ワシントン条約会議が終了、8つの要点まとめ

絶滅から動物を守るために、今、知っておきたいこと

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Dina Fine Maron and Rachel Fobar/訳=桜木敬子
(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)

京都産業大学による見どころチェック!

130種以上の生物を新たに保護、9種を強化することを決定

保護の基準はデータか各国のニーズか?決定内容に不満の声も

止まない不満の声。異論の多い議題について透明性の確保が求められる

  スイス、ジュネーブで開催されていたワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の締約国会議が閉幕した。2週間にわたる会議の結果、130種以上の生物が新たに保護され、9種の生物が保護を強化されることが決まった。

 すべての参加国が満足したわけではない。「不満感が議場に漂っていたのを危惧しています」と同条約の事務局長イボン・イゲロ氏は話す。「『うちは都合が悪い、うちは昔から苦しめられている』といった議論になるのです」

 会議は8月17日〜28日に開催された。182カ国および欧州連合(EU)が500以上の生物種に関する提案を検討したが、多くの場合、政治的、経済的、地理的な利害によって採決の票が割れた。

 これまでは、生物学や生態学などで蓄積されたデータに基づいて保護のレベルを決めていたが、現在は様子が変わってきた。動物のそばで暮らす人々のニーズにどれだけ重きを置くかという点で、意見の不一致が生じてきているのだ。例えば、狩猟やエコツーリズムによる経済的な利益も、保護レベルを議論するうえで欠かせない要素になってきている。

 ワシントン条約は1975年に発効し、近年では3年ごとに締約国会議が開かれている。今年の会議で明らかになった8つの要点や課題を整理しておこう。

1 ワシントン条約は海洋生物も保護する

  アオザメやサカタザメ、トンガリサカタザメの保護を強化する提案が可決された。一方で、本当に保護の効果があると証明されるまで、いかなる海洋生物も規制対象から除外するという、アンティグア・バーブーダによる提案が、容赦なく否決された。(参考記事:「フカヒレに使われるアオザメ、国際取引規制対象に」

「ワシントン条約は海洋生物を守るためのものではない、という考え方が古くからあります。私たちからすると馬鹿馬鹿しいのですが」と国際動物福祉基金(IFAW)の国際政策ディレクター、マット・コリンズ氏は話す。

 海洋生物の規制は地域の漁業団体に任せるべきだとの主張は、ワシントン条約が当初、陸上の動物を扱うためにできたときからあった。この考え方は1970年代の遺物だと非営利団体、野生生物保護協会(WCS)のルーク・ウォーウィック氏は言う。

 今回特徴的だったのは、アオザメ保護の提案に反対していた日本が、最終会議で議論の再開を持ち出さなかったことだ。保護活動家たちも驚く「奇妙な幕切れ」だったが、ウォーウィック氏は、サメもワシントン条約によって保護するという考えが定着してきた証と見ている。

「ワシントン条約は海洋生物も保護し、しかもそれがうまくいっているとの認識が広がりつつあります」

2 エキゾチックペット取引が肥大化している

  今回の提案のうち3分の1以上が、爬虫類と両生類に関するものだった。米国や欧州などでエキゾチックペット(風変わりな野生動物のペット)としての人気が高まったことにより、危機にさらされている動物たちだ。その中には、インドホシガメやトッケイヤモリといった種も含まれている。(参考記事:「SNSに惑わされるな、飼うとヤバい動物10種」

 コツメカワウソとビロードカワウソも、特にアジアのペット人気によって苦しめられてきた種だ。全体で見ると、検討された56の提案のうち20以上が、ペット取引に端を発していた。ほとんどの提案が保護の強化を勝ち取ったものの、104種のグラスフロッグ(glass frog、アマガエルモドキ科)すべてを保護するという提案だけは通過しなかった。(参考記事:「人気者 ペットとして飼われるカワウソの受難」

危急種とされるインドホシガメは、世界中で最も多く輸出入されているリクガメの一種だ。今回のワシントン条約会議で、その国際商取引の禁止が可決された。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)

3 「保全のための資金」問題は解決できず

  保全のための予算をどう捻出するかという問題は、長年の議論の的だ。今年もまた、特にゾウとサイの保護について議論が持ちあがった。

 エスワティニ(旧スワジランド)は、同国が330キログラム近く保有する990万ドル(約10億5000万円)分の価値があるサイの角を売却できるよう、サイの商取引を解禁する案を提出した。しかし、合法的な取引が行われることで密輸を誘発するのではないかと懸念され、提案は否決された。だが、エスワティニのような国家は、保全のための資金をどのようにして確保すればよいのか? 答えは示されてない。

 エコツーリズムや寄付が助けになる、という保護活動家もいる。議論の最中、エスワティニの代表は怒りを込めて、反対国や非営利団体がサイの保護資金を支出するよう求めた。「意見に責任が伴っていないのです」と彼は反対派を批判する。「資金がない限り、サイも人も死に続けます」(参考記事:「サイの角、南アで取引解禁へ 密猟増加の懸念も」

