「提案しない」というスタイルが、
町おこしに新しい風を吹かす。

幻の“京都産” 大豆を地域のブランドへ。積み重ねた信頼が、協働プロジェクトをうむ

「とにかく提案」から、「まず信頼」へ

「未経験×自助」という存在が、町民たちにある感情を引き起こす

助け、助けられる。相互作用が真の活気を町にうむ

課題は、共に見つけるもの。まずはみんなでチームになれるかどうか

町おこしに必要な、「はじめの一歩」

京都市というと、周囲を山々に取り囲まれた盆地の中に、碁盤の目のように整備された路地が行き交う「古都」をイメージする人が多いかもしれない。しかし、山の向こうにも「京都市」は続いており、歴史や伝統豊かな地域が存在する。京都市内の北方、山々の山間に位置する山里「静原町」もそのひとつだ。かつて西行や鴨長明が隠遁の地とした大原にもほど近いこの山里では、豊かな自然のなか農業が営まれてきた。しかし世間の流れ同様、この地にも高齢化などによる過疎の波が襲う。そこに、いまから3年前の2015年、「よそ者」が訪れた。京都産業大学の学生有志が結成した「静原応援隊」である。
実はこうした取り組みは珍しいものでなく、「課題解決型学習」を重視する諸大学により、全国各地に「応援隊」がうまれている。ただ、彼らが違ったのは「課題にこだわらなかった」ことだ。最初はただただ「お手伝い」からスタートしたのである。農作業の手伝い、伝統行事の手伝い、「わらじ編み」の技術継承、小学校のボランティア…。ある学生は毎週2日、小学校に通い続けた。そんな学生たちの行動が町民から受け入れられるまでには少し長い時間が必要だった。町民からすれば「きっと一時期だけ」の「よそ者」である。それでも彼らはお客さまとしてではなく自主的に、「役立とう」「近付こう」とし続けた。お祭りがあれば自主的に参加した。声を掛けられなければ、自分たちから話し掛け続けたのである。ある日、「そんなに農業を知りたいなら、自分たちでイチからやってみないと」と、休耕地を貸してくださる方が出て来た。約200坪。家2軒分程度の小さな農地で作物づくりに取り組む。そして1年…「耕運機使うんやったら、古いのあるで」「おいしいって言うてた紫蘇ジュースの作り方教えてあげよか?」「魚つかみ取り大会やるんやけど」…。何かが動いた。稲刈りに飛び入り参加させてもらった学生もいたという。当初は「すぐ逃げ出すと思てたら、なんや続けとるな。まぁそれなら…」というくらいの気持ちだったのかもしれないが、それでもいい。次第に近づいた両者の気持ちは行動をうんだ。小さかったその農地はその後、3倍の大きさにまで広がっていった。

農作業を手伝いながら教わった日々。
伝統行事「田の虫送り」にも参加。

「よそ者」への意識転換が、町おこしに新たな風を

だが、農業は簡単ではない。作物が思ったように育たないのは当たり前。自然の営みにも左右される。2018年7月に西日本各地を襲った豪雨では畑も水没。作物が全滅し、なぜか1本立ち残ってくれたひまわりが希望という自体にも陥った。壊れたネットや柵を修繕するための費用を賄わねば。野菜の販売という自助努力に対し、京都市内の小売店も「販売スペースの提供」という協力を申し出る。復旧のための知恵も町民から授けられる。「よそ者」たちは、未経験という弱さを強みに、自助努力という姿勢を追い風に、「支えてあげたくなる存在」として町民に受け入れられていった。実は全国の地域活性において近年、こうした「外部」の存在のあり方が取り沙汰されている。都会のコンサルティング会社に依頼したものの、十分にその地を理解しないままの提案が機能しないという問題。外部に頼るがあまり、地域の人々自身の成長や変化が起きにくいという問題。「課題解決」にこだわり過ぎた学生たちが近視眼的になり、「1年で解決できる課題」を設定してしまうという問題。地域住民からすると「外部の人の一方通行的コミュニケーション」にもどかしさが起こることもあった。今回の静原町の取り組みで注目されるべきは「いきなり課題解決を目指さず」「まず関係をつくる」ことからスタートしたことだろう。そこから「手伝い、逆に助けられる」という双方向的コミュニケーションも生じてきた。無理せず欲張らず、地域のことを一つひとつ好きになっていった学生たちからは、地元産品の外部への紹介や、肥沃な大地を生かした「消滅寸前だった京都産大豆の生産」といったアイデアもうまれていった。既に店舗で販売されているものもあるという。もちろん学生には卒業があり、静原町から巣立っていくものもいる。だが学生の強みは「次々と若者が入ってくること」。静原応援隊という、町に根付いた「器」に、若者が次々と流れ込んでくる。また教えてやろうかと町民たちが前のめりになる。学生の企画にも口を出す。面白いチームが、この過疎の町にうまれつつある。

「助け、助けられる」という関係が、地域全員を元気にしていく。

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