「琵琶湖級」のマグマだまりを発見か、ルーマニア

3万年間噴火しなかった火山の地下のマグマの量と状態を推定

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Maya Wei-Haas/訳=三枝小夜子
PHOTOGRAPH BY KÓSA ISTVÁN

京都産業大学による見どころチェック!

死火山と思われていた火山の地下に、うごめくマグマ

ぐつぐつと煮えたぎるマグマのイメージは、間違いだった!?

「どろどろの石のおかゆ」という認識が描き出す、マグマの新たな物語

 ルーマニアの緑豊かな丘に抱かれたスフンタ・アナ湖は、シオマドゥル火山の古い噴火口の中にある。この火山が最後に噴火したのは約3万年も前のこと。長らく活動していないことから、多くの科学者は、シオマドゥル火山が再び噴火することはないだろうと考えていた。

 だが最近の調査により、この穏やかな風景の地下数10キロメートルには、驚くべき量のマグマが存在する可能性が指摘された。6月19日付けで地球・惑星科学の学術誌「Earth and Planetary Science Letters」に掲載された論文によると、その量は20~58立方キロに及ぶかもしれないという。これは、最大で琵琶湖の容積のほぼ倍に相当する。(参考記事:「香港の地下に古代の超巨大火山を発見」

 なお、火山の地下に大量のマグマがあるからといって、将来必ず噴火するとは限らない。ただ、何万年も噴火していないために見逃されがちな火山の中にも注意が必要なものがあることを、この論文は教えてくれる。

「私たちは活動中の火山を優先的に警戒します。活火山のリスクは目に見えるからです」。論文の著者であるフランス、クレルモン・オーベルニュ大学のミカエル・ロモニエ氏はそう話す。「ですが、長年噴火していなくても比較的新しい火山なら見逃してはなりません。こうした火山にも、評価しておくべきリスクがあるかもしれないからです」

 研究者らは今回、地球物理学・地球化学的分析に数値シミュレーションを組み合わせ、シオマドゥル火山の下がどのような状態になっているかを探った。この手法は、同様の火山が時間とともにどのように変化していくかを解明する上で役立つと期待される。

「これは非常に優れた研究です」と称賛するのは、米スミソニアン協会世界火山活動プログラムの火山学者ジャニーン・クリップナー氏だ。一方で、地下数キロの状況を詳細に解明するのは信じられないほど難しいとも指摘する。なお、氏は今回の研究には関わっていない。

「まだ断定はできません」と彼女は言う。「地下に大量のマグマがある可能性を示す多くのデータが得られた、と言えるだけです」

マグマの量がわかっていなかった

 地球上では常に20以上の火山が噴火中だが、活動するおそれのある火山はそれよりはるかに多い。問題は、それがどの火山なのかを探り当てることだ。(参考記事:「活動続くキラウエア火山、巨大津波の心配は?」

 シオマドゥル火山のように過去1万年以上噴火していない火山は、かつては「死火山」と呼ばれていた。しかし、このような分類にはあまり根拠がないとクリップナー氏は言う。

 火山の分類として「『死火山』は非常に不確実な呼び方です」と彼女は話す。例えば、米国イエローストーン国立公園のスーパーボルケーノ(超巨大火山)のように、噴火と噴火の間に数十万年の休眠期間があるような火山もある。(参考記事:「イエローストーンに潜む巨大マグマ」

 活動していないように見える火山が将来噴火する可能性があるかどうかは、火山の地下に溶融した岩石、すなわちマグマが大量にあるかどうかが1つの判断材料になる。過去にシオマドゥル火山で行われた研究では、その可能性が示唆されていた。地中での地震波の反射を調べたところ、マグマだまりの存在が示唆されたのだ。また、岩石の温度や含水率などを知る手がかりになる地下電気伝導度の測定結果も、地下5~27キロの領域が固体ではなく、どろどろのおかゆ状であることを示唆していた。(参考記事:「超巨大火山のマグマ、休眠から数十年で巨大噴火も」

 それでも、岩石が本当に溶融しているのか、そうであるならどのくらいの量なのかについては、まだわからなかった。

結晶が語るマグマの性質

 これらの疑問に答えるため、ロモニエ氏らはまず、過去の噴火でシオマドゥル火山から噴出した岩石を調べた。マグマは火山の地下でゆっくり冷えて結晶を形成し、一部の結晶には形成時の条件が記録されているからだ。

 例えば、マグマが冷えたときにできる角閃石(かくせんせき)という鉱物では、結晶化する際の温度と圧力に応じて化学的性質が異なる。そのため、噴出した角閃石を調べれば、古いマグマの状態を知るのに役立つ。

 研究チームは、そのデータをマグマの大きさの情報と組み合わせて数値シミュレーションを行い、マグマがどのくらいの速さで冷え、現在の火山の地下がどのような状態になっているかを推定した。その結果、火山の下の比較的浅い地殻は平均で15%溶融しており、一部の領域では45%も溶融しているとわかった。

 過去に噴出した、さまざまな温度、圧力、含水率で形成された岩石の電気伝導度に基づくモデルからも、研究チームは結果を確認した。これは、シオマドゥルの地下電気伝導度の測定結果の解釈にも役立った。

 第2のアプローチでも同様の結果が得られ、火山の地下領域の20~58%が溶融していることが示唆された。値の幅は広いものの、地下の状況をどのように見積もっても、シオマドゥルにはかなりの量の岩石が溶けていることに変わりはないと推測される。

「そのように考えなければ、この場所の地球物理学的に特異なデータを説明できません」とロモニエ氏は言う。

 科学者たちは、火山の下の岩石が約45%以上溶融しているなら噴火の可能性があると考えている。だが45%未満なら、「マグマが結晶のせいで身動きのとれない状態になっているため、噴火することはありません」と米スミソニアン国立自然史博物館の岩石・鉱石部門の学芸員マイケル・アッカーソン氏は説明する。

 つまり今回の分析結果は、シオマドゥルが噴火する可能性があることを示唆しているが、確実に噴火すると言っているわけではない。

どろどろの石のおかゆ

 この研究は、地下深くのマグマがどのような状態にあるかを探っている点でも重要だ。

「従来のマグマだまりのイメージは、地殻の中で真っ赤に熱せられた大量のマグマがグラグラと煮えたぎり、今にも噴出して私たちを殺そうとしているというものでした」とアッカーソン氏は語る。

 しかし、近年の研究から、そのイメージは正しくないことがわかってきている。実際のマグマだまりは、少なくとも一部が結晶化していて、どろどろの石のおかゆのようになっている。結晶化の比率はマグマだまりごとに大きく異なる。

 シオマドゥル火山の地下では、溶けた岩石が2カ所に集まっていると考えられている。1つは、地下5~18キロの浅い領域で、もう1つは、地下30キロよりも深い高温の領域だ。それぞれの領域は、温度と組成がわずかに異なる部分が重なり合ってできていると推測される。現時点では、2つの領域がどのようにつながっているのか、正確なところはわからない。しかし、今回の研究結果は、この火山の内部のしくみについて貴重な情報を与えてくれる。

「地球全体のマグマの物語を描くための新しいデータが得られました」とアッカーソン氏は語る。「あくまで1つの火山の、ある時点のデータです。しかし、マグマの形成と進化に関する、より広範で詳しい全体像を解明する手がかりになるのです」

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