世界最大の淡水魚は何か? 新たな有力候補が浮上

東南アジアの超巨大エイ、信頼できる捕獲情報が続々、ただし絶滅危惧種

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Stefan Lovgren/訳=高野夏美
(PHOTOGRAPH BY STEFAN LOVGREN)

京都産業大学による見どころチェック!

世界最大の淡水魚、重さはなんとゴリラの2倍!?

世界的な傾向とされる大型淡水魚の減少。40年間で90%近くも激減

健全な生命を脅かす川の汚染。二度と見られなくなる前にすべきこと

  海で最大の魚はジンベエザメだと、たいていの人は知っている。だが、世界最大の淡水魚は何だろうか?

 一見、簡単そうな問いに思えるが、実はその答えははっきりしていない。

 公式には、体重ランキングのトップはメコンオオナマズということになっている。2005年にタイ北部で捕獲された標本は、293キロという驚異的な重さだった。しかし研究者たちは、それを上回る最有力候補がいると以前から考えている。エイの仲間、ジャイアント・フレッシュウォーター・スティングレイだ。(参考記事:「動物大図鑑 メコンオオナマズ」

 この見立てを補強する証拠が、最近相次いで見つかっている。

ゴリラの2倍の重さ

  インドネシアの河川における最近の調査によると、ジャイアント・フレッシュウォーター・スティングレイが実際にメコンオオナマズの体重を優に超えているらしいことが示唆されている。たとえば、スマトラ島南部の漁師が捕獲したエイは、重さ360キロを超えていたという。これが本当なら、おとなのマウンテンゴリラの2倍の体重だ。ほかにも未確認情報ながら、ボルネオ島でこれと同程度かさらに大きなものが捕獲されているという。

 米ネバダ大学リノ校の魚類生物学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもあるゼブ・ホーガン氏は、この15年、世界最大の淡水魚を探し続けている。ホーガン氏は、こうした目撃談の裏付けを取るのはほぼ無理だとしつつも、ジャイアント・フレッシュウォーター・スティングレイが記録的なサイズに成長しうることは確実だと考えている。(参考記事:「車並みの超巨大淡水エイを捕獲、世界記録か」

 同氏はカンボジアやタイで巨大エイを調査してきた経験から、「スマトラ島や、そのほかの地域でそのような報告があっても驚きません」とホーガン氏は言う。「ジャイアント・フレッシュウォーター・スティングレイが世界最大の淡水魚である可能性は高いと思います」

 はっきりしているのは、早く研究すべきということだ。このエイは地域によって衰退しつつあり、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている。大型淡水魚の減少は世界的な傾向で、最近の研究によれば、過去40年で90%近く激減したという。陸地や海の動物を大きく上回る勢いだ。(参考記事:「世界の巨大淡水生物、40年間で約9割も減っていた」

毒針と好奇心を持つエイ

  エイというと、海の生き物というイメージが強いかもしれない。だが、川や湖にすむ淡水エイは世界各地にいる。しかし、ジャイアント・フレッシュウォーター・スティングレイをはじめ、その多くは研究が進んでいない。

 ジャイアント・フレッシュウォーター・スティングレイは、1852年にオランダの魚類学者ピーター・ブリーカーがインドネシアで初めて特定し、新種として記載した。それから100年以上たった1990年に別の新種Himantura chaophraya(ヒマンチュラ・チャオプラヤ)として記載されたものの、2008年、実はブリーカーが特定した種と同一だったと判明。現在の学名はUrogymnus polylepis(ウロギムヌス・ポリレピス)となっている。

 この魚は東南アジアでは良い食材とみなされないため、漁師が狙うことはめったにないが、網にかかることが時々ある。網にかかると猛烈に抵抗し、漁船が何時間も引きずり回されたという話もある。長さ40センチもあるのこぎり状の毒針を備えているが、普通は攻撃的ではなく、好奇心の強い生き物だとホーガン氏は話す。(参考記事:「水族館員がエイに刺されて死亡、シンガポール」

「400キロ」は信用できるか

  2019年11月下旬、筆者はスマトラ島にあるスリウィジャヤ大学の生物学者、モハメッド・イクバル氏と共に、記録更新の可能性がある報告を確かめようと、同島南部の小さな村に向かった。カマルという名の漁師が、2016年にジャイアント・フレッシュウォーター・スティングレイを偶然捕まえたという話があったのだ。

 私たちは古びた木製ボートに乗り、波立つムシ川を4時間かけて遡上した。プランテーションとジャングルをいくつも通り過ぎ、途中で何度も強い雨に降られた。

 ジャイアント・フレッシュウォーター・スティングレイは、スマトラ島では2016年まで記録が取られたことすらなかった。イクバル氏はこの年、地元の川でエイが捕れたという新聞やインターネットの記事を収集し始めた。見つけたうちのいくつかが巨大エイの存在を伝えており、最大のものはブンギンと呼ばれる小さな川の河口でかかったとあった。重さ360キロを超えていたとのことだった。

