彗星は、
太陽系の過去の情報を内に秘めた化石!?

爆発的な増光をしたホームズ彗星は太陽から遠く冷たい場所で誕生した

約17等の暗い彗星が、突然2.9等星の輝きを。約40万倍以上の増光は極めて稀

その原因追究から明らかになった「彗星の誕生した場所」とは

彗星に秘められた過去の情報

彗星の成分解析から、太陽系誕生時点の姿がまた一つ明らかに

突然輝きを増した彗星。なぜ?

気がつけば見慣れない星として現れ、次第に明るくなって最後には、まるで地球に落ちてくるかのように長い尾を引いた壮大な姿を現す「彗星」。中でもハレー彗星は古代より何度も目撃され、不吉の予兆であるなど、数々の記録に残されてきた。その周期、約76年。上図のように、しばらくは太陽から遠く遠く離れた場所を旅して、また何十年も経ってから太陽の、地球のそばに戻ってくる(そして世間を騒がせる!)というわけだ。
ところでこの「長い尾」。進行方向に対してたなびくように伸びるイメージがあるが、実はそうではない。少しカーブを描くような形をしている。あの長い尾は、ロケットエンジンのジェット噴射のようにして出来るものではないのだ。さらに言えば、彗星の名の由来となった「彗(ほうき)」のように見える尾は、太陽から離れている多くの期間、存在しないといったら驚くだろうか。ほとんどの時間は「尾がない彗星!?」なのである。
彗星の核は、たくさんの塵(ちり)を含んだ氷の塊とイメージすると分かりやすい。寒い宇宙空間を旅してきた氷の塊は、久しぶりに太陽に接近するなか、ギラギラと輝く太陽の熱によって表面が蒸発し始める。それに伴って発生したガスや塵が核の周囲を大気として取り巻く。この「コマ(髪という意味)」が、「彗(ほうき)」発生のための第一条件である。では第二条件とは? 焚き火のときにゴウっと顔に押し寄せる熱風の圧を思い出してほしい。太陽からも周辺に向かって放射圧と太陽風が発せられている。この圧力によって、核を覆う大気状のコマがたなびき、ほうきのように尾を形成するのである。彗星とはいわば、巨大な氷と太陽のランデブーが巻き起こす、一時的な天文ショーなのだ。
2007年、その天文ショーにさらなるサプライズが提供された。主役は、ハレー彗星よりもはるかに周期の短い、「約6.9年おき」にやってくるホームズ彗星。10月23日に約17等の明るさで観測されていた。人間の肉眼で見える星は、強く輝く1等星から、せいぜい6等星くらいまで。約17等はとても暗い。だが翌24日に突然8等の明るさへ。さらに翌25日には2.9等という肉眼でも見えるレベルの明るさにまで「劇的に増光」。夜空にきらめいたのである。

爆発2.1日後にすばる望遠鏡で撮影したホームズ彗星の画像(中間赤外線波長)

彗星の中に、太陽系誕生時代のガスや結晶が!

それにしても、天文学的にも滅多に観測されることのないほどの爆発的な増光はなぜ?
その答えは、直後にホームズ彗星の分光観測を実施した京都産業大学の神山天文台で明らかにされた。彗星から大量の塵(ダスト)が放出されていたのである。国際天文学連合回報に発表されたこの報告によって一旦の回答は得たものの、「では、なぜ大量の放出が?」については研究者の間で議論が続いた。神山天文台でも引き続き謎の解明が続けられた。きっかけは、ハワイにある日本の国立天文台すばる望遠鏡が捉えたデータだった。ホームズ彗星の波長10ミクロンという、中間赤外線波長域における分光データを神山天文台の研究グループが再解析したところ、ホームズ彗星の塵(ダスト)には、他の彗星に比べてアモルファス成分のシリケイト・ダストが多く、結晶質成分が少ないことが明らかになった。アモルファスとは、非晶質という状態を指し、アモルファス氷は低い温度で結晶質に変化することで爆発的な昇華のエネルギー源になる。こうした、揮発性の高い氷が含まれている彗星では、それらが爆発的に昇華(固体からガスになること)することで、爆発的なダスト放出が生じる可能性があるのだ。
実はこの研究からはもうひとつ興味深い事実が明らかにされた。「なぜホームズ彗星には結晶質成分より非晶質成分が多いのか?」ということだ。視点は大きなスケールへ、約46億年前まで遡る。宇宙空間の中に我々の太陽が誕生した頃である。宇宙空間に散らばっている非晶質のシリケイト・ダストは、原始太陽の熱に加熱されて結晶質に変化した。逆に、太陽から遠く離れれば離れるほど、「冷たい空間」となり、そこでは非晶質のシリケイト・ダストが多く残ることとなる。ホームズ彗星が非晶質のシリケイト・ダストを多く含むということは、「太陽から離れた遠く冷たい場所」で誕生したということが結論づけられたのである。
逆に、太陽に近い場所で誕生した彗星もあるだろう。彗星は、夜空をにぎわせてくれる存在だけではなく、その輝きの奥に、太陽系誕生というはるか昔の姿を記録した「宇宙の化石」でもあったのだ。

ホームズ彗星の中間赤外線スペクトル

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