木がメタンガスを放出、温暖化の一因、証拠続々

みずからメタンを生成、「森林保護をやめるべきではない」が

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Andrew Revkin/訳=ルーバー荒井ハンナ
(PHOTOGRAPH BY GERD LUDWIG, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

京都産業大学による見どころチェック!

樹木が温室効果ガスを放出しているとの報告、相次ぐ

なぜ今になって樹木からのメタンガス放出が「発見」されたのか

今後の地球温暖化対策への影響は

 1907年、米カンザス大学の化学教授フランシス・W・ブション氏は、天然ガスの主要成分であるメタンが樹木の中に含まれていることを発見し、化学の専門誌「Chemical and Physical Papers」に発表した。

 ある日、ハコヤナギの木を切っていたブション氏は、切り口から出る樹液が泡立っているのに気づいた。そこでマッチを擦って近づけてみると、ガスは青い炎を出して燃焼したという。

 この発見は、当時はそれほど話題にされず、いつの間にか忘れ去られていった。

 メタンは、二酸化炭素の次に地球温暖化への影響が大きな温室効果ガスである。天然ガスとしては比較的クリーンな化石燃料だが、大気に蓄積すると、熱をとらえて温暖化を促進させる。

 森林の土や空気中の自然な化学反応によって分解されるが、排出量が増えすぎて分解する速度が追い付かなくなると、大気中に蓄積する(分解されるまでの年数は約十年。一方、二酸化炭素は数百年)。1750年以来、大気中のメタン濃度は700ppbから1800ppb へと250%以上上昇した。増加の原因となっている人間の活動は、主に家畜や水田などの農業、ごみの埋め立て、石油・ガス事業、石炭の採掘などだ。(参考記事:「地球温暖化、目標達成に残された道はギャンブル」

 メタンは自然現象としても大量に発生している。主な自然発生源は、水分を多く含んだ土壌や湿地帯など、酸素の少ない環境に生息する微生物の活動だ(人間の活動による温暖化で特に高緯度で湿地帯が拡大しており、これがさらにメタン発生量を増加させている)。ちなみに、農業活動による排出量もそれとほぼ同じだ。

 樹木から放出されるメタンが温暖化に与える影響は、工場の煙突や自動車の排ガスから出る何百億トンもの二酸化炭素や、家畜やガス田から出るメタンとは比較にならない。だが不確定要因も多く、グローバル・カーボン・プロジェクトがまとめた「全球メタン収支」は、主な発生源のひとつに樹木を含めている。(参考記事:「【動画】アラスカの湖からメタンの泡の悪循環」

1本分の量はわずかでも…

 米スキッドモア大学の科学者で、化学と森林生態学が専門のクリストファー・コービー氏は、樹木からのメタン発生に関する研究は、まだ新しい分野だと語る。

「一本一本の木が出す量はわずかですが、世界的に見れば数兆本ですから、相当な量になります」。コービー氏は2018年春に、研究の優先順位を定める国際的なワークショップを開催し、様々な分野へ協力を呼びかける論文を学術誌「New Phytologist」に発表した。米メリーランド州にあるスミソニアン環境研究センターの樹木研究者J・パトリック・メゴニガル氏が、論文の共著者になっている。

 新しい論文が毎月のように発表されている。フィールドでメタンの量を測定するたびに、論文が書けるほどの発見があるためだ。

「まだ、情報を収集している段階です」と、コービー氏は言う。

 こうした発見は既に、従来の常識を覆そうとしている。これまで乾燥した高地の森林は、メタンを消費する土壌細菌の活動によって、大気からメタンを吸収していると考えられてきた。ところがメゴニガル氏や他の研究者による研究では、木から放出されるメタンの量が、吸収される量と同等かそれを上回っている可能性があるとされている。

木がみずからメタンを生成

 1907年のブション氏による発見以来、多くの森林科学者が指摘してきたにも関わらず、今までこの事実がほとんど知られてこなかったのはなぜなのだろうか。

 英オープン大学のグローバルチェンジ・エコロジー教授で、樹木のメタン放出に関する論文を複数発表しているビンセント・ガウチ氏は、研究者たちは長年、メタンの計測装置を地面に置いてきたと指摘する。まさか、樹木が関係あるとは考えてもみなかったのだ。

