ハゲワシが激減、原因は人間が「復讐」に使う毒

11種中7種が絶滅危惧、嫌われ者だが生態系には不可欠、アフリカ

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=HALEY COHEN GILLILAND/訳=桜木敬子
(PHOTOGRAPH BY CHARLIE HAMILTON JAMES, NATIONAL GEOGRAPHIC)

京都産業大学による見どころチェック!

ハゲワシが好かれない理由は風貌と特殊な習性

30年間で62%が死亡。密猟行為を隠すため意図的に毒殺する地域も

嫌われ役のハゲワシ、実は人間を感染病から守っていた

  アフリカ、ケニアの保護区で、ハイエナの死体とそのそばに倒れている10羽ほどのハゲワシたちが見つかった。レンジャーたちには、何が起こったのかがすぐにわかった。毒にやられたのだ。数羽には、まだ息があった。

 ここは、マサイマラ国立保護区の中にある民間管轄のオルキニエイ保護地区。管理人のサイモン・ンコイトイ氏は直ちにヴァレリー・ナソイタ氏を呼んだ。

「ワシたちを救いに来てほしい」

 ナソイタ氏は、ハゲワシを保護する非営利団体「ペレグリンファンド」の保護地区連絡係である。

7種のハゲワシが絶滅の危機

  アフリカ大陸には11種のハゲワシ(ヒゲワシ類を含む広義のハゲワシ類)が生息しているが、このうち7種が国際自然保護連合(IUCN)によって近絶滅種(critically endangered)または絶滅危惧種(endangered)に指定されている。保護団体や大学の研究者らが2015年に発表した論文によれば、過去30年の間にアフリカのハゲワシ8種の個体数が平均で62%減少している。(参考記事:「ハゲワシ “嫌われ者”の正体」

「これは完全に、危機です」と、ケニアの猛禽救護団体「ケニア・バード・オブ・プレイ・トラスト」のサイモン・トムセット氏は語る。

 同氏やナソイタ氏らが素早く連携することで、助かる鳥もいる。しかし、彼らにとって何より頭の痛い問題は、いかに毒を摂取させないかということだ。

ナソイタ氏が中毒のハゲワシの救護にあたる。同氏は中毒の事例に素早く対応するかたわら、地元のコミュニティでハゲワシたちの重要性について教えている。(PHOTOGRAPH BY CHARLIE HAMILTON JAMES, NATIONAL GEOGRAPHIC)

ハゲワシが毒で死ぬ理由

  アフリカにおけるハゲワシの中毒死には2種類ある。主にアフリカ南部では、密猟者が死んだゾウやサイに毒を塗り、意図的にワシを毒殺する。ハゲワシの動向によって、密猟行為が国立公園のレンジャーにばれるのを防ぐためだ。6月に発生した特に陰惨な事例では、ボツワナで毒を塗られたゾウを食べたことで、530羽を超える絶滅危惧種のハゲワシが死んだ。

 アフリカ東部ではどちらかというと、ヒトと捕食動物の間の対立に巻き込まれるケースが多い。ライオンやハイエナなどに家畜を殺された牧畜民たちが、復讐のため、やられた家畜の死体に毒性の高い殺虫剤を振りかけるのだ。毒は捕食者を死なせるが、同時に捕食者の死体を食べに来たハゲワシも死なせてしまう。(参考記事:「ライオンが毒殺される、アフリカで深刻になる問題」

 ケニアの人口増加とともに、マサイマラは復讐のための毒殺が特に頻発する場所になったとトムセット氏は言う。保護区を管理する「コッターズ野生生物保護基金」によれば、2カ月に1度はこうしたことが起こっているとみられる。

インドの悲劇を教訓に

  ハゲワシの姿は必ずしも美しいわけではないし、死んだばかりの動物を食らう習性も人気を得にくい。ゾウやライオンに比べて、ハゲワシの保護が難しいのにはこうした背景もあると、ペレグリンファンドのラルフ・ブイジ氏は話す。(参考記事:「【動画】チーターの獲物を横取りするハゲワシ集団」

