5500光年も離れた「死にゆく星」からのサイン

そのカギは「赤外線高分散分光」。世界最先端の天文観測装置が、星の終焉を受け止める。

美しいはくちょう座の中に潜む、激しき衝撃波たち

衝撃波をとらえる、コラボレーション体制

衝撃波とは星の終焉の一光景。そこから星の一生が見えてくる

初めて認識された「サイン」を宇宙中に探れば、宇宙の姿がさらに明らかに!

広がり、むすんでいった「宇宙への想い」

明治30年、熊本の小さな村に生まれた少年が天文学に出会う。長じて宇宙物理学を志したその青年の名は、荒木俊馬。大正11年に来日したアインシュタイン博士の講演に出会い、その目は世界にも向けられていく。やがて、学問と社会のむすびつきを志して京都の北の地に新たな大学を創設する。古くから上賀茂神社の神官たちが仰ぎ祀ったといわれる「神山」の地である。この、京都産業大学創設の13年後に荒木は没するが、彼の想いを受け継ぐかのように、その後創立50周年を機に建設されたのが神山天文台である。私立大学では国内最大の「荒木望遠鏡」(口径1.3mの反射式望遠鏡)とさまざまな天文観測装置、実験・開発機器などが設置された。「学問と社会」「国内と海外」をむすぶことを目的に、開かれた天文台として研究が続けられていった。
時は過ぎ、現在。その志は世界の研究者たちをつなぎ、はるか5500光年先の星のサインを受け止めることとなる。神山天文台内に設置された「赤外線高分散ラボ(LiH)」は、東京大学大学院をはじめ国内外の研究機関や関連企業の研究者たちとコラボレートする組織であり、宇宙からのサインを「赤外線」「高分散分光」という技術の活用によりいかに分析するかを追求する世界屈指の研究機関である。彼らが取り組む数々のテーマのうちのひとつが、「はくちょう座P星」の分析であった。

赤外線高分散ラボがある、京都産業大学・神山天文台

コラボレーションによる技術開発が、星の終末を解き明かす

星の一生、すなわち星がどのように生まれどのように死んでいくかは、天文学の最大の研究テーマのひとつである。一般的に、星は宇宙に漂う星間ガスから生まれる。重力によりガスが集まり、高密度になることで温度が高くなっていく。一方で、集まったガスは圧力が高くなっており、逆に膨張しようとする。この「膨張しようとする内圧と、収縮しようとする重力のせめぎあい」が星の終末まで繰り返されるのである。はじめのうちは重力が勝っており、周囲のガスがどんどんと集まって、中心の温度が上昇する。そして、太陽のように(星によってはその何倍も)輝く恒星へと成長する。しかし、長く光り輝くうちに恒星はバランスを崩し、逆にガスを放出して、やがて恒星としての死へと向かうのである。終末期には爆発とも見て取れるほどの大きなガス放出が行われることは通説となっていたが、その詳細な把握と分析は未だであった。
2018年の8月に世界的権威のある天文学専門論文雑誌「Monthly Notices of Royal Astronomical Society」に掲載された成果発表によると、神山天文台の口径1.3m荒木望遠鏡を用いて、はくちょう座P星の観測が行われた。このときに望遠鏡と合わせて用いられたものが、神山天文台・赤外線高分散ラボが開発した、世界最高性能を誇る波長1ミクロン帯・近赤外線高分散分光器「WINERED」である。これには大きく2つの特徴があり、ひとつは近赤外線を用いていることである。通常、銀河系の中にある遠く離れた天体からの光を観測するには、天体と私たちの間に存在する星間物質と呼ばれるガスや塵による光の吸収が障害となる。従来の観測方法では捉えきれなかった領域の観測が、この近赤外線を用いることによって可能となる。また2つ目の特徴として、高分散分光技術を用いることにより、ガスの運動や化学組成の情報までが直接的に得られるようになったことである。これまで未知だった「星の終焉の姿」をさまざまな側面から分析できるのだ。ガスの空間構造や速度構造など、はくちょう座P星の終焉の詳細が明らかになれば、こうした天体が周囲の星間物質に及ぼす影響が理解でき、逆に、天体の誕生の姿についてもさまざまな考察が可能となる。また宇宙に散らばるさまざまな終末期の星も、これまで以上に詳しい観測が可能となるだろう。荒木望遠鏡とタッグを組んではくちょう座P星の観測を続けてきた「WINERED」は現在、ヨーロッパ南天天文台がチリ共和国に設けたラ・シヤ観測所に活躍の場を移し、口径3.6m NTT望遠鏡と共に観測を実施している。2400m級の高山に位置し、空が明るい都市からも離れたこの地でさらに高精細の観測を行うことが目的だ。2019年からはさらに口径の大きい、ラスカンパナス天文台・口径6.5m マゼラン望遠鏡に取付けて観測することが予定されている。時代を超え、組織を超え、国境を越え、むすばれていく宇宙への想い。次々と新たな発見が実を結びつつある。

世界最高性能を誇る波長1ミクロン帯・近赤外線高分散分光器WINERED

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