サマータイムにうんざり、米国で廃止の動き

夏・冬時間どちらに合わせるか各州異なる構想、法律の壁回避策も

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Maya Wei-Haas/訳=桜木敬子
(PHOTOGRAPH BY REBECCA HALE, NATIONAL GEOGRAPHIC)

京都産業大学による見どころチェック!

心身へのさまざまな悪影響が指摘されるサマータイム

州・地域によって異なるサマータイム制度の「やめ方」

サマータイムは続行でも廃止でも混乱必至?

 春が近づくたび、スコット・イェイツ氏は憂鬱になる。日が長くなり、気候が暖かくなるのは、イェイツ氏を含む多数の米国民にとって、毎年恒例の難関を乗り越えるべき日が近づいているしるしだからだ。そう、サマータイムの始まりの日に、時計の針を1時間進めなければならないのである。(参考記事:「米、夏時間スタート:その起源と効果」

 時刻を春には進め秋には戻すのは、少々面倒というのみならず、深刻な悪影響をもたらす可能性がある。というのも切り替えの時期は、心臓発作のリスク増大、交通死亡事故の増加、裁判で普段より厳しい刑が言い渡される傾向などが見られるからだ。しかし、多くの企業が利益の観点からサマータイムを支持しているため、このやっかいな制度は米国全土のほとんどの地域で続いている。(参考記事:「夏時間の良否をめぐる議論」

「このせいでみんな頭がおかしくなりそうなんです」と話すイェイツ氏は、サマータイム廃止活動家であり非営利企業ケーブルラブスの客員起業家だ。彼は妻のキャシー・イェイツ氏から、文句を言うより行動をとけしかけられ、2014年からサマータイム制度を変えるために活動している。

 長らく、サマータイムを変えようとするのは無駄な努力であるように思われた。しかし、今年になって事態は動いている。多くの州が、定期的に時刻を修正することによる問題を認識し、このクレイジーな制度を廃止しようと共同戦線を張っているのだ。

「やっと着実な流れができてきました」とイェイツ氏は最近の動きについて話す。年を経るごとに関心は高まっており、関連法案は少しずつ成立しつつある。「確実に前進しています」

SOREN WALLJASPER, NG STAFF

サマータイムの歴史

 米国のサマータイムは第一次世界大戦のさなかの1918年、先行して1916年に導入していたドイツに続き、エネルギー節約の試みとして始まった。時計を1時間進めることで、日が出ている時間を最大限に活用するというアイデアだった。(参考記事:「実は冗談が発端、サマータイムの奇妙な歴史」

 第二次世界大戦中は年中ずっとサマータイムとなり、「戦争タイム」との俗名がついた。戦後になると、各州はサマータイムを採用するかどうかやその実施期間を自由に決めていた。そのため米国中にばらばらのタイムゾーンが存在することになり、テレビ局や交通関連機関をはじめとする全国規模の業界は、あちこちで次々に切り替わってゆく時刻に付いていくのに必死だった。

 そこで登場したのが1966年の「統一時間法」という連邦法だ。読んで字のごとく、サマータイムの始まりと終わりを含め、時間を定めるルールを全米で統一するためのものである。その後の修正によって、始まりと終わりの日は数回変更されたが、今もサマータイム制度はこの法律に則っている。

 現在の決まりでは、米国の夏時間の開始日は3月の第2日曜日だ。各地で午前2時になったとき、時計を1時間進めることになっている。終了日は11月の第1日曜日で、各地で午前2時になったとき、今度は時計を1時間遅らせる。11月と3月の間の4カ月ほどは「標準時」と呼ばれる時間に従うことになる。

 しかし、サマータイムが導入された当時でさえ、実際にどれだけエネルギーの節約になるのかはよくわかっていなかった。それに世界大戦があった頃とは異なり、現代では特に電力が中心となったため、サマータイムのメリットは薄いということを示す研究が増えている。また、健康被害の懸念もある。例えば、てんかん患者でネブラスカ州グランドアイランド在住のアイザック・フォーセット少年は、夏時間移行後の睡眠不足が発作の増加につながっているらしいことに気が付いた。(参考記事:「頭の中で爆発音も! 現代人を襲う睡眠問題」

「米国で統一的なサマータイム制度が採用された50年前にはわからなかったことが、今では多くわかっています」とオレゴン州選出の下院議員ジュリー・フェイヒー氏は話す。同氏は、オレゴン州が通年夏時間のままでいることを提案する下院法案を支持している。かつてないほど多くの州がサマータイム制度の廃止に向けて動いている「今は、まさに議論すべきときです」と同氏は言う。

