神秘のベールに覆われた
宇宙の“ビーナス”の素顔に迫る

金星の大気の流れを再現する仕組みの開発に世界で初めて成功

惑星探査機「あかつき」、2度目の成功

シミュレーションと観測データの“ダブル”で、金星の謎を解き明かす

オープンイノベーションの推進で将来的には系外惑星の研究も

理論から、観測データから。2者の「同期」が分析を詳細に

世界初の金星気象衛星「あかつき」の挑戦

2010年2月、神奈川県に設置されたJAXA宇宙科学研究本部(現・宇宙研究所)。管制室でモニターを見つめるプロジェクトチームの面々からため息が漏れた。世界初の金星気象衛星として日本が打ち上げた観測衛星「あかつき」が長い旅を経て、金星上空の周回軌道に乗ろうと逆噴射をした瞬間、金星の影に隠れてしまいそれきり信号が途絶えてしまったのだ。このプロジェクトに大きな期待が掛けられていたのには理由がある。金星は地球の「お隣さん」に位置し、その美しさから古来「宵の明星」「ビーナス」などと愛でられてきたにもかかわらず、その実態はいまだ明らかになっていない。分析を阻むのは、その美しさとは裏腹に、金星全体を取り囲む濃硫酸の厚い雲。限られたデータを元に「大気大循環モデル」と呼ばれる大規模コンピュータシミュレーション(地球上の天気予報などにも使用されている)を用い、地表上の大気の流れを「理論的に推測」はしてきたものの、あくまで「モデル」。そこに、「実際の観測データ」を同期させることでよりリアルな分析へと進化されることが望まれていたのだ。特に「自転の約60倍」で金星上を吹き荒れる風「大気スーパーローテーション」は、地球の常識からは理解しがたい「大きな謎」であった。

美しく輝く金星。しかしそこには大きな謎が…

軌道投入失敗から5年後、
ついに始まった「観測」と「モデル」のコラボレーション

それから7年後、待望の成果が英国ネイチャー・パブリッシング・グループの学術誌オンライン版に掲載された。それが、より精細な金星大気の情報を得るために必要な、理論モデルと実観測データの「同化」システムの実現であった。実は「失踪」から5年後の2015年、「あかつき」は“一回きり”の軌道再投入のチャンスをものにし、金星上空の周回に成功していたのである。かつてプロジェクトチームの一員として嘆息をもらした京都産業大学理学部の高木征弘准教授は、慶應義塾大学などの研究チームと共に、これまでの観測データを理論モデルに同期。その実効性を証明し、長年追いかけてきた夢への入口をこじ開けた。「ベールの中が見られないのなら」、「理論的に推測」×「外部の観測」というダブルのアプローチで明らかにしようという試みがひとつの成果となったのだ。
そこには「地球シミュレータ」という外部とのコラボレーションも大きく役割を果たしている。JAXA、慶應義塾大学も含め、数々の提携による「オープンイノベーション」である。なお、2017年には高木准教授は京都産業大学に、世界の大学・研究機関で初めてともいわれる、惑星気象学をテーマにした「惑星気象研究センター」を開設した。慶應義塾大学をはじめ、京都大学、神戸大学なども参加し、共同で進めるこれまた「オープンイノベーション」である。「二酸化炭素が多い金星を調べれば、地球の気象の過去や未来が分かることも多い」と語る高木准教授。「チーム地球」ともいうべき観測チャレンジが、何百年も神秘のベールに包まれてきた「ビーナス」の素顔を解き明かそうとしている。将来的には金星以外の太陽系惑星や“地球外生命体”の存在が注目される太陽系外惑星へ調査対象を広げることも計画されている。

それまでの解析(左)と同期後の解析(右)

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