探査機が太陽に接近、驚きの観測結果と深まる謎

想像を超える現象が続々、NASA探査機最初の成果が4本の論文に

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Nadia Drake/訳=三枝小夜子
(ILLUSTRATION BY NASA/JOHNS HOPKINS APL/STEVE GRIBBEN)

京都産業大学による見どころチェック!

探査機が近づけないほど高温な大気層コロナの猛威

コロナの質量放出が宇宙飛行士に致命的な影響を及ぼす可能性も

今期待されている“モンスター級のコロナ”とは

  太陽は数十億年にわたり、コロナと呼ばれるエネルギーの渦の中に秘密を隠してきた。コロナは、磁気を帯びた100万℃のプラズマからなる太陽上空の大気層だ。想像を絶する高温で、ときおり猛威を振るうため、こんな場所に近づこうとする探査機は過去にはなかった。

 だがこのほど、NASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」が、太陽を周回しながら徐々に接近してゆく先例のないミッションを成功させた。12月4日付けの学術誌「Nature」に、その最初の観測結果を報告する4本の論文が発表された。探査機はこれまで太陽に3回接近し、コロナを観測してきた。予想外の発見があったほか、太陽をめぐるいくつかの謎をすでに解きつつある。

コロナの謎に挑む

 「どの探査機にもできなかった活動をしています」と米国立大気研究センターのサラ・ギブソン氏は言う。「すばらしいデータが得られています。次に何がわかるのか、本当に待ち遠しいです」(参考記事:「【図解】NASA、太陽“かすめる”探査機を投入へ」

 太陽を近くで観測することで期待されているのは、太陽物理学の根幹にある謎を解決したり、「コロナ質量放出」という有害な爆発的現象の予測精度を高めることだ。コロナ質量放出は、太陽から危険な高エネルギー粒子が大量に放出される現象。これが地球に向かうと、中緯度地域にオーロラが出現したりする一方で、通信衛星を故障させたり、送電網を破壊したり、さらには宇宙飛行士に致命的な影響を及ぼす可能性もある。(参考記事:「太陽嵐でパソコンのデータが消失する?」

「宇宙からくる危険というと、恐竜を絶滅させた隕石のことを想像する人が多いでしょう」と論文著者である米プリンストン大学のデイビッド・マコーマス氏は話す。「けれども私たち現代人にとっては、大規模な宇宙天気現象が発生してテクノロジーに影響が出ることのほうが、はるかに大きなリスクです」(参考記事:「太陽嵐の危険度、場所により100倍も差、米国」

新鮮な太陽風を観測

 パーカー探査機は2018年8月に打ち上げられ、同年11月に最初の太陽フライバイ(接近通過)を行った。ミッション期間は7年間で、探査機は太陽の近くを合計24回かすめ飛ぶ。フライバイのたびに太陽までの距離が近づき、最終的には太陽表面から約600万kmのところまで接近する。

DAISY CHUNG, NGM STAFF SOURCE: JOHNS HOPKINS UNIVERSITY APPLIED PHYSICS LABORATORY

  4種類の観測機器を搭載したパーカー探査機は、コロナの中を飛行し、太陽大気を測定するとともに、太陽風(太陽が絶え間なく吐き出す高温で高エネルギーの粒子)の起源を探ろうとしている。ここで重要なのは、太陽にできるだけ接近して、太陽から出てきたばかりの太陽風を捕獲することだ。地球からだと、そうした純粋な太陽風を調べるのが難しい。

「太陽風が地球に到達する頃には、かなり変化してしまっています。太陽風がどのように誕生したかを教えてくれるはずの構造や事実が不鮮明になったり、取り除かれたりしてしまうのです」とギブソン氏は説明する。「パーカー探査機は、できたばかりの太陽風の中に飛び込み、新鮮なうちに観測を行うのです」(参考記事:「星間物質は3万度超、ボイジャー2号が初の直接観測」

  太陽風のなかでも超音速のものは、コロナホールという平均より冷たい磁場領域から出ていることがわかっている。しかし、より低速で密度が高い太陽風の出どころは謎である。太陽の大気がなぜ途方もないほど高温なのかについても同じく謎だ。太陽の表面温度は6000℃程度なのに、上層のコロナの温度は100万℃以上になるのである。(参考記事:「太陽の黒い窓、コロナホール」

