プレートに「ファスナー」!?謎の火山活動に新説

沈み込み帯で死にゆくプレートの運命を探る、米オレゴン州

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Maya Wei-Haas/訳=ルーバー荒井ハンナ
(PHOTOGRAPH BY WILLIAM HAWLEY)

京都産業大学による見どころチェック!

消滅した海洋プレート

日々の災害の原因は地下で引き裂かれたプレートか

プレート間のひずみが巨大地震を引き起こす可能性も

 米カリフォルニア大学バークレー校の博士課程に在籍するウィリアム・ハウリー氏は、米西海岸沖を南北に走る巨大な「カスケード沈み込み帯」に注目していた。ここでは海洋プレートであるファンデフカプレートが大陸側の北米プレートの下に沈み込み、ひずみが蓄積されている。そして、いずれはひずみが解放されて巨大地震を引き起こすだろうと危惧されている。(参考記事:「北アメリカ北西部、世界の津波危険地域」

 しかし、ハウリー氏が気になって仕方がないのは、オレゴン州の地下に潜り込んだファンデフカプレートの一部が、州の中央部あたりで消えているように見える点だった。この欠落に気付いたのはハウリー氏が初めてではなかったが、氏はこれが何らかの形で地表にも影響を与えているはずだと考え、研究していた。

 その結果、学術誌「Geophysical Research Letters」に先月掲載された論文で、ハウリー氏と共著者のリチャード・アレン氏は、地下150キロ以上の深さでプレートがゆっくりと引き裂かれているために欠落が生じているという説を提唱した。

「地下深くの出来事のように思えるかもしれない」とハウリー氏。しかし、これが地表付近で起こっている様々な現象の原因となっている可能性があり、将来の災害予知にも役立てられるかもしれないという。

 例えば最新のモデルでは、引き裂かれたプレートの南側が時計回りの方向に回転するように移動して、オレゴン州南部やカリフォルニア州北部で巨大地震を引き起こす事態が想定されている。また、オレゴン州で見られる謎の火山活動も説明できるかもしれない。(参考記事:「謎の地震が世界を駆け巡る、20分超継続、原因不明」

 さらにこの研究では、プレートがその一生を終えるときの様子も垣間見ることができる。かつて太平洋の東部には、ファラロンプレートという巨大なプレートが存在した。ところが今から1億8000万年前、超大陸パンゲアが分裂を始め、北米プレートの下にファラロンプレートが沈み込み始めた。今はほとんど飲み込まれてしまったファラロンプレートが残した最後の破片のひとつが、ファンデフカプレートだ。沈み込んだプレートがどうなってしまうのかはまだ解明されていないが、地球上の海洋プレートはすべてこのような運命をたどることになっている。(参考記事:「パンゲア大陸形成の謎に新説」

「現在私たちが目にしているのは、死にゆく海洋プレートの最期です」と、ハウリー氏は言う。

プロパゲーターウェイクという「弱いファスナー」

 地球の地殻はいくつものプレートに分かれて、地表をゆっくりと移動している。プレート同士は境界線でこすれ合い、ある場所では互いに離れ、別の場所では衝突し合っている。こうした衝突はしばしば海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む「沈み込み帯」を形成する。(参考記事:「【解説】地球のプレート運動、14.5億年後に終了説」

 以前は、沈み込み帯で海洋プレートはカーテンを下ろすようにそっくりそのまま地下へ落ちてゆくと考えられていた。

 しかし現在では、沈み込んだプレートが歪んだり破壊されたりして、予想のつかない変形を遂げることがわかっている。だが、地下で起こっているこの修羅場が地表にどのような影響を与えているかまでは解明されていない。特に、プレートがその一生を終えようとしている直前はどうなのだろうか。死期が迫っているファンデフカプレートの付近では、まだ活発な地質活動がみられる。そのためデータを取りやすく、このような研究にまさに適していると言える。

 まずは、欠落部分がデータの誤処理などではなく、本当に存在するのかどうかを確かめることだ。そこでハウリー氏とアレン氏は、同地域で発生した217回の地震が伝わる速度を地図に書き入れ、地下の様子を詳細に描き出した。地震の速度は岩石の温度や組成によって変化する性質を利用して、大陸プレートの下に沈み込んだ海洋プレートの一部がやはり欠けていることを確認した。