ボルネオ島インドネシア領のムリンタン湖で働く漁師。(PHOTOGRAPHS BY ELLIOT LOVGREN)
南スマトラ最大の漁村、スンサンに係留された漁船。(PHOTOGRAPHS BY ELLIOT LOVGREN)

  午後3時ごろまでに、私たちはようやくブンギンの漁村に着いた。木造の家が何軒かあり、潮の満ち引きのため高床式に造られていた。

 豪雨が再び村を通過するなか、漁師のカマルさん(これが彼の唯一の名だった)が、巨大エイが捕れたときのことを話してくれた。3年前のある日、南シナ海に注ぐ開けた河口に網を仕掛け、一晩そのままにした。売ったり、自分たちで食べたりする魚を捕るためだ。

 朝、網にとてつもない大きさのエイがいるのを目にして仰天した。

 重すぎてボートに載せられなかったため、網に入れたまま村までボートで引きずって帰ったと、カマルさんは語った。

 エイを陸に揚げるのは、男たち15人がかりの大仕事だった。いずれも、こんな大きなエイは今まで見たことがないと口をそろえた。現地の魚貯蔵施設から大きなはかりを借りて重さを量ったところ、「400キロ近く」あったと、カマルさんは言った。捕まえたのが、世界最大の淡水魚だと分かったのだろうか? カマルさんは首を振った。

  この話が正しいかどうかは、カマルさんにかかっているかもしれない。だが、彼の説明に信憑性を加えているのは、エイが計量された事実だけではなかった。エイが洗浄されて肉として売られた後、カマルさんは皮を取っておいたのだ。皮はしなびたとはいえ、幅が約2.4メートルあり、記録を塗り替えるには十分な大きさを思わせる。

 ブンギンのエイがかかったのは河口の汽水から塩水の辺りだったが、イクバル氏はその形と模様から、淡水のウロギムヌス・ポリレピスだと明言する。彼が同定した他のエイは川の上流で捕獲されており、海からおよそ100キロ離れていることもあった。「この種は淡水に生息する一方、塩水にも耐えられるようです」とイクバル氏は話している。

迫る汚染の危機

  ジャイアント・フレッシュウォーター・スティングレイがどれほど大きく成長し、ほかにどんな秘密を隠しているのか。それが明らかになる前にこの種が消えてしまうのではないかと、研究者たちは危機感を抱いている。「東南アジアの生息地全域で、漁獲圧と生息地喪失がこのエイの脅威となっていますが、汚染という大きな問題もあります」。こう話すのは、マレーシア・サバ大学の海洋生物学者、マベル・マンジャジ=マツモト氏だ。1990年代半ばからこの種を研究している。(参考記事:「巨大淡水エイ、ダム建設で危機」

同氏によると、アブラヤシのプランテーションで使われる肥料が流出し、マレーシア東部では川の一部が「虹のあらゆる色」に染まって、川にすむ野生生物の多くを危険にさらしているという。ジャイアント・フレッシュウォーター・スティングレイも当然影響を受ける。

 3年前、タイのメークローン川では、エタノール工場から出た廃棄物が原因で、このエイが少なくとも70匹死んだ。死骸が川面に浮き、墜落したUFOのように下流に流れていく光景は、現地の住民たちに衝撃を与えた。その後の調査で、相当量のシアン化物が川に放出されていたことが分かった。

 2018年、タイのバンコクにあるチュラロンコーン大学の研究者たちが、メークローン川のエイの集団に対して、タグ(標識)を使った初の包括的研究を行った。エイの移動について解明を進めるためだった。その結果、個体数は汚染物質の流出前に数えたよりもずっと少なく、大きな個体はほとんど見つからなかった。

  タグ付けプロジェクトを率いた獣医師、ナンタリカ・チャンスー氏は、重さ300キロを超すようなエイは、メークローン川にはもう残っていないのではないかと話す。「かつてはとても健全な個体群でしたが、汚染によって失われる危険が非常に高いです」とチャンスー氏。また、急成長している飼育用の取引でもターゲットにされていると付け加えた。(参考記事:「巨大魚フォトギャラリー:瀬戸際の巨大魚たち」

 ホーガン氏にとって、この巨大エイだけでなく、危機にあるすべての大型魚の謎を解く試みはこれからも続く。「単に最大の魚を見つけることが大事なのではありません。おそらくそれはもう見つかっていて、ジャイアント・フレッシュウォーター・スティングレイなのかもしれません。しかし明らかなのは、これらの魚を二度と見られなくなる前に、今以上の努力が必要ということです」

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