雷雲はなんと10億V超、電圧の測定に成功

「これまで誰も考えつかなかった方法」、米NY市30分間の電力に相当

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Adam Mann/訳=ルーバー荒井ハンナ
(PHOTOGRAPH BY GRAPES-3 COLLABORATION)

京都産業大学による見どころチェック!

知られていなかった雷の本当の威力

素粒子で雷の力に迫る。その数値は数十億ボルトにも

ブラックホールや超新星並のエネルギーを地球でも

 1752年、米フィラデルフィアの上空に分厚い雨雲が現れた。ベンジャミン・フランクリンはその下に立ち、凧を飛ばすだけの簡単な実験で、雷が電気であることを証明した。それから250年以上が経ち、雷雲の驚くべき秘密がまたひとつ明らかになった。

 このたび学術誌「Physical Review Letters」に掲載された論文によると、まったく新しい方法を使って雷雲全体の電圧を分析したところ、瞬間的に13億ボルトにも達していたという。その電力はおよそ2ギガワット。これはニューヨーク市全域に電力を30分間供給できるほどのエネルギーだと、論文の共著者で、インド、ムンバイにあるタタ基礎科学研究所の高エネルギー物理学者であるスニル・グプタ氏は語る。

「それだけの電圧を地上で達成させるのはほぼ不可能です。しかし、自然はいとも簡単にそれをやってのける方法を知っているようです」

 巨大な雷雲の電気的性質をインドの科学チームが正確に分析できたのは、宇宙から降り注ぐ荷電粒子のおかげだった。雷雲のエネルギーは、過去に実施されたどの値より10倍も高かった。この研究結果により、宇宙と地球上で起こっていることの関係性がわかっただけでなく、高エネルギー物理学における25年来の謎も解決されるかもしれない。(参考記事:「未知の「紫のオーロラ」、はじめて報告される」

素粒子のシャワーの異変

 2001年の運用開始以来、インド南部のウダガマンダラムにある宇宙シャワー現象観測施設「GRAPES-3(Gamma Ray Astronomy PeV EnergieS phase-3)」で、物理学者たちはミュー粒子を観測している。ミュー粒子は、宇宙線が地球の上層大気に衝突すると発生し、地上に降り注ぐ素粒子だ。

 どういうわけか、高感度のGRAPES-3はしばしば、4月から6月の間と、9月から11月の間にミュー粒子のシャワーがわずかに弱くなることを示す。それがちょうど一年で最も雨の多い時期と重なっていた。

「面白いなとは思っていましたが、それほど真剣には考えていませんでした」と、グプタ氏は言う。「私たちの研究対象は高エネルギー宇宙線と惑星間空間で、雷雲にはあまり関心がなかったものですから」

 ミュー粒子は負の電荷を持ち、その動きは電場によって歪められる。グプタ氏はこの性質を利用して、雷雲にどれだけのエネルギーが含まれているかを計算できないかと考えた。

 ノーベル物理学賞を受賞したチャールズ・トムソン・リーズ・ウィルソンが1929年、ある雷雲の電場を計測したところ、1インチ(約2.5センチ)の間隔で1万2700ボルトという驚きの数値が出た。ということは、数キロも先まで広がる雷雲は、全体で乾電池10億個分に相当する電位差を秘めている可能性がある。

 電圧を測るには通常、2本の端子を対象物の両端にそれぞれ接続する必要がある。だが、雲のように巨大でつかみどころのないものを相手に、どうしたらそんなことができるのか。これまで誰も思いついた者はいない。雷雲の中に飛行機や風船を飛ばす実験も行われたが、その結果これまでに記録されたのは、最高でも1億3000万ボルトだった。

 今回の研究の共著者バラクリシュナン・ハリハラン氏は、GRAPES-3が検出するミュー粒子の数が変化するには、電場がどれほど強力でなければならないかを測るモデルを考案した。これがあれば、観測されたミュー粒子から雲の電場を逆に推測できる。

 次に、GRAPES-3の過去3年間のデータを使って、研究チームは184の雷雲を分析した。すると、ミュー粒子の数値から、2014年12月1日に発生した雷雲の電圧は瞬間的に13億ボルトに達していたことがはじめて明らかになった。(参考記事:「第二次大戦の空襲のエネルギー、宇宙に達していた」

次は落雷のエネルギー

 ミュー粒子を使ったこの測定法なら、雲の広い範囲を測定できるので、飛行機や風船による実験よりも正確だ。ということは、以前のデータは実際よりも数値が低く、その多くは数十億ボルトのエネルギーを含んでいた可能性がある。さらに、大気物理学者を長いこと悩ませていた謎も、これで解けるかもしれない。

 1994年、遠い銀河で発生する強力なガンマ線バーストの観測用に作られたNASAのコンプトンガンマ線観測衛星が、地球の大気から放射される高エネルギーを検出した。宇宙でも最大級のエネルギーを発する現象に似たことがなぜ地球で起こっていたのかについて、誰も説明をつけられなかった。(参考記事:「恒星の最期 大爆発の謎を解く」

 雷が関係しているとは考えられていたが、過去の実験で観測された雷雲のエネルギーは、ガンマ線バーストに匹敵するほどの強さはでなかった。

 それが今、GRAPES-3による10億ボルト級の測定結果により、地球上の雷雲にもこの謎の現象を起こせる可能性があることが初めて示唆された。グプタ氏は、この関連性をさらに裏付けるためにガンマ線検出器を導入したいと考えている。また、落雷によって雷雲のなかの電圧がどれくらい早く消散するのかも調べたいという。

「放電についても調べたいです。これが最も大きな災害を引き起こしますから」

 だが今回の研究結果だけでも、既に他の研究者から高い評価を受けている。

「これまで誰も考えつかなかった方法です」。米ルイジアナ州立大学バトンルージュ校で高エネルギー宇宙線とガンマ線を研究するマイケル・チェリー氏は言う。同氏は、この研究には参加していない。

 超強力な宇宙線が比較的ありふれた雷などの影響を受けるといわれても、以前ならほとんどの研究者が懐疑の目を向けていただろうと、チェリー氏は付け加えた。しかし雷が、地球上の物理学者の手が届く最も強力な天然の粒子加速器のひとつであることを、この研究結果は示唆している。(参考記事:「深宇宙から謎の「反復」電波バースト、過去2例目」

「こうした高エネルギーを研究できる対象は、はるか遠方にあるブラックホールや超新星に限りません。空を見上げればすぐそこにある雷でも研究できるのです」

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