コウモリは暗闇でどうやって獲物を見つけるのか?

反響定位(エコーロケーション)だけではない、驚くべき3つの戦略

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Jake Buehler/訳=高野夏美
(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ZIEGLER, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

京都産業大学による見どころチェック!

コウモリの多様な採餌戦略のパターン

獲物を捉える技のひとつに「超音波」

物の呼吸音も感知する、非凡で柔軟なコウモリの能力

  コウモリの狩りには、夜行性の動物ならではの難題がある。真っ暗闇の中でどうやって獲物を見つけ、仕留めるかだ。(参考記事:「昼に活動するコウモリを発見、夜行性の謎を解く?」

「空飛ぶ哺乳類」であるコウモリは、優れた方法を発達させた。反響定位(エコーロケーション)といって、音波(超音波)を出し、それが獲物に当たって跳ね返るのを受信して位置を特定する。だが、コウモリが生まれながらに持つこの高度な能力は、彼らが餌を取る巧みな方法の、ほんの一部でしかない。(参考記事:「オキゴンドウの高度な反響定位能力」

 このほど、科学者たちは過去の文献をくまなく調べ、コウモリが暗闇で発揮する能力をリストにまとめた。その研究成果は9月下旬、学術誌「Functional Ecology」に掲載された。

「コウモリが獲物を探すのに使う能力や行動に注目した研究は、これまでにも数多くありました。しかし、彼らがさまざまな感覚を狩りの際にどう使うのかを網羅した研究はなされてきませんでした」と話すのは、パナマにあるスミソニアン熱帯研究所の研究員で、今回の研究を主導したレイチェル・ペイジ氏だ。(参考記事:「小さな“声”で獲物に近づくコウモリ」

「数十年にわたって研究されていても、コウモリの多くの種が潜在的に持つ感覚と認知の仕組みについては、まだほとんどわかっていません」。コウモリは少なくとも1300種いる、とペイジ氏は説明する。「コウモリは夜に飛ぶ動物なので、専用の道具がないと観察が難しい。さかんに研究され始めたのは、ごく最近なのです」

 今回報告されたなかには、動物の呼吸を感知するコウモリや、ハエの交尾の音を聞き取るコウモリがいる。全体的に見ると、コウモリの能力は想像以上に高く、その解明は進んでいないことを、ペイジ氏らの研究は示唆している。

特定のウシの呼吸を認識

  ペイジ氏らが詳しく検討したのは、コウモリが餌を探すのに獲物や他のコウモリからの情報にどのように頼っているかを調べた過去の研究だ。次に、こうした特定の狩猟テクニックを支える感覚を評価し、それぞれの方法について、難点と利点を調べた。

 例えば、森の下生えなど、反響定位がうまく機能しない場所では、コウモリはかすかな音を聞きとる。

 たとえば、ナミチスイコウモリは、眠っている哺乳類からひそかに吸った血液だけを食料としている。彼らは、宿主とするウシなどの呼吸音に反応して活動するニューロン(神経細胞)を持っている。中南米で見られるこれらのコウモリはさらに、特定の個体の呼吸パターンさえ認識することができる。つまり、同じ個体のもとに夜な夜なやってきて血を吸うことができるわけだ。(参考記事:「吸血コウモリはなぜ仲間に血を分け与えるのか」

 「通常、チスイコウモリにとって、宿主は自分よりもかなり体の大きな動物です。踏まれたり、つぶされたり、血を吸っている間に宿主が目を覚まして身を守ろうとする危険があります」と、ぺイジ氏。「うまく血を吸わせてくれる宿主を見つけたら、同じ個体を繰り返し狙うのが、最も安全な戦略なのかもしれません」(参考記事:「コウモリの血を飲む民間療法、毎月数千匹が犠牲に」

 ニュージーランドに生息するツギホコウモリの仲間は、散らかった中で狩りをする達人だろう。この「歩く」コウモリは、採餌にかける時間のうち地上で過ごす時間が40%と、他のどのコウモリよりも長い。散乱した落ち葉の中を昆虫が移動する音を注意深く聞き、管状の鼻孔を使って昆虫の位置を探り出す。(参考記事:「絶滅した古代コウモリの新種発見、中新世のNZ」

交尾中の声を“傍受”

  獲物が、夜にさかんに発する音を都合よく利用するコウモリもいる。交尾のための鳴き声を“傍受”するのだ。

 例えば、中南米のカエルクイコウモリは、トゥンガラガエルのオスが池に集まって発する賑やかな鳴き声に狙いを定め、獲物を見つけて捕らえる。このカエルがメスに呼びかける声に着目することで、カエルクイコウモリはカエルが集まる地点を見つけ、たっぷり食事を取ることができる。(参考記事:「カエルを波紋で探知するコウモリ」

 ヨーロッパと中東に生息するノレンコウモリは、交尾中のハエが立てる特徴的な羽音に引き付けられる。この戦略で、ノレンコウモリは十分に餌を取れる。

仲間のコウモリが立てる音を利用

  この他にも、どこに餌があるかを知るため、仲間のコウモリが立てる音に耳を澄ますコウモリもいる。こうした種は、ほかのコウモリが出す反響定位のパルスに引き寄せられる。(参考記事:「コウモリ、ライバルのソナーを音で妨害」

 中南米に生息するミナミウオクイコウモリは、仲間の「採餌音」に狙いを絞っている。コウモリが昆虫に接近するときに出す、反響定位の強いパルスだ。これにより、ミナミウオクイコウモリは水面上に一時的に群がる虫の集団にたどり着くことができ、餌を探す手間が省ける。(参考記事:「コウモリは仲間の食事の音を盗み聞きしていた」

「別の種のコウモリが反響定位に使っている音も傍受しているらしい点は、非常に興味深いです」と、ペイジ氏は指摘する。

コウモリの能力の解明はこれから

  イスラエル、テルアビブ大学の動物学者ヨシ・ヨベル氏は、今回の研究について「この分野を包括的に概観できる、とても優れた研究」と話す。同氏は、今回の研究には関わっていない。

 ペイジ氏らが、コウモリの採餌戦略を3つの主なグループ(獲物の動きに聞き耳を立てる、獲物同士のコミュニケーションを利用する、近くで狩りをしている他のコウモリから手がかりを得る)に分けた方法にも、ヨベル氏は感心した。

 ペイジ氏は、自身の研究は最初の一歩にすぎないことを強調する。「コウモリは非凡な動物であり、見事なまでに多様で、社会性が高く、柔軟な認知力を備えています」

「コウモリの多様な採餌戦略のパターンと、情報を集めて獲物を探す方法についての解明は、まだ始まったばかりなのです」

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