深海タコ、深いほどイボ多く小型化、驚きの発見

「深海巨大症」と逆の例、太平洋の深海に生息するホクヨウイボダコ

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Liz Langley/訳=高野夏美
(PHOTOGRAPH COURTESY NOAA)

京都産業大学による見どころチェック!

タコと聞いてイメージする吸盤。なくてもタコと呼ぶべきか

同じ種でも異なる吸盤のサイズ、その秘密はエサにあった

皮膚の形状は生まれた時に決まる。イボは進化の痕跡

  太平洋の深い海の底にいる、漫画のような大きな目をした薄紫色のホクヨウイボダコ(Graneledone pacifica)には、肌がイボイボのものとすべすべのものがいる。見た目が大きく違うこの生きものたちは、本当に同じ種なのかについて、科学者たちは長く頭を悩ませてきた。(参考記事:「【動画】目玉がかわいすぎる生き物、深海で見つかる」

 10月8日付けで学術誌「Bulletin of Marine Science」に掲載された最新の論文によれば、答えはイエスだ。そして、イボが多ければ多いほど、生息場所の水深が深いこともわかった。米シカゴにあるフィールド自然史博物館で無脊椎動物学を担当する学芸員のジャネット・ボイト氏が中心となった研究だ。(参考記事:「【動画】深海タコが「ありえない場所」で集団産卵」

 それだけではない。研究チームは、最もイボが多く、水深約2700メートルもの場所にも生息するグループは、パソコンのキーボードほどの大きさであることも発見した。水深およそ1100メートルのところにいる体長約90センチのすべすべ肌のグループと比べると、かなり小さい。

 これは「深海巨大症」と呼ばれる生物学的現象と矛盾する、驚きの成果だ。一般的に、深海に暮らす生きものほど体が大きくなる傾向がある。一説には、水温が低くなると細胞のサイズが大きくなって寿命が延び、結果として体のサイズが大きくなるのだという。オオグソクムシ属など一部の種では、低温の水が代謝も遅らせるため、餌が極端に少ない環境でも生きていける。(参考記事:「ダイオウグソクムシ、カリブの深海生物」

 だが、このタコは逆だった。その理由は、餌が少ないせいかもしれないとボイト氏はみる。彼らの食生活はほとんどわかっていないものの、標本の表面に見られた汚れからして、「小さな吸盤を海底のすぐ下に潜らせ、巻き貝や二枚貝、ゴカイなどの環形動物を取っては口に入れている」のではないか、とボイト氏は考えている。

 また、餌が限られていれば、メスの産む卵が小さくなり、成長したタコが小型にとどまることも考えられる。(参考記事:「4年5カ月、卵を抱き続けた深海のタコ」

 この種になぜイボが多いのかも明らかではない。この惑星の71%を占める海はほとんど研究されていない状態であり、まだ発見の余地が大きい、とボイト氏は語った。

生まれつきのイボ

  この研究のため、ボイト氏は遠隔操作の無人探査機(ROV)と有人潜水艇「アルビン」を使い、米国西海岸沖で目的のタコを8匹集めた。これで、確保された標本はフィールド自然史博物館の物も含めて合計50個体に達した。次いでボイト氏らのチームは、このタコの吸盤とイボなどの構造を調べた。

 体の構造のデータが整い、コンピューターで高度な解析を行うと、このタコがイボだらけになるかすべすべ肌になるかを決めるのは水深だとの結論が出た。さらにDNA検査から、どちらのタイプも全く同じ種であることが確認された。(参考記事:「トゲ肌からツル肌に早変わりする新種カエルを発見」

 カナダ、アルバータ州にあるレスブリッジ大学の研究者で、タコが専門のジェニファー・マザー氏は、研究に使われた標本の数が多い点を高く評価している。タコは身を隠すのがうまいことで知られ、高性能な機器がなければ見つからない。深海では特にそうだ。なお氏は今回の研究には関わっていない。

 もちろん、それには献身的な仕事ぶりが欠かせない。「ボイト博士の粘り強さが大きく報われました」とマザー氏。

 氏は続けて、浅い海にすむタコでも凹凸の多い場所で擬態する場合、一時的にイボを出すことがあると指摘した。ホクヨウイボダコのイボもそれが理由ではないかという見解もあった。だがボイト氏は、生きた個体と死んだ個体の研究から、「皮膚の形状」は生まれたときに決まっていることを確認している。(参考記事:「【動画】タコとハリセンボンの死闘、勝つのは?」

ホクヨウイボダコの近縁種Graneledone verrucosaの特にイボの多い例。(PHOTOGRAPH COURTESY NOAA)

イボは進化の痕跡?

  ホクヨウイボダコを含むイボダコ属の種にはいずれもイボがあるが、その目的は定かではない。ボイト氏は、イボは進化の過程で現れた特徴の痕跡かもしれないとして、「今メリットがあるかどうかにかかわらず、この属の全ての種にこの特徴があるのはそのためでは」と話す。

 この無脊椎動物が、水深が増すにつれて小さくなり、イボが増える理由を明らかにするのが、ボイト氏の次の課題だ。例えば、イボの内部に何かヒントがあるのではないかとにらんでいる。「『何だろう』という問いが、『なぜだろう』につながることがあります」とボイト氏。

「全体として」と、ボイト氏は付け加えた。「私の研究は、暗く、餌の少ないこれほどの深海で、生命がどうやって栄えているのかを解き明かす取り組みの一環です」

「彼らは深海でどのように生きているのでしょうか? 全ての深海生物学者が、知りたくてたまらないことだと思います」

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