五感をクラウド!
人というセンサが津々浦々を変える

IoTによるバス安全運転支援システムの開発が、社会を安全にする

車両センサに加え、非接触の生体センサが、ハードとハートの双方をライブに分析

将来は自動運転技術への応用も

路面情報の収集まで踏み込めば、日本の道路事情まで変わる

車両、道路、人…小さなセンサが交通の「その瞬間」を捉え、変えていく

IoTとは何なのか

私たちが手にしているスマートフォンは既にかなり便利だ。友人とのやり取りにも支障はないし、暮らしも快適だ。もはやこれ以上の技術革新は必要ないのではないか、という気すらしてくる人もいるだろう。そこに次元の違う期待を感じさせてしまうのが、IoT。モノのインターネットといわれる、「Internet of Things」だ。現在でも、私たちのスマートフォンは振動型ジャイロスコープを内蔵し、所有者である私たちの振動、すなわち歩行数や階段昇降数などを計測し続けてくれている。1日、1カ月、1年間…と知らぬ間に積み重ねられていくこれらのデータは「ビッグデータ」とよばれ、私たちの健康管理に役立ってくれる。しかしスマートフォンでなくとも、こうした「計測機能」と「通信機能」を兼ね備えた小さなセンサさえあれば、世の中のありとあらゆる動きを計測できるのだ。自動車のブレーキに取り付ければ、ブレーキ制御のタイミングを計測し続けてくれるだろう。分析結果は、より良い燃費のための走行方法についてアドバイスをくれるだろうし、個人個人のデータを集約して分析すれば、「ブレーキタイミングと事故率の予測」すらできるようになるだろう。タイヤに取り付ければ、タイヤの減り具合や交換時期を自動的に発信してくれるだろうし、先のブレーキ分析データとむすびつければ、ブレーキの踏み方とタイヤの長持ちの関係すら見えてくるだろう。もしくはあなたのシャープペンシルにセンサがくっけば、書き込み状況と成績向上の関係を…と、あらゆる動きが「見える化」されていくのだ。

スマートシティ構想のなか、情報が都市を行き交う(イメージ図)

小さなセンサが暮らしや都市を変えていく未来

こうした動きで、人の捉え方も都市の捉え方もガラリと変わってくる。そのための試みに取り組んだのが「走行車両からのセンサデータを収集・処理するための階層化クラウドとその応用に関する研究開発」のプロジェクトメンバーたちだ。総務省戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)のひとつであるこの委託事業では、大阪電気通信大学を中心に京都大学、京都産業大学といった研究機関が連携。みなと観光バス株式会社や株式会社電通国際情報サービス、株式会社社会システム総合研究所といった企業も含めた産官学連携プロジェクトとして始動した。
舞台は神戸市とその周辺まるごと。位置情報を記録するセンサ、加速度を記録するセンサに加え、車速、エンジン回転数、累計走行距離、ブレーキの操作状況、冷却水温度…と、車両のありとあらゆる動きや状態を計測するセンサを取り付け、遠隔のデータベースにリアルタイムで収集する仕組みをつくった。この情報を、地図情報と組み合わせることでさまざまな都市の状況が見えてくる。例えば車両そのものの走行状況と、カーブの角度、車線の数、微妙な勾配といった道路状況が組み合わされれば、事故発生リスクの高い地点や、そうした場所での最適な運転ノウハウまで見えてくる。プロジェクトチームでは、「道路の荒れ」の情報も収集すればさらに精度の高い分析が可能になると期待をのぞかせている。「アスファルトは科学的には液体。日々変化するものだから」。振動の情報の日次比較やその日の気温情報などを組み合わせればそれも遠い夢ではない。
実はこのプロジェクトでは、車両情報、地図情報に加え、新たな種の情報収集にも挑んでいた。それが、「車両を動かす運転手」の情報である。運転席の背面に非接触型の生体センサを設置。運転手の心拍数や呼吸状態、視線や表情の動きなどをリアルタイムで計測し続けた。分析結果は多様さを増す。運転手の緊張状態や飛び出しといった不測事態による動揺なども手に取るように見えてきたのだ。生体情報の専門家との連携がこうした緊張や眠気といった“異常値”の判定も可能にしたのである。クラウド分析で危険を察知した際には瞬時に運転手の視覚へアラートを伝えられるよう、画面への表示形態をどうすべきかについても改善が加えられ続けたという。プロジェクトメンバーの一員、京都産業大学情報理工学部教授の秋山豊和は語る。「運転が終わった後に、熟練運転手の運転と比較してもらうことで運転技術の向上にも役立ちます」。導き出されたベストパフォーマンスのデータは、やがて導入されるであろう自動運転の安全精度向上にも大いに役立つはずだ。運転手を育て、運行システムに示唆を与え、利用者へのサービス向上へ。さらには目の届きにくい津々浦々の路面状況の改善にも。IoTとよばれる小さなセンサたちは、我々人間だけでなく、都市のあり方を一新していく可能性まで秘めている。

分析データについて議論する、みなと観光バスの亀谷氏(左)と秋山教授

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