記憶の書き換え、いつ実現?
マウスでは成功

うつ病やPTSDの治療に期待、ただし倫理的な課題も

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=SARAH GIBBENS/訳=北村京子
PHOTOGRAPH BY STEPHANIE GRELLA

京都産業大学による見どころチェック!

脳内のある細胞を消したら、それに紐づく記憶も消えた!?

PTSDに苦しむ帰還兵士のケアにも役立つ…が……

記憶とは何か、人間とは何か?倫理的な課題が見えてくる

 自転車に初めて乗れたときの気持ちを、あなたは覚えているだろうか。初めてキスをしたときや、初めて失恋したときはどうだろう。そうした記憶と感情は、わたしたちの心に長い間残り、蓄積され、わたしたち一人ひとりが形成されるもととなる。

 一方、深刻なトラウマを経験した場合、恐ろしい記憶は人生を変えてしまうほどの精神疾患の原因ともなりうる。

 しかし、もし恐ろしい記憶がそれほど強烈な痛みをもたらさないとしたらどうだろうか。人間の脳の発達に関する理解が深まりつつある今、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病、アルツハイマーといった疾患で、記憶を書き換える治療法が少しずつ実現に近づいている。(参考記事:「アルツハイマー病、治療の道筋を示す研究成果」

 これまでのところ、実験はマウスなどの動物を中心に行われている。科学者らは人間を対象とした試験を視野に入れつつ、一方で、個人の基礎を形作るものの一部を変えることの意味とは何かという倫理的な問題とも向き合っている。

 さほど遠くない未来に、わたしたちは人間の記憶を書き換えられるようになるだろう。しかし人間は、本当にそこへ踏み込むべきなのだろうか。(参考記事:「ゲノム編集でヒト受精卵を修復、米初、将来性は?」

そもそも記憶とは何か

 神経科学者は通常、あるひとつの記憶を「記憶痕跡(エングラム)」と呼んでいる。これは、特定の記憶に関係する脳組織の物理的な変化を指す。最近、脳のスキャンによって、記憶痕跡は脳のひとつの領域に孤立しているのではなく、神経組織に広く飛び散るように存在していることがわかった。

「記憶はひとつの場所というよりも、網のようなものだと思われます」と、米ボストン大学の神経科学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもあるスティーブ・ラミレス氏は言う。なぜかと言えば、記憶には視覚的、聴覚的、触覚的な要素が含まれており、これらすべての領域の脳細胞から情報がもたらされる、総合的なものだからだ。

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