「私たちは、平らな地球だけを見ていたのです」と、ガウチ氏は言う。

 現在、水分の多い土地の樹木が放出するメタンは、土壌の微生物に由来すると考えられている。根で酸素が運ばれるときに、土壌からメタンが吸い上げられ、木から放出されるという。しかしガウチ氏らは、木の中にいる微生物や、あるいは紫外線を浴びたときの光化学反応によって、樹木自体もメタンを生成していることを明らかにした。(参考記事:「シロアリに「森を守る保険」の役割、実験で解明」

 しかも、場所によってはおびただしい量のメタンが計測されている。2018年、英ランカスター大学のスニタ・パンガラ氏率いる国際的な研究チームは、科学誌「Nature」の論文で、毎年洪水が起こるアマゾンの森林からは年間推定1400万~2500万トンものメタンが放出されていると報告した。北極圏を取り巻くツンドラ全域からの推定放出量とほぼ同じである。

 アマゾンの森林は、湿った土、泥炭湿原、その他低酸素の環境からなるため、メタンを放出する微生物が多く生息しており、樹木がメタンを運び出す役割を果たしていても不思議ではない。しかし別の研究では、乾燥した高地の生態系からも、かなりの量のメタンが放出されていることがわかっている。そのなかには、土壌からではなく樹木の幹から発生しているケースもあった。(参考記事:「【動画】南米の森の多様性、魚が育んでいた」

森林保護をやめるべき、ではない

 これらの新たな発見は、これからの森林管理に議論を呼びそうだ。今までは、森林が二酸化炭素を吸収し蓄えるという能力だけが注目され、樹木が持つその他の特性には注意が払われてこなかった。

「人々は、森林といえば炭素を吸収してくれるものだと思ってましたし、学校でもそう習いました」と、コービー氏は言う。

 だが、気候変動の現実はもっと複雑だ。「地球温暖化はよく聞きますが、森林が問題にされることはありませんでした」

 これまでのところ、世界は二酸化炭素排出源を対象とする取り組みに失敗し続けてきた。2015年の気候変動に関するパリ協定は、既に排出された二酸化炭素を回収する方法としての森林プロジェクトを支持している。国連は1兆本の木を植える植樹プロジェクトを立ち上げ、企業や消費者には、森林プロジェクトを経済的に支援できる様々な選択肢が与えられている。

 コービー氏をはじめとする専門家は、そのような取り組みを止めるべきだといっているのではないと断っている。炭素の貯留、洪水対策、多様な生態系の保全など、森林を保護することでもたらされる恩恵は計り知れない。

 世界各国は、気候変動に関する協定とは別に生物多様性条約に調印し、多様な動植物のすみかを守る森林保全を進めている。

 だが、メタンに関する最新の研究は、良かれ悪しかれ気候変動の影響を包括的に評価することの重要性を強調している。地域ごと、また森林や樹木のタイプごとに、生態系をよりよく理解すれば、保全プロジェクトの成果を最大限に高め、リスクを最小限に抑えることも可能だ。(参考記事:「地球温暖化の影響は想定より深刻、IPCCが警告」

NATIONAL GEOGRAPHIC
日本版サイトへ

シェアする

関連する学び

あわせて読みたい記事

化石

大発見! カンブリア紀の新たな化石群、中国 驚異的な保存状態、なんと半数以上が新種、バージェスや澄江に匹敵か NATIONAL GEOGRAPHIC

生命

古代の墓から新種の類人猿の 骨を発見、すでに絶滅 中国・秦の始皇帝の祖母の墓で出土、ペットだった? NATIONAL GEOGRAPHIC

恐竜絶滅

隕石衝突まで恐竜は減っていなかった、新研究 大量の化石データを駆使、「恐竜がすむのに適した環境が豊富にあった」 NATIONAL GEOGRAPHIC
記事一覧に戻る