大学を共創の場へ、
そして地域教育の場へ

情報理工学部の「ファブスペース(共創スペース)」を地域コミュニティとする試み

2018年、京都産業大学に誕生した情報理工学部、そしてファブスペース

工具は使い放題。“試作”放題

地域イベントで子どもの「ICT教育」の場へ。楽しみながら学ぶ

教えることで学生も育つ。楽しむことで次代が育つ。

使っているだけでは、ダメなんです

テクノロジーは、一般的には企業や開発者サイドの持ち物であると考えられがちだが、実は“ユーザー側が育てていくテクノロジー”は、無数にある。ユーザーとして体験して育った世代が開発者側に回ることもよくある。ビデオゲームでいえば、アメリカのとある大学生が黎明期のビデオゲームにはまり、それをもっと楽しむためにゲームを現在のようなグラフィカルなものに進化させたというエピソードも残っている。日本でいえば、かつてファミコンの登場に歓喜した世代はいまや40代。企業でいえば、開発陣の中心だ。

このように、物事には若いときから慣れ親しんでおくとよいことが多々ある。
現在日本政府は「Society 5.0」を打ち出し、情報と人間をむすびつけた人間中心の社会をうみだすべく、さまざまな施策を打ち出しているが、幼い頃からのICT教育もそのひとつである。2019年6月の文部科学省の報告書によると、「もはや学校の ICT 環境は、その導入が学習に効果的であるかどうかを議論する段階ではなく、鉛筆やノート等の文房具と同様に教育現場において不可欠なものとなっていることを強く認識する必要がある」と述べられている。鉛筆やノートと同じくらい不可欠な存在で、鉛筆やノートと同じくらい身近な存在へ。慣れ親しむための環境整備も重要だ。

かつて、(政府の言葉を借りれば)Society3.0とよばれる工業社会が隆盛であった。自宅にあるラジオや時計を分解したりしながら、工業的なモノづくりに慣れ親しんだ子どもたちは、その後日本の高度経済成長や、世界的なハイテク製品をうみだす日本企業の成長を支えるエンジニアとして活躍した。いま、Society5.0に活躍すべき子どもや若者が、かつてのラジオの分解のように、自由に試行錯誤できる場が求められている。

地域と大学・学生の交流イベント「サタデージャンボリー」での様子

自由に創造できる場は、自由に集える場

京都産業大学に2018年4月に誕生した「ファブスペース」は、元々あったコンピュータ理工学部を情報理工学部へと改組した際に誕生した。3Dプリンタやレーザー加工機、3D切削加工機を備えており、パソコン上で設計した立体的なデザインデータを3Dプリンタに送れば、複雑な形状の造形物を樹脂で短時間でつくることができる。スマートフォンのスタンドといった単純なものをつくるといった入門編から、センサーや動力源を組み込んだオリジナルの実験装置といった応用編までさまざまな挑戦が可能。課外活動でも材料費の負担のみで設備を利用できるという。

学生たちが自由に集い、共創した数年間からうまれたものは、身体の3Dスキャンと3Dプリントによる道具制作プロジェクトの体験や、アリ・ダンゴムシなどの微小生物の行動解析をする装置「ANTAM(アンタム)」などさまざま。
だが、このファブスペースの意義はそれだけではない。情報理工学部生のための場を超え、全学部生に開放されている。しかもその開設当初から、大学という垣根すら超え、地域社会にまで利用の機会が広がっている。たとえば2018年には京都府立京都すばる高等学校の生徒を対象に高大連携ワークショップを開催している。「コンピュータとデジタル工作機器でつくる年賀状」という、親しみやすいテーマで行われたワークショップは、デジタル工作機器を使ったものづくりに関する講義と、デジタル工作機器を使ったものづくりの楽しさを知ってもらう制作の2つのパートで構成された。最初は、「こんなこと出来るのかな?」と半信半疑で年賀状のデザインをスケッチしていた高校生たちも、レーザー加工機やデジタル刺しゅうミシンで自由に加工ができることが分かるにつれ、逆にアイデアも広がっていき、最後には立体的な年賀状や変化する年賀状などがうまれていった。

高校生相手だけではない。2019年には地域と大学・学生の交流イベント「サタデージャンボリー」にファブスペースの機器を活用。実はこの企画自体が「手づくり」。普段ファブスペースを活用する者同士がいつしかつながった有志の学生団体として自分たちで企画したものだ。小さな子どもたちが楽しめるよう、3Dプリンタなどでさまざまな生きものや植物の形(ピース)を作成。それらを子どもたちに、パズルのように組み合わせ、自由な発想で形をつくってもらえる場を提供した。少し高学年向けには、遊びながら、身の回りのものを組み合わせてものを作る「ブリコラージュ」が体験できる機会も提供。子どもたちがはしゃぎ回る様子を見ていた保護者からは、「安心して子どもを遊ばせることができた」「もし売っていたら、購入したい」「市販のものかと思っていたら、自作していると聞いて驚いた」などの感想が寄せられたという。

小さな一歩ではある。だが、ここで遊んだ感覚を子どもたちはきっと忘れないだろう。思ったよりも身近なものだということも。その楽しさ・身近さは身体に記憶され、次代のリテラシーを育てていく。上記の活動は、いまもバラエティを増やしながら継続されている。学生たちもまた、子どもたちに教えながら学び、さらなるアイデアを育てていく。学問も技術も、誰かのための限られたものではない。誰もが用い、楽しむためにある。誰もが集い、笑い合い学び合える知的なオープンスペースが増えれば増えるほど、この国の未来は楽しいものになるだろう。

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