実は危険な競馬、米国では年間約500頭が死亡

競走馬をめぐる過酷な状況、過密スケジュールから薬物投与の問題まで

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=RACHEL FOBAR/訳=鈴木和博
(PHOTOGRAPH BY ROB CARR, GETTY)

京都産業大学による見どころチェック!

勝つことに必死なサラブレッドと帽子を被った優雅な観客

2018年には年間493頭の馬が死亡。原因はレース中の事故

調教師の薬物使用が馬にリスクを負わせる

 毎年初夏のこの時期になると、米国では、俊足を誇る競走馬たちが「三冠」を目指して競い合う。三冠とは、100年あまりの歴史をもつ3つのレースを制することを指す。コースを走り抜ける優雅なサラブレッドを見ようと、競馬場には大きな帽子をかぶった陽気なファンたちが詰めかける。(参考記事:「ロイヤルアスコット、6月ベストフォト」

 だが、その人気とは裏腹に、競馬は競走馬にとっても騎手にとっても危険なスポーツだ。米国ジョッキークラブの公式データによると、米国では2018年だけで493頭の競走馬がレース中の事故が原因で死んでいる。

 死因の大半は、四肢の損傷に関するものだ。その他の死因として、呼吸器不全、消化器不全、多臓器不全が続く。

 カリフォルニア州にあるサンタアニタパーク競馬場では、ここ数カ月で23頭の馬が死んでいるが、そのほとんどが四肢の損傷による。カリフォルニア州競馬委員会で競走馬の診察を統括しているリック・アーサー氏は、その原因と考えられるものとして、競走馬をめぐる過酷な状況をあげる。

 中でも、カリフォルニア州南部などの温暖な地域では、一年中競馬が行われるため、競走馬に必要な休養が与えられない状況だという。「アスリートにとって、一年じゅうベストなコンディションを保ち続けるのは難しいことです」

 サンタアニタパーク競馬場で前例がないほどの競走馬が死んでいることによって、競馬の安全性にも再び目が向けられるようになっている。

 たとえば2019年3月には、超党派の議員が連邦法案「2019年競馬公正法」を提出した。これは、競走馬のドーピング検査に全国一律の基準を設けようという法案だ。現在の米国の競馬産業は、州ごとに規制されている。(参考記事:「ウマの驚きの事実が続々発覚、大規模ゲノム研究で」

 サラブレッドの繁殖やレースの改善にあたっている米国ジョッキークラブもこの法案を支持しており、「競走馬の健康と安全を守るために、他国で行われているような最適な対策を講じるべき時です」という声明を出した。

骨折は致命傷

 人間なら、足を骨折しても簡単に治療できる。しかし、競走馬の骨折は死の宣告に近い。

 ウマの足には軟組織がほとんどないため、折れた骨が皮膚を突き破ったり、骨折箇所より先への血液の循環を妨げたりすることが多く、感染症にもかかりやすくなる。(参考記事:「動物大図鑑 ウマ」

 ひどい場合は、治療が不可能なほど骨が細かく砕けてしまうこともある。

 たとえ整骨できたとしても、何週間も体重を支えられない。体重を四肢に均等に分散できないと、ひづめの内側の軟組織が炎症を起こす蹄葉炎を発症する危険もある。これは死に至ることもある病気だ。

 アーサー氏によると、通常、自分の脚で立てなくなったウマは生き延びることができない。そのため、安楽死させられることが多いという。

 また、競走馬が転倒すれば、騎手も負傷することが多い。カリフォルニア州の競馬に関する約5年分のデータを2013年に分析した結果では、報告されている360回の落馬によって184人の騎手が負傷したことがわかっている。

 大半はレース中に発生したもので、「競走馬の大けがや死亡」が原因だという。

薬物利用をめぐって賛否両論

 動物福祉団体は、すでに危険な状況をさらに悪化させているのが調教師だと非難している。問題視しているのは、競走馬への運動能力向上薬や鎮痛剤の投与だ。(参考記事:「将来の五輪、クローン馬が出場可能に」

 このような薬を使うと、速く走れるようになったり、痛みがあっても力を出せるようになったりする。たとえば、3月のジョッキークラブの報告によると、「ラシックス」という商品名で知られている薬品フロセミドは、治療薬という名のもとで利用できる運動能力向上薬だ。

 この薬は、肺出血の治療用に処方されるが、利尿作用もあるため、体重の減少につながる。体重が軽くなれば速く走れるので、ラシックスを使えば3馬身から5馬身ほど速く走れるとされている。こういった薬の利用が法的に認められているかどうかは、州によって異なる。

 このような薬物は禁止すべきという動物保護活動家がいる半面、競馬産業関係者は自己規制が望ましいと考える。(参考記事:「【動画】メキシコ伝統の馬術競技に「虐待」の声」

 前述の競馬法案の目的は、独立した自己規制団体の設立だ。米アンチ・ドーピング機関(USADA)とも連携して、競走馬に対する薬物投与の規制、許可する薬物と許可しない薬物の明示、レース前24時間の薬物投与の禁止などの法制化を目指している。

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