植物サバイバル!
環境ストレスにしなやかに対応する力を解明

ゲノムが傷ついたときに発動するコントロール遺伝子とは?植物が秘めた知恵に迫る。

植物を襲う新たな危機とは?

損傷に対し、しなやかに回復する植物の仕組み

耐性強化で、食料資源を守り抜く

成長を止める。それこそが「次なる成長」への知恵だった。

地球環境の激変。食料資源の危機。そのとき植物は?

土壌汚染や気候変動、オゾン層の破壊による紫外線量の増加...いま、私たちの地球環境は大きく変化しようとし ている。特に紫外線は生命に与える影響が大きく、私たち人間のDNAをも損傷させ、皮膚ガンや白内障増加の要因であるといわれている。夏場に日焼けするのも紫外線の影響。そう考えると、紫外線の影響力の強さが想像できるだろう。それだけではなく、体内のDNAにまで影響を及ぼすのである。それは植物に対しても同様。強く降り注ぐ紫外線は植物の体内にまで及び、DNAを損傷させる。野菜、穀物、果物...これまで人類に豊穣な恵みを与えてきた食料資源でもある「植物」にいま、危機が迫っている。
こうしたなか、「植物の環境ストレスへの耐性」の研究を進めてきたのが京都産業大学の木村成介教授の研究チームである。移動できない植物は過去数十億年もの間、紫外線に限らず、自然放射線や代謝課程に生じる活性酸素による環境ストレスを受け続けてきた。生命に必須の遺伝情報を担うゲノムDNAも、そのたびに損傷を受け続けてきている。だが植物の多くは死滅せず、その遺伝情報を現在へと伝え続けてきたのだ。木村教授たちはその仕組みに注目した。

世界各地の植物を収集、研究する木村教授。

危機に際して発動する「SOG1」が、植物と人類の危機を救う鍵。

植物はゲノムDNA(全DNAから成る遺伝情報)が損傷したとき、どのように対処してきたのか? それを解く鍵がSOG1という遺伝子だった。研究を進めるうち、ゲノムDNAが損傷したときにSOG1は活性化し、様々なメッセージを自らの体内に発信する。活性化すればするほど、根の成長は抑制されていくことが分かってきた。一見、回復ではなく後退に見えるこの対応、実は植物の深い知性による「生きる知恵」である。外的な成長を一旦保留することにより、その時間やエネルギーを「ゲノムDNAの修復」に回しているのである。いわば、建設中のビルに損傷があった場合、建設を一旦ストップさせて復帰に人的資源を集中させるようなもの。修復が終わり、万全の体制でまた建設、成長に進むのである。SOG1はその「保留と推進」、つまり「抑制と誘導」を自在にコントロールする、植物成長の司令塔だったのだ。最近の研究で、このSOG1が土壌汚染や病原菌感染による環境ストレスに対して働いていることがわかってきた。解明されたこの仕組みを応用すれば、土壌汚染や病原菌感染、気候変動など新たな刺激に襲われつつある植物たちの「しなやかな耐性」をさらに強めることも、人類の食料資源を守り抜くこともできるだろう。植物は新たなサバイバルへ。数十億年もかけて進化をしてきた植物にいま、新たな進化のチャンスが訪れようとしている。

「5SQ」が、SOG1が最も活性化した状態。

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