トランプ移民政策に揺れる
国境、人々の声を聞いた

「もし子供と引き離されたら…それでもリスクを冒すしか選択肢がないのです」

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=ALICE DRIVER/訳=北村京子
PHOTOGRAPH BY TAMARA MERINO, NATIONAL GEOGRAPHIC

京都産業大学による見どころチェック!

命がけの越境。すべてはより良い生活のために

移民を守りたい修道女、捕らえたくない保安官

国の「壁」は家族を隔てる「壁」となる

「わたしは父親でもあり、母親でもあります」

 米国とメキシコの国境にかかる橋「ゲートウェイ・トゥ・ザ・アメリカズ・インターナショナル・ブリッジ」(以下、アメリカズ国際橋)のたもとで、25歳のシングルファーザー、ルーベン・エスパーニャ氏は、2歳の息子を抱きかかえてそう語る。二人は徒歩とヒッチハイクで、中米のホンジュラスから2カ月半をかけて国境のメキシコ側の街、ヌエボラレドまでやってきた。以来親子は、100人あまりのホンジュラス人、キューバ人、ベネズエラ人とともに、橋のそばにダンボールを敷いて寝起きしながら、国境を越えて米国に入り、亡命を申請できる日を待っている。

 エスパーニャ氏がトランプ米大統領による移民親子引き離し政策のニュースを耳にしたのは、ここへ向かう旅の途中だった。「恐ろしいですが、リスクをとるしかありません」と彼は言う。「これだけの苦難を味わった後で、もし子供と引き離されたらどうしたらいいのでしょう。それでもわたしたちには、そのリスクを冒すしか選択肢がないのです」。たとえ子供と引き離されることになったとしても、ホンジュラスに強制送還されて死を待つよりも、米国で刑務所に入ったほうがましだとエスパーニャ氏は話す。(参考記事:「トランプ政権が引き離した移民親子、再会できるか」

 こうした賭けに出るのは彼だけではない。身の安全と成功を求めて米国・メキシコ国境にやってくる人々は、ひと月に約5万人に上る。この数字は2016年とさほど変わっていないものの、亡命申請を待つ人たちによると、国境職員の対応が遅く、場所によっては1日に5〜10人程度しか受け付けないという。そのせいでエスパーニャ氏のような人々は、橋のそばで何日も過ごして、自分の番が来るのを待たざるを得ない。(参考記事:「ヨーロッパの入り口で足止めされる少年難民たち 写真25点」

 近年では国境での対応の遅さに加え、トランプ政権が導入した各種政策も彼らの不安を大きくしている。現在とくに人々が警戒しているのは、国境にたどり着いた親子を引き離すという決定だ。ここ数カ月間で、国境を越えて米国に入った2206人の親から、2342人の子供が引き離されている。こうした状況にもかかわらず、親たちは列を作って米国に入るのを待っている。長い列のあちらこちらには、幼い子供を抱えた若い男性の姿が見える。

 列のずっと後ろの方では、ベネズエラの大学生オマール・ガリージョ氏と、従兄弟のヤッケイ・デルガド氏、その妻エステファニー・サンチェス氏が、腰を下ろしてフライドチキンを食べている。3人の学生は、ベネズエラでは、通っている大学の反政府運動に加わっていた。過去2年間、政府への抗議運動を続けてきた彼らは、クラスメートが催涙弾で殺されたり、車でひかれたり、死にそうになるまで殴られたりしたところを目撃してきた。キャンパスの教室やトイレに隠れて過ごしてきた彼らは、そこを「戦場」と呼ぶ。

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