貴重な元素の「実態」は
私たちに何を語りかけるのか

アインスタイニウム・ブレイクの謎を解く

原子炉でつくることができる一番重い元素「アインスタイニウム」

その名は、相対性理論を打ち立てた科学者アインシュタインから

予測を裏切る事実から、また新たな発見がうまれていく

予測を裏切る不連続性が見せてくれた「その先の可能性」

99番目の元素。その名は「アインスタイニウム」

「水兵 リーベ 僕の舟」
と聞くと、「ああ、原子の周期表の語呂合わせね」と思い出す人は多いだろう。だがその先を知っている人は意外に少ない。諸説あるものの、一説にはこう続く。
「水兵 リーベ 僕の舟」
「七曲り シップスクラークか」
「スコッチ暴露マン、テコに ドアが、 ゲアッセブルク……」
と、ここまでで36番の「Kr(クリプトン)」までを網羅しているのだ。
今回、世界で大きく話題となったのは99番目「Es」。かの有名な物理学者アルベルト・アインシュタインにちなんで名付けられた元素である。発見されたのは1952年。強烈なエネルギーを発する水爆実験の放射性降下物の中から見つけられたという。そのため、その再現は容易ではない。特殊な原子炉の中で時間をかけて作ることはできるものの、ごく微量しかできない。研究を目的として利用されることも少なく、原子特性や物理特性などはほとんど不明だった。
この、謎の元素を解明するチャンスが訪れたのが2018年。ごく微量のEsの試料が米国のオークリッジ国立研究所(米国エネルギー省DOE管轄、ORNL)から日本原子力研究開発機構へ特別に供給されたのだ。

周期表に規則正しく配列される元素たち。Esはその99番目に位置している

発見された意外な事実

その貴重な元素の解析に活用されたのが、日本が誇る大型放射光施設「SPring-8(スプリングエイト)」である。その結果、驚きの事実が明らかとなった。
これまで化学の世界では、Esが属するアクチノイド系の重い元素は、アクチノイド収縮とよばれる現象により、原子番号が1つ大きくなるたびイオンの大きさが小さくなってくるものと予測されていた。つまり、94番元素のPuよりも95番元素のAmの方がイオンの大きさが小さく、96番元素のCm、97番元素のBkと続くにつれ、どんどん小さくなるというものだ。詳細な計測ができていなかった99番元素Esにおいても、当然その法則性は踏襲されるものだと考えられていた。
だが、しかし。99番目の元素であるEsのところで直線的な現象からはずれ、不連続になる「アインスタイニウム・ブレイク」が発見されたのである。これを発見した京都産業大学理学部の山上浩志教授や、日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター 矢板毅副センター長たちの共同研究チームは、この現象を解明するため水和構造を調査。世界で初めてEsの水和原子間を測定したところ、Esの水和構造が98番のカリフォルニウムと全く同じ構造であることが分かったという。ではそれはなぜなのか?疑問は次々と湧いて出てくる。そこで、この不思議な現象に対し、電子の量子構造、つまり電子軌道の占有率の変化という新しい知見からイオン半径を計算したところ、実証データの検証に成功。原子自体が変動してイオン半径が小さくなることも突き止められた。これはEsだけでなく、別の場所でも起きているかもしれない。元々、Esをはじめとした「重い元素」には説明のつきにくい不思議な現象が数々発見されていたが、この「電子の量子構造が変わる」という新たな事実により解決できるかもしれないと言われている。
ひとつの発見が、新たな疑問をうみ、また新たな発見へ。科学者たちがつないできた発見のバトンは、こうして未来へと手渡され、世界に新たな光を灯していく。

※本内容は原子力機構の広報誌「未来へげんき」でも紹介されています。

調査が行われた兵庫県佐用郡の実験施設「SPring-8」 ※提供:理化学研究所

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