人体の中のグローバル社会!?
細胞内の隔壁は、つながりの場でもあった

オルガネラ(細胞小器官)間相互作用の可視化に成功

細胞の中に乱立する数々の独立国家「オルガネラ」

領土を区切るための膜は「国家間交渉」の場でもあったことが判明

未解明の難病の病態解明が期待される

この「関係性」の相互作用不全がアルツハイマー病などの遠因か? 研究進む

真核生物と原核生物を分ける特徴のひとつ、「オルガネラ」

生物は何億年もかけて進化を続けてきた。単細胞生物の原核生物がその端緒であるとするならば、細胞の中に複数の細胞小器官を持つことで、生物は「真核生物」へと進化し、複雑な機能をこなす動物や植物、そして人間へと進化してきたのだともいえる。この「複数の細胞小器官」を隔てるものが「生体膜」であり、異なる機能を持つ細胞小器官同士を「区画として分け」、「それぞれの機能を明確に発揮させる」役割を果たしている。逆に言えば生体膜がなければ、これらの区画同士が独立性を発揮することなく、それぞれの機能も際立たなくなるのだ、といえるかもしれない。ミトコンドリアや小胞体、液胞など、中学・高校の授業で聞き覚えのあるものたちが、この生体膜で覆われた細胞小器官、すなわち「オルガネラ」である。
従来、この生体膜は個々の独立性を維持し、異なる機能発揮を推進するためのものだと考えられていた。いわば国と国の境を隔てる国境、「壁」である。しかし最近の研究により、オルガネラ同士は相互独立・無干渉ではなく実は「互いに物質をやり取りしながら機能」していてそれが「個々の機能発現に寄与」する可能性が指摘されるようになってきていた。だがその全貌は未解明。「壁」と「交流」の実態解明が待たれていた。

細胞の中には多様なオルガネラが存在している。

スプリットGFP分子が、オルガネラの謎を照らし出す

山形大学の田村康准教授、京都産業大学の遠藤斗志也教授らの研究グループは、スプリットGFP(※)と呼ばれる分断された蛍光タンパク質を利用することで、複数の異種オルガネラ間の相互作用部位(コンタクトサイト)を、生きた細胞内で可視化することに世界で初めて成功した。スプリットGFPとは、文字通り「裂かれた」GFPタンパク質。GFPタンパク質とはそもそも緑色に光る蛍光タンパク質であり、数々の実験に使われてきた。これを2つに分断すると、当然光らなくなる。ただ、2つをそれぞれ異なるオルガネラに付与するとどうなるか? 「オルガネラ同士が近づくと、分断されたGFPも近づく」のである。つまり、光らなかったGFPが光ったとき、それはオルガネラ同士の接触を意味することになる。
こうした実験手法の工夫を重ね、研究グループはオルガネラの「動き」とオルガネラ同士の「接触の瞬間」を暴き出す。見た目に光る画像は、有無をいわさずその接触の瞬間と物質の交流を示すこととなった。
さあ、ここからである。実は、オルガネラに関する見解はその発見以来進化を続けてきている。当初は「隔てる壁」。現在は「交流する壁」。そして未来は「難病解明のための超えるべき壁」。アルツハイマー病やパーキンソン病といった、神経変性疾患の病態は、この「交流する壁」の交流不全、すなわち「オルガネラ間の相互作用異常」が遠因ではないかと示唆されているのだ。2018年4月に「Scientific Reports」誌にオンライン掲載されたこの発見は、その交流を、手に取るように視覚化した。この実態把握から次に何が見えてくるのか? 生物の謎解明、そして難病の病態解明に挑む、研究者たちのバトンリレーは続いていく。

緑に光る箇所が、発見された「コンタクトサイト」

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