「太陽は、私たちには見えない余分なエネルギーを放出しているはずです」と論文著者である米ミシガン大学のジャスティン・カスパー氏は主張する。「余分なエネルギーは外に捨てる必要があります。そのエネルギーが溜まらずに宇宙空間に捨てられるしくみを明らかにしなければなりません」

太陽のプラズマ大気を伝わる波

  ここまで観測した中でおそらく最も驚くべきなのは、太陽のプラズマ大気中を伝わる波だ。この波によって、太陽風がたちまち時速48万kmほども加速し、場合によっては局所的に磁場が反転することもある。「太陽風は非常に速くて激しいため、1秒もしないうちに磁場を180度反転させてしまうほどです」とカスパー氏は言う。

 パーカー探査機は、最初の2回のフライバイの間に、おそらく1000回はこうした波に遭遇した。波は局所的には非常に大きいが、地球からは小さすぎて検出できない。波の持続時間は数秒から数分で、普通のコンパスなら完全に狂わされるほどだが、発生源らしきものは見当たらない。

 研究チームはこの現象を「スイッチバック」と呼び、一部の科学者は、この波がエネルギーを溜めているなら、コロナが高温になることと何か関係があるのかもしれないと考えている。だがスイッチバックが起こる原因はわかっておらず、探査機が太陽に近づくにつれて強くなったり頻繁になったりするのかどうかもわからない。(参考記事:「太陽表面に1万1000個の磁気竜巻」

予想より20倍も速い太陽風

  もう1つ不思議なのは、太陽の自転に沿った太陽風の速度だ。太陽は24.5日の周期で自転していて、太陽近辺では、吹き出す粒子(つまり太陽風)も一緒に周りを回転している。太陽風が地球に到着する頃には、芝生用の回転スプリンクラーから出る水のように、粒子は放射状に進んでいる。

 そこまでは理解できる。しかし、太陽の南半球をかすめて飛行したパーカー探査機が太陽風の回転速度を測定すると、この距離では考えられないほど高速で太陽の周りを回っていることがわかった。

「太陽に関する標準モデルとその自転から予想される速度より20倍も速いのです」とカスパー氏は言う。「私たちはコロナと太陽風について、非常に根本的なものを見落としているのです」

  速すぎる風は太陽の進化スピードに影響を及ぼす可能性がある。生まれたばかりの恒星は高速で自転するが、長い年月の間に恒星風を吹き出すことでエネルギーを失い、自転速度を落としていく。太陽が予想より早く燃え尽きるようには見えないが、奇妙に速い太陽風は、太陽の自転速度が従来の予想より速いペースで落ちてゆく可能性を示唆している。(参考記事:「金星の自転速度が低下?」「地球中心部、地球の自転より微妙に速く回転、研究」

 速すぎる太陽風は、より直接的には、コロナ質量放出の軌道と地球到達時刻にも影響する可能性がある。

「コロナ質量放出は、しばしば予想外の方向に動きます。こうした横向きの強い流れがあると、コロナ質量放出の予測精度を低下させる大きな原因になるでしょう」とカスパー氏は話す。「現在の予測精度はひどいとは思いませんが、あまり良いとも言えませんから」

塵ひとつない領域

  パーカー探査機の今後のミッションで、さらに驚くべき収穫があることは確実だ。例えばこの探査機は太陽の周りに、仮説はあったが誰も見たことがない、ある領域を発見しようとしている。それは、高温すぎて「塵ひとつ存在できない」領域だと、論文著者である米海軍研究所のラッセル・ハワード氏は言う。その存在は1928年に予言されていたが、太陽周辺を地球から観測しやすい日食のときでさえ検出できなかった。

 太陽の活動は11年周期であり、まもなく極小期を過ぎて活動が活発化するため、ミッションへの期待はますます高まっている。研究チームは、パーカー探査機がモンスター級のコロナ質量放出を観測することを期待している。太陽の活動が活発化するほど、大規模なコロナ質量放出が起こりやすくなると考えられるからである。

「私たちは最強で最速のコロナ質量放出を待っています」とプロジェクトに参加する科学者である米ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所のヌール・ラウアフィ氏は期待を込めて言う。「祈るような気持ちです」

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