星の「七色」から組成物質を突き止めろ
追究を阻む「吸収線」が解き明かされた

近赤外線波長域での詳細なA型星ライン・カタログが、世界で初めて公開された

恒星の光の虹=スペクトルはバーコードのように恒星の本性を映す

しかし地球大気の「ガス」がスペクトルに余分な吸収線をつくる

それを取り除くことで、より正確なスペクトルの分析が可能に

高精度・高分散分光器が、スペクトルの暗号を読み解く

虹=スペクトル に刻まれた「暗号」

炭に火をつけると、赤い光から白っぽい光まで次第に色が変わってゆくさまを見ることができる。赤い光を発する状態よりも、白っぽい光を発する状態の方が、より高い温度になっていることをご存じだろうか?(バーベキューのときには、空気を送って炭が白熱するようにした方が良い)。
こうした発光は「黒体輻射」と呼ばれる物理現象で、星の輝きにも共通している。夜空に輝く宇宙の恒星から放射された電磁波(=光)を捉え、スペクトル(=虹)を観察することによって分類する「スペクトル分類」から、恒星の表面温度や化学組成を探ることができる。これが天体分光学である。
下の図を見てほしい。まるで虹のように七色、いや正確にはそれ以上の色のグラデーションを見ることができる。左端には、O(6.5)からM(5)まで、O・B・A・F・G・K・Mの7種のスペクトル分類が記されている。この7つはハーバード分類とよばれる分類で、Oが最も高温でMが最も低温。ちなみに太陽はG型(比較的低温)に分類されている。さて、問題はそれぞれの型のスペクトルを見る際に、バーコードのように現れる縦筋の黒線である。これは吸収線とよばれるものであり、光が恒星のガスを通過する際、ガスに含まれる成分が光を吸収することにより起こるものである。困ったことに、当然地球の周囲にも大気があり、ガスがある。遠い宇宙からはるばるやってきた電磁波を地上の天文台で捉える直前に、この「地球周囲のガス」が吸収線を増やしてしまうのである。分析対象となる恒星とは無関係な吸収線を取り除かなければ、正確な分析は行えない。初めて太陽光のスペクトルを詳細に分析したフラウンフォーファーという天文学者は、太陽のガスが引き起こす吸収線と地球の大気による吸収線を区別できなかった。天体分光学の歴史は、この吸収線を取り除くための戦いの歴史だったとも言える。

Credit & Copyright: KPNO 0.9-m Telescope, AURA, NOAO, NSF

宇宙からのサインをクリアに捉えたい!

恒星スペクトルの中でもA型は比較的吸収線が少なく(そのためにアルファベットの最初の文字であるAをあてられた)、特に赤外線波長域における分光観測において、天体の明るさ(エネルギー)の基準、あるいは地球大気による吸収線を天体のスペクトルから除去する際などに頻繁に利用されてきた。いわば、スペクトル分類の“ゼロ(原点)”であるともいえる。
一方、恒星の分析をする際に、それぞれのタイプの恒星について「ライン・カタログ」(恒星スペクトル中に見られる吸収線のリスト)をより正確に記述していくことが、より精密に宇宙の姿を解明する上で必要となる。これまで、吸収線が少ないと見られていたA型にも多数の微細な吸収線があった。人類はいまだそれを捉えきれていなかったのである。それを可能にしたのが、京都にある神山天文台が独自に開発した高精度・近赤外線高分散分光器WINEREDである。近赤外線波長域の高分散分光技術を用いることにより、従来捉えきれなかった波長0.9ミクロンから1.35ミクロンにおける吸収線の分析を可能とした。対象としたのはスペクトル型としてはA型星の代表的恒星である、やまねこ座の21番星(21 Lyn)。非常に自転速度の遅い星であり、微弱な吸収線を検出するために適していたのだ。研究の中心となった京都産業大学 神山天文台 赤外線高分散ラボ(LiH)の鮫島寛明研究員は、神山天文台の口径1.3m荒木望遠鏡に取り付けたWINEREDを用い、やまねこ座21番星を観測。微弱な吸収線を含む219本の吸収線を検出することに成功した。これらの吸収線の原因となる元素もまた、水素、炭素、窒素、酸素、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、硫黄、カルシウム、鉄……と、実に多様。A型星において近赤外線波長域にこれだけ多数の微弱な吸収線が検出されたのは、世界で初めての事であった。ライン・カタログは「辞書」のようなものである。辞書の精度が高まれば、赤外線波長域における地球大気吸収線の除去過程もより精密にできる。A型星それ自体の元素組成比も、より精密に決定する研究に寄与することができる。
夜空に輝く恒星から届くサインをより正確に、精密に受け取る取り組みは、今日も世界の各地で続いている。

高精度・近赤外線高分散分光器WINEREDを取り付けた神山天文台の荒木望遠鏡

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