地域と行政のはざまから、
貴重な人的リソースが見えてくる。

京都市北区役所が大学と連携。「健康長寿」の基盤づくりをめざす取り組み

社会学×健康科学。学問融合のハイブリッド

専門性と一般性、その双方に親和性のある貴重な人的リソースとは

人と人。融合の好循環が続いていく

「健康長寿のまち」をうみだす三者間の連携

異分野融合の学びが、行政や地域とさらに融合。「ハイブリッドの好循環」

「人間が幸福であるための条件の一つは『健康であること』」と、京都市北区の“健康長寿のまち・北区” 推進会議の会長は語る。そのため、「京都産業大学のプロフェッショナルな力を借りて進めたい」と、京都産業大学と京都市北区役所は連携協定を締結。2018年3月に大学において、両者の連携協定締結式が行われるとともに、地域の高齢者の方々を招いたキックオフ的なイベントが開催された。早歩きを3分して身体への負荷を高めた後は通常歩きを3分しながら呼吸を整えるという「インターバル速歩」(このプロセスを繰り返す)は、高齢社会において“健康長寿”実現に役立つ最先端の運動処方といわれている。この意義や実践方法を当日、地域の高齢者の方々に紹介したのが現代社会学部 健康スポーツ社会学科の濱野強教授。「社会学 × 健康科学」というユニークな融合的学問である。実践の中では、ただ「歩く」という手法だけでなく、無理のない運動の中で「笑顔や言葉を交わす」ことも紹介された。健康社会学の知見によれば、運動は単に「一個人の身体機能」のみに寄与するものではない。そこには心理的健康や、人と人をつなげ、コミュニケーションをうみだす効果も確認されている。ある研究者によれば、「人間の幸福度は資産でも地位でもなく、人とのつながりの量や質が最も大きく影響する」という研究成果も発表されている。社会学と健康科学が融合した専門的な学びが、さらに行政の施策や地域と融合することにより、新たな価値をうみだしていく。異なる学問領域の融合。そして学問と地域行政との融合。いうならば「ハイブリッドの好循環」ともいえる現象が、こうした連携から芽生えようとしているのだ。

北区オリジナル健康体操に興じる参加者たち。
インターバル速歩。すれ違いながら笑顔を交わす。

「学生」とは、たった4年間のハイブリッド・人的リソース

「ハイブリッドの好循環」はこれだけではない。実はより大きなハイブリッドの可能性がここには示唆されている。この提携では、今後の「健康長寿のまち・北区」の推進をにらみ、インターバル速歩マスターの養成・活動、健康に関するセミナーの開催、中学生など若年層を対象とした食育事業の推進に関する取り組みなどが構想されている。この取り組みには、研究者である教員たちだけでなく学生も関わっていくことが検討されている。これまで、大学生とは「高校を卒業して社会に出るまでの間」と考えられることも多かった。いわば、地域社会で育った若者が社会へ巣立つまでの中間地点のような捉え方だ。この一方通行的な考え方に対し、この取り組みでは双方向的な考え方が盛り込まれている。学生は、ついこの間まで地域の一市民(専門性と直接のかかわりが薄かったという意味で)であり、同時に高度な専門性も身に付けた存在である。例えばアメリカと日本という2つの異なる地で育ったバイリンガルが互いの文化の架け橋となるように、学生も「高度な専門性や施策を地域の人々の目線で伝え」、「地域の人々の気持ちや風習を分析して、施策の改善に生かす」という架け橋的な存在となりうるのだ。実際、既に北区の中学校で開催されたワークショップには現代社会学部健康スポーツ社会学科の吉岡美子教授と学生も参加。食べ物のエネルギー、栄養素を瞬時に測定するSATシステムを利用したカロリー計算や、理想的な朝食づくりに挑戦するワークショップを担当。普段の食事に専門性を無理なく取り入れ健康長寿の基盤を若年層から培っていく試みに会場が湧いた。まさに「自分の家族のような地域の人々の暮らし方」と「高度な専門性」を掛け合わす存在となっているのだ。さらには地域の人同士をつなげ活気をうみだす「身近な存在」でもある。こうした“ハイブリッド”の期間は、人にもよるが大半は4年間。「社会人への準備期間」とのみ捉えるにはあまりにもったいない貴重な人的リソースなのだ。その認識は地域だけでなく、大学という存在のあり方にも大きな可能性を示唆している。

行政・地域・学生が集結。集合写真に未来が見える。

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