海藻は「温暖化対策のカリスマ」、最新研究

炭素を貯蔵し、海の酸性化を和らげ、バイオ燃料にもなる万能選手

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Todd Woody/訳=高野夏美
(PHOTOGRAPH BY REBECCA HALE, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

京都産業大学による見どころチェック!

海の酸性化や脱酸素化を緩和する“海のジャングル”的存在

乾燥してバイオ燃料にすることも。あらゆる可能性をもつ海藻

気候変動に対応する海藻養殖、アジア諸国がビジネス化を狙う

  アマゾンの森林火災が続くなか、二酸化炭素を吸収してくれる森づくりへの関心が高まっている。しかも、その「森」は焼失することがない。なぜなら、水中にあるからだ。(参考記事:「未曽有のアマゾン森林火災、動物への影響は」

 炭素の吸収源として重要な熱帯雨林が森林伐採による大打撃を受けている今、気候変動対策として、海藻に注目した研究が増えている。昆布の仲間のような大型の藻類からなる「海のジャングル」は、成長が速く、非常に効率よく炭素を貯蔵できる。また、海藻は酸性化や脱酸素化など、地球温暖化が海に与える影響を緩和することにより、海の生物多様性や、人々の食料をも守ることができる。(参考記事:「温暖化で「窒息」する海が世界的に拡大、深海でも」

「ようやく海藻にスポットライトが当たる時が来ました」と、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の海洋科学者、ハリー・フレーリック氏は話す。

 フレーリック氏は、8月29日付けで学術誌「Current Biology」に掲載された論文の筆頭著者。論文では世界で海藻養殖をどの程度行えば、地上の炭素排出を相殺できるかを初めて数値化した。また、大型藻類の栽培に適した海域も地図上で明らかにした。(参考記事:「温暖化対策の切り札が地球にとっては逆効果?」

 研究によると、カリフォルニア州沖の米国海域のうち、3.8%の範囲で海藻を養殖すれば、同州の農業による炭素排出を相殺できるという。

 米国では今のところ、海藻は食品、医薬品などの用途で小規模に養殖されている。しかし、科学者たちが提案するのは、大規模の養殖場を確立することだ。海藻を大きくなるまで育てて二酸化炭素を吸収させた後、収穫して深海に沈める。海藻が吸収した炭素は、数百年から数千年にわたって閉じ込められる。

 今回の研究では、世界の海藻が育つ海域のわずか0.001%で大型藻類を栽培し、海中に沈めれば、急成長している世界の水産養殖業から排出される炭素をすべて相殺できるという。水産養殖業は、世界中の海産物の半分を供給している。論文によると、海藻養殖に適した海は世界中で約4800万平方キロあるという。

実現には課題が山積み

 海藻を深海に沈めるための「技術はまだありません」と、フレーリック氏は話す。「実現のために何が必要なのか、今回の論文をきっかけに、エンジニアやエコノミストたちの議論が活発になればと期待しています」

「これまでも、気候変動を緩和する有力な手段として海藻養殖を挙げる研究や、世界的な推計はありましたが、今回の研究はそれを前進させるものです」と、サウジアラビアにある紅海研究センターの科学者で、海藻研究をリードしているカルロス・ドゥアルテ氏は語る。「私の見解では、この推計はかなり控えめな数字です。きちんと海藻を育てられれば、潜在力はずっと大きくなります」

 だがドゥアルテ氏は、海藻を沈めることには反対の立場だ。

「海藻はとても価値の高い素材です。深海に処分するよりも、気候変動の緩和に役立てる良い使い方があります」とドゥアルテ氏。

 フレーリック氏や他の海洋生態学者も、海藻を「温暖化対策のカリスマ」と呼ぶ。大型藻類は、海中や陸上のさまざまな環境問題に万能に対処できるからだ。

 海の酸性化や脱酸素化を緩和したり、過剰な栄養分を吸収したり、少なくとも77カ国では海洋生物の生息場所ともなる。海藻は加工してバイオ燃料にすることもできる。

 しかも、ある研究によると、ウシなどの家畜の飼料に海藻を加えることで、げっぷによるメタン排出を70%も減らせるという。家畜の出すメタンは、世界の温室効果ガスの少なくない部分を占めている。さらに、海藻は石油系の肥料の代替品としても使える。(参考記事:「温暖化に朗報か メタン排出少ないウシの秘密解明」

「計算上は、海藻が気候変動に対してとても有効な手段になりうるという結果が出ています。しかし、市場からそれが妥当だと認められなくてはなりません」と話すのは、米ロサンゼルスの企業「プライマリー・オーシャン」の最高責任者、スコッティ・シュミット氏だ。同社は、米国政府が出資する、大規模な海藻養殖場の設置に向けた技術開発プロジェクトに携わっている。「炭素隔離のためだけに海藻を養殖するのは、現時点では実現可能なビジネスではありません」(参考記事:「アメリカ、「排出権取引」のゆくえ」

 プライマリー・オーシャンの戦略は、農業用に販売できる物質を海藻から抽出するというものだ。それにより利益を出し、炭素クレジット(温室効果ガスの削減・吸収量を数値化し取引可能な形態にしたもの)が利用できるようになれば、抽出後に残った藻類を隔離できるだろう、とシュミット氏は話す。

 海藻養殖に適した長い海岸線がありながら、米国では沖合での養殖はほとんど行われていない。世界の海藻養殖の大半を担っているのは、中国などアジア諸国だ。大型藻類を「ブルーカーボン(海中の生態系に蓄積される炭素)」を貯蔵する場として育てるうえで、これらの国がリーダーシップを取ることが期待される。

 ドゥアルテ氏は言う。「米国では、海藻養殖の許可よりも石油掘削の許可を取る方が、おそらく簡単でしょうね」

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