サマータイム制度のやめ方は3通り

 統一時間法は、州がサマータイムを実施せず、通年標準時でいることを禁じていないため、いくつかの州や地域は昔からこの選択肢を採用してきた。現在、アリゾナ州(ナバホ族の準自治領を除く)の大部分、ハワイ州、北マリアナ諸島、プエルトリコ、グアム、米領サモア、そして米領ヴァージン諸島では、サマータイムが実施されていない。

 今年は、何十もの州がサマータイム制度に変更を加える法案を準備しているが、オクラホマ州、テキサス州、カンザス州などのいくつかの州では、サマータイム制度から完全に抜けることを目指す法案が審議中だ。この選択肢を採った場合、一年を通して標準時のままでいることになるが、これには大抵、反対意見が多い。州民が1年の大半において慣れている夏時間よりも1時間早く、日が昇って沈むことになるからだ。

SOREN WALLJASPER, NG STAFF, SOURCE: BILLTRACK50

 ゴルフやバーベキュー等、屋外活動をベースとした業界も、サマータイムで日が長いときの方が利益が出るとして、標準時への完全移行には難色を示している。ネブラスカ州では2017年の公聴会で、同州がサマータイムをやめるべきでない理由としてゴルフ業界への悪影響が強調されたほどだ。(参考記事:「米国では初対面の人とBBQの話はNG!?」

 多くの州で好まれているのは別の選択肢だ。1年中、サマータイムを実施することである。夕方の明るい時間が長くなることで、散歩をしたり、公園に行ったり、スポーツをしたりと、(バーベキューをしたとしても)健康に良いのでは、とする専門家もいる。

 そのためにはしかし、米連邦議会で統一時間法が修正される必要がある。このステップがまだ達成されていないのだ。

 それでも、多くの州で動きは進んでいる。昨年フロリダ州では、米議会で統一時間法が修正されさえすれば通年でサマータイムを実施するという法案が、圧倒的な賛成多数で可決された。カリフォルニア州でも、これから州議会による可決は必要なものの、住民投票では同様の提案に60%近くが賛成している。オレゴン州とワシントン州でも、常時サマータイムのままにしておく法案が審議中だ。

 米議会がこの動きを追認するかは不透明だが、多くの国民が望んでいることではある。「現時点では、全か無かという状況です」とオレゴン州議会の共和党広報ジョナサン・ロックウッド氏はメールに書いている。

 さらに他の州では、全く異なる手法が採られようとしている。タイムゾーンの変更だ。米国本土には現在、4つのタイムゾーンがある。太平洋時間、山岳部時間、中部時間、そして東部時間だ。もし、ある州がすぐ東側のタイムゾーンに移り、サマータイムをやめれば、実質的には今のタイムゾーンのままで常時サマータイムを実施するのと同じ結果になる。この方法であれば、米議会によって法律が修正されるのを待つ必要はなく、運輸省の許可だけで可能なのである。

 米国北東部、ニューイングランド地方の多くの州が目指しているのはこの方法だ。ニューハンプシャー州、メイン州、ロードアイランド州、マサチューセッツ州、そしてコネチカット州で、東部時間のすぐ東側にある「大西洋時間」ゾーンに移行し、サマータイム制度をやめる法案が準備中である。

混乱必至だが、続けるよりまし?

 よくある懸念のひとつは、各州が勝手に時間をいじり始めたら、タイムゾーンがあまりにも複雑になってしまいかねないというものだ。隣接する州同士で足並みをそろえることで、この問題を回避しようとしている地方もある。ニューイングランド地方には、隣接する州でも同じ移行が採用された場合に限り施行される、と法案の中に但し書きを付けている州もある(この場合、ひとつの州で採用が見送られたら、周囲の全州でも移行が失敗することになるのだが)。

 とはいえ、タイムゾーンの境界線と、年に2度の時刻の修正を行わない地域との間に挟まれる州ができてしまう可能性がある。さらには、時期によっては隣接するタイムゾーンの間で、通常の1時間ではなく2時間の時差が生まれることにもなりかねない。そうなると、境界線をまたいで生活している人の場合、午後6時に職場を出て、車を15分運転し、帰宅すると8時15分になっているということもあり得るのだ。

 それでも、少なくともオレゴン州は歩みを止めるつもりはない。ロックウッド氏は、すでに世の中は時刻を早めたり遅らせたりすることで十分混乱していると指摘する。「時刻修正のジェットコースターに乗せられてしまうことで、生活はめちゃくちゃになります。私たちがすることは何でも時間で決められているのですから」と同氏はメールに書いている。

 オレゴン州の通年サマータイム法案を支持する同州上院議員ブライアン・ボークウィスト氏の、立法補佐官であり妻でもあるペギー・ボークウィスト氏は、メールでこう付け加える。「私見を申し上げれば、時刻を年に2回修正することで何かいいことがあるとすれば、1つしかありません。煙探知機の電池を交換する時期を思い出させてくれることだけです」

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