古代都市消滅の謎 1500年前のゴミ捨て場から解明

ローマ時代の古代都市エルサ。イスラム勃興で衰退との定説を覆したのはゴミだった

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=MEGAN GANNON/訳=北村京子
(PHOTOGRAPH BY GUY BAR-OZ)

京都産業大学による見どころチェック!

6世紀のゴミ捨て場の跡から古代都市衰退の理由が明らかに

気候変動が社会と経済に与える影響とは

世界の歴史を大きく動かしたのは急激な気候の変化だった

 約1500年前、東ローマ(ビザンチン)帝国の東端、現在のイスラエルのネゲブ砂漠にあったエルサ(ハルザとも呼ばれる)は都市として隆盛を極めていた。最大2万人の人口を抱えていたこの街には、劇場、公衆浴場、教会、工房があり、また革新的な水管理システムのおかげで、エルサの有名な輸出品として知られるガザのワインを作ることができた。この貴重な白ワインは、地中海一帯に流通し、遠くは現在のフランスにまで運ばれていた。 (参考記事:「ビザンチン時代の教会型ランタン」

 ところが、それから200年もたたないうちにエルサは崩壊し、街は壊され、残った建造物も砂丘の下へと埋もれていった。

 歴史家たちはこれまで、ビザンチン帝国のネゲブ地方における社会・経済のシステムは、7世紀中頃の初期イスラム勢力の勃興によって衰え、それに伴って、エルサの資金源だったワインの生産制限といった変化が押し寄せたのだと考えてきた。

 しかし、エルサのゴミ捨て場をくわしく調査した結果、考古学者らは、街の衰退はイスラムの影響が及ぶ約100年前に起こっていたことを発見した。これは従来、ビザンチン時代の絶頂期と考えられてきた時期だ。なぜこんなことが起こったのだろうか。その原因は、遠く離れた場所の火山が立て続けに噴火したことによって引き起こされた、気候の急激かつ破滅的な変化だった、というのだ。

 2019年3月25日、学術誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に発表された論文には、イスラエル、ハイファ大学の動物考古学教授、ガイ・バル=オズ氏のチームが行った、エルサのゴミ捨て場跡の発掘調査の概要が記されている。

エルサのゴミの山から見つかったオリーブの種。
当時の住民たちの食生活がしのばれる。(PHOTOGRAPH BY GUY BAR-OZ)

ゴミからわかった意外な事実

 ゴミ捨て場を発掘するきっかけは、バル=オズ氏がネゲブでのビザンチン帝国の没落に興味をもったことだった。手がかりとして注目したのが、エルサのゴミ捨て場だ。ゴミ収集という、都市に不可欠なサービスが行われた場所を調べることで、当時の都市エルサがいつ頃衰退したのかを知る痕跡が残っていると考えたためだ。 (参考記事:「河江肖剰 ゴミの山は宝の山」

 暖炉の灰、動物や魚の骨、ブドウやオリーブの種、廃棄された建材、壊れたワインジャグなどが重なる層を掘り進んでいくと、西暦550年頃にゴミが捨てられなくなっていたことが判明した。

「非常に驚きました。ゴミが捨てられなくなったのは、もっと後の時代と考えていましたから」とバル=オズ氏は言う。

 最近の気候研究で、エルサのゴミ捨て場がなくなった理由がわかってきた。6世紀半ばのヨーロッパとアジア地域の大半で、人々の生活に影響するほどの気候の変化があったということだ。

 2016年、英ケンブリッジ大学環境システム分析教授のウルフ・ビュントゲン氏率いる研究チームは、過去の急激な気候変動が起こった時期を特定。それが、西暦536年から660年頃まであった「古代後期の小氷期」だ。

 木の年輪のデータと、氷床コアに閉じ込められた粒子の調査で、ビュントゲン氏らは、連続した火山噴火が536年、540年、547年にあり、粉塵が太陽の光を遮ったことで、北半球に寒い時期をもたらしたことを発見した(当時噴火した火山の正確な場所はまだ特定されていない。昨年、ある研究グループが、536年の噴火はアイスランドで起こったという説を提唱している)。その後間もなく、食糧不足と飢餓が起こったと考えられている。

 研究者は、この気候変動を、6世紀半ばに起こった大規模な社会変化にも影響を与えたと考えている。たとえば、スラブ人の欧州大陸全域への拡散や、アジアでのトルコ民族の帝国の崩壊などの影響だ。さらに古代後期小氷期は、541年以降、地中海全域に広がり、当時「ユスティニアヌス病」とも呼ばれた腺ペストの世界最初の大流行の引き金になった可能性もある。 (参考記事:「アステカ人の大量死、原因はサルモネラ菌か」

エルサのゴミの山を近距離から撮影した1枚。考古学者らは、紀元550年頃に街が崩壊した理由を探るために、この丘の発掘調査を行った。
(PHOTOGRAPH BY GUY BAR-OZ)

 ビュントゲン氏は「(エルサは)わたしたちの主張を後押しする証拠を示す、考古学サイドつまり人間の側から見た優れたケーススタディです。人間の意思決定やシステムは、環境や気候条件と無関係ではないことが、近年ますます明らかになっています」と述べている。 (参考記事:「“17世紀の危機”の原因は小氷期」

 ただ長期の気候現象と、個別の歴史上の出来事との結びつきを証明することは簡単ではない。今のところ、古代後期の小氷期がネゲブ地方に具体的にどんな影響を与えたかまでは解明しきれていない。確かに、急激な気温の下降は、アイルランドとスカンジナビアなどの地域では作物収穫量に大きな被害をもたらしただろう。だが、ネゲブのような乾燥した、元々干ばつに対する備えができている地域では、むしろ気候が変化したことで恩恵を受けていた可能性もあるからだ。

 現時点で確かなことは、当時のエルサの経済が、気候変動によって打撃を直接受けた欧州各地の経済に頼っていたということだ。 (参考記事:「新説:クレオパトラの没落と火山噴火の意外な関係」

「地中海の対岸でワインなどの商品への需要が減れば、エルサ名産のワインの価格も下落したでしょう」とバル=オズ氏は言う。

 歴史家たちは長い間、ローマ文明衰退の原因を探ってきた。近年、今回のエルサでの発見のように、帝国全土の社会変化に影響をもたらしただろう複雑な環境要因に着目する研究が増えている。

 米オクラホマ大学古典学教授のカイル・ハーパー氏によれば、ゴミは考古学の資料として、まだ「十分に活用されていない」とのことだ。

 同氏は続ける。「6世紀に立て続けに火山が噴火し、それが原因で急激な気候変動が起きたこと、そして腺ペストのパンデミックがあったこと、これらは既にわかっていました。今回のエルサの研究も、環境に起因する衝撃が社会に破壊的な影響を及ぼしたことを示す証拠の1つとなるでしょう」

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