衛星で漁船を追跡、なんと
海面の55%超で漁業が

地球規模のデータを水産資源の持続可能な管理に役立てる

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Sarah Gibbens/訳=山内百合子
Photograph Courtesy of Global Fishing Watch

京都産業大学による見どころチェック!

その面積、農業が行われている土地の4倍以上

220億もの信号を振り分け、船の動きを時間単位で追う

地球規模のデータを水産資源の持続可能な管理へ

 世界中に分布する捕食者の調査をするなら、宇宙から監視するのも一案だ。

 漁業が世界中でどれほど広く行われているか、すなわち誰が、いつ、どこで漁をしているのかを研究チームが調べようとしたとき、課題となったのは情報が足りないことだった。ナショナル ジオグラフィックの「原始の海(プリスティーン・シー)プロジェクト」に参加している海洋データサイエンティストのフアン・マジョルガ氏によると、各地の漁業管理者が保有する船舶監視システムを、研究者が利用することはできなかった。また、そのようなシステムで得られる情報は、断片的なものでしかなかった。(参考記事:「“原始の海”を守る、エンリック・サラ」

 この課題を解決するために、マジョルガ氏らの研究チームは一歩下がって、いや、かなり下がって、宇宙から船舶の追跡を行った。人工衛星を利用して、いつどこで漁船が操業しているかを調べたのだ。

 その結果は驚くべきものだった。実に海面の55%以上で漁業が行われていたのだ。これは農業が行われている面積の4倍以上にあたる。

 漁業は環境に悪影響を及ぼしてきた。乱獲によって資源が枯渇する可能性があるほか、イルカやウミガメなど多くの動物が漁の巻き添えになっている。大型の漁船は、二酸化炭素を排出する燃料を大量に必要とする。

 漁業の実態を地球規模で観察することで、透明性や説明責任に対する意識を向上させ、持続可能な方法で管理できるようになるかもしれないと研究者らは期待する。(参考記事:「本州の9割強相当の海洋保護区を設立、セーシェル」

漁業が行われている場所は

 今回「サイエンス」誌に発表された研究では、全長6メートルから146メートルの漁船、7万隻以上が追跡の対象となった。これは、漁業という大規模な産業で使用されている船舶の75%以上に相当する。2012年から2016年の間、漁船に搭載された船舶自動識別装置(AIS)から発信される220億もの信号を振り分けることで、船の動きを時間単位で追った。(参考記事:「【動画】拿捕の中国船にサメ数千匹、ガラパゴス」

 AISはもともと船の衝突を防ぐために開発された無線機器で、各船の識別情報、位置、速力、針路などのデータを数秒ごとに発信する。「AISから発信されたメッセージは、人工衛星を介して誰でも利用できます」とマジョルガ氏は説明する。「この信号を、グーグルが提供する高性能なコンピューターと機械学習アルゴリズムを使って精査しました」

 マジョルガ氏らのチームはこの方法により、各船の特徴に関する情報を収集し、どのような漁が行われているかを明らかにすることができたという。たとえば、最も多く行われているのは、延縄(はえなわ)漁だということがわかった。多数の釣り針のついた縄に餌をつけ、海に仕掛けて回収する漁法だ。また北海と中国沖では、底引き網を使うトロール船が多く見られた。

 データからは、公海で何が行われているかを示す有用な情報も得られた。国の管轄下にある沿岸の海域とは違い、公海には監視の目が届きにくい。公海での漁の85%は、中国、スペイン、台湾、日本、韓国によるものだった。(参考記事:「国連が公海の保護条約協議へ、「海洋版パリ協定」」

漁業が行われる時期

 人工衛星のデータによれば、海洋動物と異なり、人間の活動は環境の影響をあまり受けていない。とはいえ、その活動にパターンがないわけではない。

 たとえば、旧正月の期間は中国漁船の操業が大幅に減ることがわかった。他の国の漁船は、クリスマスと正月休みの間に大幅に減少していた。また、禁漁期を設けている地域では、当該期間中は漁が控えられていた。さらに、燃料価格の高騰が、漁業に大きな影響を及ぼしたこともわかった。

「魚の研究と同じアプローチでは、漁師の考え方を理解することはできません」と話すのは、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の海洋生物学者ダグラス・マコーリー氏(同氏は今回の研究には関与していない)。マコーリー氏は、各国政府による漁業補助金が乱獲の一因になっているのではないかと考えている。世界貿易機関(WTO)では2017年12月、この補助金の禁止を目指す交渉が行われたが、合意には至らなかった。(参考記事:「なぜ日本は問題先送りの漁業補助金を撤廃できないのか」

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