仲間の気持ちを声で聞き分け、ヤギで判明

「餌が出てきてうれしい声」や「仲間外れにされた不満の声」など

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Natasha Daly/訳=高野夏美
(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

京都産業大学による見どころチェック!

ヤギに取り付けた心拍数モニターから見えてきた、感情の関係性

仲間のストレスに気づく意味

ヤギの感情移入? 決まった仲間と一生を共に過ごすことも

 動物たちが周囲の世界をどう感じ取っているかは、いまだに謎が多い。高度な社会性をもつヤギも同様だ。

 ヤギはYoutubeでも人気者で、かわいらしくて笑える動画がいくつも投稿され、再生回数は数百万回に上る。表現力豊かで社交的な彼らを、擬人化したくなる気持ちはわかるが、実際どうなのかはほとんど解明されていなかった。(参考記事:「【動画】電線ぶらり、ドア破壊、ヤギの奇妙な行動」

 学術誌「Frontiers in Zoology」に7月10日付けで掲載された新たな研究によると、ヤギはほかのヤギが喜んでいるか不機嫌かを、声を聞いて判別できるという。つまり、ヤギは仲間の気持ちがわかるということだ。今回の発見は将来、飼育されているヤギの扱いに影響してくる可能性もある。

「最も基本的なレベルで、ヤギは周囲の環境を認識している」ことが示されたと、論文の筆頭著者であるルイージ・バシャドンナ氏は話す。「人間以外で仲間の感情を感じ取れる動物という点で、ヤギはウマ、霊長類、ヒツジなどと共通しているのです」。同氏は英ロンドン大学クイーン・メアリー校で博士課程修了後の研究助手を務める。(参考記事:「「笑い声」で明るい感情が伝染、NZの希少オウム」

 今回の実験を行った研究者たちは、ヤギが声を通じて感情を表現できることを以前に発表していた。今回はより大きな研究チームで、ヤギがほかの個体の感情を判別できるかを探ることにした。「感情が他者に与える効果を実際に調べなければ、社会性の大きな側面を見落としてしまいます」と、バシャドンナ氏。

 実験では、英ケント州の保護施設で飼われている24匹のヤギを対象とした。この施設は、世話を放棄されたり、虐待されたりしたヤギを保護している。

鳴き声の聞き分けテスト

 研究チームは、ヤギが喜んでいるときの鳴き声(餌が運ばれてきたとき)、軽い不満を表しているとき(群れから5分間引き離されたときと、自分は食べられない状態で、ほかのヤギが餌を食べているのを見ているとき)の鳴き声を録音した。(参考記事:「超音波でしゃべるネズミの会話、スロー再生で解読」

 次にその声を、心拍数モニタを装着した別のヤギに聞かせた。その結果、声の性質が変化したときにヤギが強く注意を向けることがわかり、違いに気付けることをうかがわせた。また、喜んでいる声を聞くと、心拍と心拍の間隔の変動(心拍変動)が大きくなるという相関がみられた。哺乳類にとって心拍変動が大きいのは、満足した状態にあるサインだ。

 実験に使った「不満な声」は、ヤギにさほど強いストレスをかけない状況で録音されたため、本当につらいときの叫び声とは程遠いとバシャドンナ氏。そのため人の耳には、喜んでいるときの声とほとんど同じに聞こえる。だが、ヤギたちはうれしいときの声よりも、不安や不満を表す声の方により長く注意を向けた。

 これは理にかなっているとバシャドンナ氏は話す。「潜在的な危険があるときは、パーティーで仲間たちと食事をしているときよりも、強く警戒する必要があります」(参考記事:「【動画】ヤギがブランコで「気絶」、原因は遺伝」

仲間のストレスに気づく意味

 重要なのは、感情が何らかの点で伝染するのかどうかを今後見極めていくことだと、バシャドンナ氏は話している。例えば、ほかのヤギが困ったり苦しんだりしているのに気付いたヤギは、同じようにストレスを感じ始めるのだろうか。(参考記事:「飼い主のストレスは愛犬にうつる、研究」

 もしそうなら、ヤギを世話して飼育している人たちは、それを知ってどうするだろうかと彼は考えている。「もし1頭のヤギに劣悪な扱いをすれば(そのヤギは鳴き声でストレスを表し)、ほかのヤギにも影響を与え、集団内に広がるかもしれません。良くも悪くもこれをどう使うかは、私たち次第です」

ヤギはほかの個体の喜びや苦痛を感じ取れると確認されたことで、家畜のヤギの扱いにも影響があるかもしれない。
(PHOTOGRAPH BY VINCENT J. MUSI, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 バシャドンナ氏は、この研究がヤギの複雑さに今以上に光を当てるきっかけになり、コミュニケーションのしかたや、どんな関係を持つのかについて、さらに研究を進めるための基礎になればと期待している。「ヤギがいつも決まった仲間と行動を共にし、それが一生続くことも珍しくありません」

人間以外も感情移入ができるのか

 さらに、ヤギは感情移入できるのかという疑問もある。感情移入とは、他者の感情を感じ取るだけでなく、自分の体験のように理解する能力だ。人間以外の動物の感情移入を評価するのがいかに難しいかについては、これまでにいくつもの研究がなされている。ラット、ニワトリ、イヌなど、多くの動物が少なくとも感情移入のサインは示すようだという研究結果もあるが、これらの動物が人間と同じように感情移入を経験しているかを疑問視する研究もある。

 米ニュージャージー州にある、特別な支援を必要とするヤギの保護施設「ゴーツ・オブ・アナキー」の設立者、リアン・ローリセラ氏は、保護したヤギ同士がさまざまな高度な関係を築いた例を無数に見てきたという。(参考記事:「仲間の心に寄り添うゾウの共感能力」

「ヤギたちは、お互いから力をもらっています。仲良くなったペアやグループで一緒に食べ、遊び、日光浴をします」と彼女は言う。「双子の姉妹だった子ヤギの片方が死んでしまったとき、残された子ヤギの隣に別のヤギが横たわり、寄り添って慰めていました」

「ヤギの能力は、時に過小評価されているのです」と、バシャドンナ氏は話している。

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