 しかし、陸生の脊椎動物の中で唯一腐肉食のみで生存できる動物として、ハゲワシはアフリカの生態系にとって欠かせない存在だ。動物が死ぬとたいてい30分以内にはハゲワシがやってきて、1分で1キログラム近い死肉をたいらげていく。胃は酸性が非常に強いため、病気の動物の肉も問題なく消化できる場合が多い。おかげで結核や狂犬病が他の動物やヒトに広がる確率を減らしてくれるのだ。(参考記事:「食らいつく瞬間、弱肉強食のフォトギャラリー」

  インドで起こったある悲劇は、ハゲワシを保護するうえで大きな教訓となっている。1990年代、研究者たちはハゲワシの個体数が急激に減っていることに気がついた。やがて、ハゲワシたちの死はジクロフェナクという抗炎症薬に起因することがわかった。ヒンドゥー教で聖なる動物とされるウシが病気になった際、牛飼いたちが痛み止めとして与えていたのだ。ウシが死ぬと、ハゲワシたちがその肉を食べ、ジクロフェナクによって中毒死していたのである。

 2006年、インド、パキスタン、ネパールはジクロフェナクの動物への使用を禁止したが、その頃にはすでに、インドで一般的だったベンガルハゲワシ、インドハゲワシ、ハシボソハゲワシは96%以上も個体数を減らしていた。その後のヒトへの影響にもすさまじいものがあった。2008年の研究によると、ハゲワシの減少は、競合していた野犬の増加を招いた。これによって野犬に噛まれる人の数が増え、推定4万8000人が狂犬病で亡くなるに至った。

法律は改正されたものの

  同じ悲劇をなんとか防ごうと、ケニアで活動する保護団体は中毒の事例が起きるたび迅速に対応している。

 オルキニエイ保護地区で毒にやられたハゲワシの件では、ナソイタ氏は連絡を受けるとすぐにバイクで現場に向かった。「聞いてから7分後には到着しました」と言う。

国立公園のレンジャーがミミヒダハゲワシの死体を焼却するために火をおこす。別のハゲワシが肉を食べて毒が広がることがないようにするためだ。焼却は最も一般的な死体処分の方法だが、ケニア・バード・オブ・プレイ・トラストのトムセット氏によれば、必ずしも焼くことによってすべての毒素が壊れるわけではないので、埋めるほうがいいと言う。(PHOTOGRAPH BY CHARLIE HAMILTON JAMES, NATIONAL GEOGRAPHIC)

  絶滅寸前とされるカオジロハゲワシのイラストと「ヴァルチャープロテクター(ハゲワシを守る者)」の文字が描かれたTシャツを身に着けて、ナソイタ氏とレンジャーたちは息のあるハゲワシたちを日陰に移動させ、解毒剤のアトロピンを与えた。翌日、コッターズ野生生物保護基金のジェイミー・マニュエル氏とダニ・コッター氏が、さらに治療をするため生き残ったハゲワシたちをオルダーケシに運んだ。

 最終的に、絶滅危惧種であるミミヒダハゲワシ2羽と近絶滅種であるマダラハゲワシ4羽が死んだ。しかし、マダラハゲワシ2羽、ミミヒダハゲワシ1羽、そして近絶滅種であるコシジロハゲワシ1羽を救うことができた。

 11月18日、マニュエル氏とコッター氏はマダラハゲワシのメス1羽にGPS発信器を取り付け、空へと帰した。「飛んでいく姿を見るのは素晴らしい気分でした」とマニュエル氏は振り返る。

 とはいえ、そもそも毒を摂取させないようにすることが重要だ。

 まずは、国がもっと本腰を入れて欲しいと彼らは言う。ケニア政府は2013年制定のケニア野生生物法を修正し、野生動物に毒を盛ることを犯罪として500万ケニアシリング(およそ540万円)の罰金と禁固5年の両方、またはいずれか一方に処すると定めている。今年1月には修正法が発効した。

 しかし、もうすぐ1年になろうという今、いまだ1件も起訴されていない。

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