 もうひとつ、あてはまったパズルのピースがある。ファンデフカプレートには、プロパゲーターウェイクと呼ばれる筋が1本通り、この部分は地殻が弱くなっていることが過去に判明している。ハウリー氏とアレン氏は、そのプロパゲーターウェイクをなぞるようにしてプレートが引き裂かれていることに気付いた。

 プロパゲーターウェイクは、ファンデフカプレートの海底に露出した部分から北米プレートの下に潜り込んでいる部分にまでずっと伸びている。その先は、おそらくマントルまで及んでいる可能性もある。そして、北米プレートの下に潜り込んだ部分で、プロパゲーターウェイクの南側が時計回りに回転しながら、北側部分からゆっくり遠ざかろうとしているため、プレートが南北に引き裂かれているのではないかと論文の著者らは推測している。

「あたかもプレートのファスナーを開いているように」と米カーネギー科学研究所の地震学者ララ・ワグナー氏は説明する。「でもとても弱いファスナーで、それがプロパゲーターウェイクというわけです」

 この動きによって、ファンデフカプレートの南側にあたるオレゴン州南部とカリフォルニア州北部の沖合で確認されたひずみも説明できるかもしれない。この一帯は、地震発生のリスクが高い断層がたくさんある。最新のモデルでも、まさにその可能性が示唆されている。

逆方向に進む謎の火山活動

 最後のパズルのピースは火山活動だ。オレゴン州南部には一連の火山の噴火によってできた「ハイ・ラバ・プレーンズ」という名の溶岩高原が広がっている。明るい色の流紋岩と漆黒の玄武岩が混じる一風変わった地質が特徴で、その中間の組成も発見されている。

 驚くべきことに、これは付近のイエローストーン火山帯とよく似ていた。さらに、流紋岩の年代を調べてみると、いずれも火山が年代順に並んでいることがわかった。

 イエローストーンの火山は、地下にあるマグマのホットスポットが作り出したものだ。このあたりの北米プレートは少しずつ南西へ向かって移動しているが、プレートの下にあるホットスポットはほとんど動かない。そのため、プレートが移動する方向へ古い噴火口が移動してゆく。つまり、西へ行くほど火山の年齢が古くなる。(参考記事:「超巨大火山のマグマ、休眠から数十年で巨大噴火も」

「問題は、ハイ・ラバ・プレーンズの火山の場合、年代が若くなる順序が逆方向なのです」と、ハウリー氏は説明する。すなわち、西へ行けば行くほど流紋岩が新しくなるのだ。これに関しては、これまでいくつもの仮説が出されているが、完璧な答えはまだ見つかっていない。

 この問題についても、今回の論文は説得力のある仮説を提示した。最新のモデルでは、ハイ・ラバ・プレーンズの最も新しい領域は、地下でちょうどプレートが南北に引き裂かれる部分、ファスナーで言えばつまみの部分に位置している。そして、ファスナーが西へ向かって開かれると、マントルが上昇して地殻を溶かし、マグマがそのたびに噴き出して、新しい流紋岩が西へ向かって次々につくられるというわけだ。

残る課題も

 米カンザス州立大学の火成岩岩石学者マシュー・ブルーセク氏は、大変興味深い論文であると評価しつつも、岩石の組成についてもう少し情報を集める必要があると指摘する。特に、岩石に含まれる微量元素を詳しく調べ、地下でプレートが引き裂かれていると推測される他の場所の岩石と比較してみたいとしている。

 例えば、過去の研究では、カリブ海に浮かぶイスパニョーラ島や、ロシアのカムチャツカ半島とアラスカ州アリューシャン列島の間にも、プレートに似たような裂け目があることが示唆されている。様々な地域の岩石の組成を比較することによって、マグマの生成についての理解が深まるだろう。(参考記事:「大西洋沖の怪現象に新説、プレートが剥離中?」

 オレゴン州ポートランド州立大学の火山学者マーティン・ストレック氏も、最新のモデルでハイ・ラバ・プレーンズの全てが説明できるわけではないと付け加える。例えば、玄武岩は流紋岩のように年代順に並ばず、無差別にいたるところで噴出したようにみえる。

 とはいえ、最新の論文はオレゴン州の地下で起こっている現象について説得力のある可能性を提示し、地質活動の基本的な過程に関する極めて重要な疑問にも取り組んでいる。

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