鳥インフルエンザウイルスを
技術と仕組みで迎え討つ

感染症対策に、新たな活性炭技術が特許申請される

鳥インフルエンザの脅威は、発生そのものはもちろん、その先の拡散、パンデミックにある

鶏にウイルスを感染させない。体外の「仕組み」への挑戦

仕組みの輸出で「攻めの予防」へ

拡散につながる行動を、抑止につながる行動に反転させる、新たな仕組みづくり

感染症の本当の怖さは、感染のその先にある

冬になるとやってくる「渡り鳥」。冬の風物詩として愛されているが、一方で「感染症の抜け道」ともなっている。近年、海外からの輸入コンテナの中に特定外来生物の毒アリが発見されたことが話題となったが、港というゲートがはっきりしている場合はまだチェックしやすい。しかし、自由に空を飛来してくる鳥の管理は不可能に近い(そして季節も、冬だけとは限らない)。2004年に、大正時代以来79年ぶりに国内で発見された鳥インフルエンザにおいても渡り鳥由来の可能性が疑われた。このときは山口県、大分県、京都府において発生が確認されたのだが、感染した鳥の大量殺処分がニュースで取り上げられただけでなく、さらなる感染の防止についても大きな話題となった。鶏舎だけでなく農場全体への消毒薬の散布はもちろん、その周囲、道路など、広範囲に及ぶ消毒作戦を覚えている人もいるかもしれない。このように感染症は、我々人類、いやあらゆる生物にとって非常に脅威なのだ。しかもその対策は「感染したら治療する」という対処療法だけでなく、拡散の防止まで広がっていく。実験科学的なアプローチはもちろん、その成果を応用して仕組みをつくるという社会科学的アプローチも必要なのである。
こうした中、あるニュースが報じられた。高度な化学分析技術を持つ株式会社 化研と日本でも珍しい専門研究機関である京都産業大学 鳥インフルエンザ研究センターの共同研究により、新たな“武器”がうみだされ、それが特許出願されたのだ。その名はヨード担持活性炭。その名の通りヨード(ヨウ素)が活性炭に担持(吸着した状態を保つ)しているものである。感染症への対処といえばワクチンなど体内での対処がまずイメージされるだろうが、鳥インフルエンザウイルスの対策として現在国内ではワクチンは使われておらず、世界的にもワクチンの使用は推奨されていない。こうした中、今回の共同研究によりその有益性が証明されたこのヨード担持活性炭は、体外での仕組みづくりに大きく貢献する可能性が期待されている。

物質を吸着しやすい多孔質の活性炭。捕捉したウイルスをヨウ素で不活化する

戦いは体外で。さらに国外へ

きっかけは2016年にさかのぼる。渡り鳥の名所として知られる茨城県水戸市郊外の湖沼で、おびただしい数の越冬中渡り鳥が鳥インフルエンザに罹患して死亡したのである。湖沼水の浄化など、抜本的な防疫対策の必要性が生じたこともあり、同じ水戸市に拠点を置く化研が名乗りを上げ、鳥インフルエンザ研究センターと共同研究を開始したというわけだ。
ここで活用されたものが、ヨード担持活性炭という技術。上図のように、多孔質の炭素を主成分とする活性炭がその細かい凹みでウイルスを捕捉する。そして補足したウイルスにヨウ素が作用し不活化させるのである。この活性炭が優れているところは、その持続性、すなわち応用力の高さにある。これまでの消毒には消⽯灰が多く用いられてきたが、ウイルスの侵入を防止するため鶏舎周囲に都度散布するのも大変なうえ、風が吹けば吹き飛んでしまう。雨が降れば流されてしまったり、空気中の炭酸ガスを吸収して効果を失ってしまうという弱点もあった。一方、ヨード担持活性炭に対し1カ月以上の降雨暴露試験を行ったところ、殺菌力が全く衰えなかったという。ならば、活性炭マットをつくり、鶏舎の周囲や、渡り鳥がよく歩き回る箇所に敷き詰めてみたらどうであろう? これまでであれば「歩き回るほど拡散する」と考えられていた行動が、逆に「歩き回るほど不活化される」メリットに転換する。広範囲での「攻めの予防」へ進むことができるのだ。実際、このヨード担持活性炭の活用先は鳥インフルエンザだけでなくその他の感染症にも効果が期待されている。飲料水に、抗菌マスクに、エアコンフィルタ……と、その用途や応用先にも期待が広がっている。だがそれだけではないだろう。衛生状況も良くなく鳥インフルエンザの発生頻度が高いとされている東南アジアにこの「仕組み」を輸出するとしたら?さらなる「攻めの予防」が国境や海すら超えていくのだ。なお、共同研究を行った京都産業大学の鳥インフルエンザ研究センターは2018年から「感染症分子研究センター」に改組され、より広範囲の感染症にその専門性を活かそうとしている。実験科学の技術を社会科学のアプローチで地域の、そして世界の仕組みづくりへ。感染症との戦いは人々の協働のもとさらに広がっていく。

鳥の通り道にヨード活性炭マットを敷くだけ。作業も簡単で繰り返し使用可能

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