4 アフリカ内でゾウ保護に温度差

 象牙やサイの角などの取引管理を巡っては激しい議論になった。一方の陣営であるボツワナ、ナミビア、ジンバブエなどの南部アフリカ諸国は、自国の動物を取引する権利や保護の見返りがあるべきだと主張した。もう一方の「アフリカゾウ連合」は、アフリカゾウが世界中で取引禁止となることを望む30カ国以上の集まりだ。加盟国のひとつであるケニアは、これらの種には今も保護が必要で、現状以上の商取引を可能とすべきではないと主張した。

5 EUの28票が決定を左右する

 「ワシントン条約においてEU28カ国は非常に大きな影響力を持っています。多くの場合は、保全側にとっての力になります」とWCSのスーザン・リーバーマン氏は話す。アオザメの強化保護の提案は、なんとか可決された。観測筋によると、もしEUが賛成していなかったら、結果は逆だったはずだという。

 しかし、EUが保護の提案を覆すこともあった。グラスフロッグ(欧州でペットとして人気だ)を取引から保護しようという提案は、生息国であるコスタリカ、エルサルバドル、ホンジュラスの熱弁にもかかわらず否決された。

その透明な皮膚からグラスフロッグ(glass frog)と名付けられたカエルたちは、特に米国と欧州でペットとして頻繁に取引されている。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)

6 ワシントン条約の動きでは遅い?

  ワシントン条約の動きの速さでは、生物種を守るのに間に合わないのではないかと疑問を呈しているのが、国際的な動物保護団体ワールド・アニマル・プロテクションの野生生物アドバイザー、ニール・ドクルーズ氏だ。

 同氏は、世界で最も輸出入の多いリクガメの一種であり、国際自然保護連合(IUCN)の危急種に指定されているインドホシガメを何年も調査してきたという。過去のワシントン条約会議で何度も議論されてきたが、今回ようやく国際取引に規制がかかることになった。

 同じように、センザンコウ全8種は2017年になるまで最高レベルの保護を与えられていなかったが、野生生物取引の監視を行う団体、トラフィックによれば、2000〜2013年の間に100万匹が売買されたと推定されている。(参考記事:「需要高まり絶滅危機、センザンコウ密売の実態」

「ワシントン条約は野生生物保護の重要なツールですが、世界規模で生物多様性が失われている速度を考えると、ワシントン条約、政府、そしてNGOがもっと早く動いてくれないかと、いつも思ってしまいます」とドクルーズ氏は話す。

7 不満と批判

  よくある不満の1つは、異論の多い議題の投票で透明性が確保されていないことだ。条約の仕組み上、締約国は他の10カ国の賛同を得られれば、その議題を秘密投票にすることができる。つまり、どの国がどう投票したのか、一般市民が知ることはできなくなる。締約国には一般市民に対する説明責任があるので、これは問題だとリーバーマン氏は言う。

 他にもよくある不満は、検討すべき課題が恐ろしいほど多くなっている点だ。今年の会議が始まる前、ワシントン条約のイゲロ事務局長は、「締約国会議が開かれるごとに、検討すべき提案と書類が増えています。今回は前回に比べ20%多く、そして前回は前々回よりも多かったのです」とナショナル ジオグラフィックに語っていた。「新事務局長として非常に心配なのは、これでワシントン条約が効果的であり続けられるのかということです」とも付け加えた。

 条約が現在、取引の規制を重視しすぎているという点も批判されがちだし、貧しい国が豊かな国と同じように扱われていないとする声もある。条約を遵守しなかった場合、貧しい国には不平等なほど強い制裁が加えられているというのだ。「ワシントン条約において地位を築き、多くのスタッフを抱える国は、自国の立場を守るのがうまいと言えます」と2010年から2018年にかけて事務局長を務めたジョン・スキャンロン氏は言う。

8 最も論争が繰り広げられたテーマ

  今回の会議で最も論争が繰り広げられたテーマは、前回までと同様、ゾウに関するものだった。象牙取引解禁についての提案、象牙の国内取引禁止についての提案、そしてザンビアのゾウ売買を制限している規制の緩和についての提案があったが、3つともすべて否決され、ゾウの立場はおおむね変わらないままとなった。

 しかし、1つだけ会議を通った提案がある。いくつかの国で、アフリカゾウの捕獲と、そこから他国の動物園や飼育施設へ送ることがほぼ完全に禁止されたのだ。近年、主に中国や米国に若いゾウが販売されていることへの懸念を発端としたこの議論は、最終会議で話題を独占した。特にジンバブエが最近、ゾウを売ろうとしていたところだったからだ。

 今回の会議の最後で、次回は2022年にコスタリカで開催される旨が、アナウンスされた。

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