が生活する地域のリアルと、ゲームに抽象化された出来事をむすびつけ、考えを深めていく。同じ課題に対して協働し合った「チームの仲間同士」だけに、ゲーム終了後にも、さまざまな気付きや今後の町なみや景観について深く語り合うことも期待できる。

リアルから導き出した課題がゲームとなり、この問題を“自分ごと”としてシミュレーションし学んだ人々が、またリアルに生かしていく。京都に限らず、町家に限らず、日本・世界の伝統文化を未来に生かすための英知をシェアし、高めていく小さなボード。しかしそこには無限の可能性が秘められている。

改善を重ねたボードゲーム。高校生にも実践してもらい、「輪」を広げている

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