フランスで奇妙な地震が発生、科学者ら首ひねる

数百棟が破損、フランスにしては「非常に強力」、小規模だが地割れも

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=MAYA WEI-HAAS/訳=北村京子
(PHOTOGRAPH BY JEFF PACHOUD, AFP VIA GETTY IMAGES)

京都産業大学による見どころチェック!

両立しにくい「小さな揺れ」と「地割れ」。起因は特殊な場所にあった

断層の深さが揺れの動きを左右する

奇妙な地震が引き起こす、“人災”への影響は

  正午少し前、フランスの小さな町ルテイユに住むクレマン・バスティ氏が家族と一緒に夕食の準備をしていたとき、家の壁が振動し始めた。グラスや皿が床に落ちて割れた。その後、低く轟くような音が街中に響きわたった。

 家からそう遠くないところにある原子力発電所で爆発が起こったのではないかと、バスティ氏は恐怖にかられた。高校の生物と地学の教師である氏は外に飛び出し、空にキノコ雲を探した。ところが、まもなく判明した振動の原因は、発電所の爆発ほど危険ではないものの、この地域には非常に珍しい現象だった。地割れを伴う地震だ。(参考記事:「【動画】巨大な地割れで道路と家が崩壊、ケニア」

 地震の強度はマグニチュード4.8で、多くの建物が壊れ、4人が負傷した。この地震には数多くの興味深い特徴があり、科学者たちの活発な議論の的となっている。

 コートダジュール大学の地震学者ジャン=ポール・アンプエロ氏によれば、ひとつ目の注目点は、世界的に見ればさほど大きくはないが、今回の地震が「フランスの基準では非常に強力なもの」ということだ。フランスでも地震は起こるものの、その大半が非常に弱いという。

 さらに意外なのは、まるで卵の殻を割るように、この地震で地割れが起きたことだ。こうした地割れは一般的に、1992年に米カリフォルニアで起こったマグニチュード7.2のランダース地震など、大規模な地震でよくできる。だからこそ、ルテイユの地震で地割れが起こったことについて、研究者らは首をひねっている。

 同地域のこれまでの地球力学を調査することによって、彼らは今回の地震の原因、突然発生した理由、さらにはより一般的な地震のメカニズムを探ろうとしている。

「突然に起こる地震は、新たなことを学ぶ絶好のチャンスなのです」と、アンプエロ氏は言う。(参考記事:「世界を20分超駆け巡った謎の地震、驚きの調査報告」

「地球の標準から見ても、極めて浅い地震です」

  地震は地下の岩盤がずれることで発生する。そのそもそもの原因は、地球のプレートがゆっくりと移動しているからだ。プレートは地殻とマントル上部を合わせたもので、地球全体で10数枚に分かれている。これらが常に動き続け、押し合いへし合いしている。すると、岩盤の力がたまったところに亀裂が入り、そこから送り出される振動が、わたしたちには地震として感じられる。

 フランスの地殻の構造は複雑だ。フランスが位置するのはユーラシア地殻プレートの上で、その南側はアフリカプレートと接している。ただし、このふたつのプレートの境界線は複雑で、そこにはマイクロプレートと呼ばれる、より規模の小さなプレートの破片が数多く存在する。こうしたプレートの破片同士の衝突によって生まれる多様な動きが、フランスをさまざまな方向へと押しやっている。(参考記事:「地中海に「失われた大陸」があった 最新研究」

「フランスの断層は、サンアンドレアス断層のような、大規模で、まっすぐで、わかりやすいものではありません」と語るのは、パリ高等師範学校の地球物理学者ルシール・ブリュア氏だ。フランスでも大きな地震が起こらないとは言えないが、カリフォルニアのような巨大地震の可能性は低い。(参考記事:「大地震の源、サンアンドレアス断層はもっと長い?」

 また、どんな場所であろうと、さほど強くない揺れでは通常、地割れは起こらないと、パリ地球物理研究所の測地学者ラファエル・グランダン氏は言う。先日の地震が発生したとき、その痕跡を目にするとグランダン氏は予想していなかったそうだ。

 グランダン氏らは、地震の最中に稼働していた衛星のレーダーデータを精査し、地表の微小な動きを確認した。その結果を元に彼らが作成した地図には、地震によって地面がどれだけ動いたかが虹色で示されている。

 驚いたことに、この地図には、地面の変動だけでなく、地割れの兆候もはっきり現れていたという。

 その理由は、ひとつには、この地震が非常に浅い場所で起こったことだ。大きな地震には、地表からかなり深いところで発生するものが多い。浅くても地下5キロより深い。しかし分析の結果は、今回の地震が地下わずか1.5キロ前後で発生したことを示している。

「これは地球の標準から見ても、極めて浅い地震です」と、アンプエロ氏は言う。

  グランダン氏によれば、地表付近では、上に重なる岩の重量が軽いことから、あまり強い圧力はかからず、地震が起こっても弱いのが普通だ。また、断層が地表からどの程度の深さにあるかにより、動きが異なってくるとアンプエロ氏は付け加えた。深いところの断層は、大きな力を頻繁に解放するが、浅い断層にかかる力は、長時間かけてゆっくりと解放される。

「浅い断層はじわじわと動く傾向にあり、破壊が起こることはまれです」

 今回の地震と似たような前例がないわけではない。グランダン氏によると、オーストラリアでもマグニチュード4.7の浅い地震で地割れが起こった例があるという。それでも、これが珍しい例であることに変わりはない。そして、フランスの地震が中程度かつ浅い位置で起こったことの理由は謎のままだ。(参考記事:「揺れない“幻の地震”が発生か、50日継続、トルコ」

原因は近隣の採石場?

  より多くの手がかりを得るため、研究者らは11月13日に現地に赴き、衛星データの分析結果を元に、道路を横切って走る地割れの位置を確認した。彼らは現在、地震計を設置して断層の活動を追跡したり、さらなる変動の兆候を記録したりして、さまざまな手法を用いて現地調査を進めている。(参考記事:「予知できる噴火、できない噴火」

 アンプエロ氏のチームは、断層付近で、地表に出てきたばかりの岩石を収集し、研究室で異常な点がないかどうか分析している。このほか、過去の衛星画像にあたり、震源地の手がかりになる地形の変動を探している研究者もいる。

 パリ地球物理研究所のロビン・ラカサン氏は、この地震の原因は、近隣の採石場ではないかとの興味深い説を唱えている。断層面は採石場の下に伸びている可能性が高く、大量の石が取り除かれたことで、一帯に通常かかっている力が軽減され、地表がこれに応じて動いたのかもしれない。アンプエロ氏らは、この可能性について調査を進めている。

 今回の奇妙な地震にいちばん興味をそそられた人物はおそらく、バスティ氏だろう。バスティ氏は、地割れが起こった場所から800メートルほどの距離に住んでおり、先日は研究者らの現地調査にも同行した。

 バスティ氏は言う。「こうした地球の活動の痕跡については、本でしか見たことがありませんでした。それをこの目で見られるというのは、恐ろしくもあり、面白くもあります」

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