隕石衝突まで恐竜は減っていなかった、新研究

大量の化石データを駆使、「恐竜がすむのに適した環境が豊富にあった」

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Michael Greshko/訳=三枝小夜子
(ILLUSTRATION BY DAVIDE BONADONNA)

京都産業大学による見どころチェック!

新手法による研究が恐竜絶滅に関する議論に一石を投じる

地道な化石データの蓄積がはるか古代へと続く道となる

研究対象は気候や地殻の変動にまで大規模に広がった

 6600万年前のある日、地球に隕石が衝突したせいで、恐竜の時代は終わりを告げた。恐竜の仲間の中で、この試練を生き延びたのは鳥類だけだった。その鳥類と、私たちの祖先にあたる初期の哺乳類が、恐竜に代わって主役の座に就いた。(参考記事:「新説「恐竜絶滅」を生き延びたのは地上の鳥だった」

 だが、もしこの大災害が恐竜に降りかからなかったらどうなっていたのだろうか? それでもやはり自然に衰退し、絶滅していただろうか?(参考記事:「地球への天体衝突が2.9億年前に急増、今も継続か」

 たぶん、そうはならなかった。隕石の衝突がなかったら、恐竜は絶滅していなかったかもしれない。3月6日付けで学術誌「Nature Communications」に発表された論文によると、白亜紀が終わった6600万年前の大量絶滅のときまで、恐竜が衰退する兆しは全くなかったという。この研究結果は、隕石衝突の時点で恐竜がすでに「末期的衰退」の状態にあったかどうかをめぐる論争に新たな一石を投じるものだ。

 この研究では、大規模シミュレーションという、古生物学の分野では新しい手法が用いられた。こうした最先端のアプローチによって、過去の環境の大変動に関する理解が深まるとともに、今日の気候変動がもたらしうるものを詳細に予測できるようになるかもしれない。(参考記事:「島のネズミが絶滅、原因は気候変動、哺乳類で初」

「今回の結果は非常に重要です。恐竜衰退の物語がまるごと否定されましたが、新しい手法を考案できてとてもよかったです。いろいろな可能性を秘めています」。今回の研究を率いた古生物学者で、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの博士課程学生であるアルフィオ・アレッサンドロ・キアレンツァ氏はそう語る。

もしも隕石が衝突しなかったら

 1940年のディズニー映画『ファンタジア』を観ると、当時の古生物学者が恐竜絶滅の原因をどのように考えていたかがよくわかる。映画では、緑豊かな沼地で繁栄をきわめたお馴染みの恐竜たちが、気候変動に伴う砂漠化により絶滅する様子が描かれている。この考え方は1980年代に大きく変化した。地質と化石の証拠を検証したルイスとウォルターのアルバレス父子が、恐竜が絶滅したのは砂漠化のせいではなく、隕石の衝突による大災害のせいではないかと主張したのだ。

 その後、科学者たちは決定的な証拠を見つけた。メキシコ沖で、この衝突によってできたと思われるクレーターの痕跡を発見したのだ。それ以来、ほとんどの古生物学者が、恐竜を絶滅に追い込んだ主要な原因は隕石の衝突であると考えている(ただし次の参考記事のように、この説にもまだ異論はある)。(参照記事:「恐竜の絶滅にインドの火山が加担、2つの研究成果」

 その一方で、古生物学者の間では、隕石が衝突しなかったら恐竜たちはどうなっていたかという議論が続いている。この問題に答えを出すのが難しいのは、化石の性質上、どうしても記録が断片的になるからだ。生物の死骸が土に埋もれて化石になるには、多くの環境条件が整っている必要がある。結果的に、化石によって生命の歴史を語ることは、ボロボロの写本1冊から物語全体を再構成するような作業になる。もしページがばらばらになっていたり、インクが消えかかっていたりしたら、どうすればよいだろう?(参考記事:「宝石になった恐竜の化石を発見、しかも新種」

 そのため、古代の生物種を数えるときには、化石記録の偏りを考慮する必要がある。単純に化石記録の数だけを見るならば、白亜紀の終わりの1700万年間に北米西部の恐竜の種類は減少しているように思われる。つまり、隕石が衝突したときにはすでに恐竜の時代が黄昏を迎えていたことになる。

 しかし、いよいよ大量絶滅が近づいた白亜紀最後のマーストリヒト期(Maastrichtian)については、詳しい状況がわかるほど化石が見つかっていない。この偏りを説明するために多くの研究が行われた結果、北米西部では、恐竜の多様性が絶滅直前まで保たれていたか、むしろ増えてすらいたことが明らかになった。このシナリオでは、恐竜たちは最後まで繁栄していて、唐突に絶滅したことになる。

 それが新たな定説になりかけていたところ、反論の一撃が飛んだ。2016年、英レディング大学の生物学者、坂本学氏が論文を発表し、恐竜が絶滅するまでの数千万年間は、新たな種が出現するペースよりも絶滅するペースの方が速かったと主張した。世界中の恐竜の系統樹を基に坂本氏が描いた図式にしたがえば、恐竜のグループの一部は隕石が衝突するより前に最盛期を過ぎていたことになる。

 坂本氏の研究は、他と比べて長い時間的スケールで検討しているため、両者を直接比較することはできない。それでも、彼の研究をきっかけに恐竜の衰退をめぐる論争が再燃した。

古生物学も「ビッグデータ」の時代

 大きな問題に取り組むためには、大きなデータベースが役に立つ。古生物学者たちは数十年前から、発見された化石を登録する大規模な公共データベースを構築してきた。現在、コンピューターに精通した新世代の古生物学者たちは、古代の世界をかつてないやり方で細かく分析し、地球規模の新しい知見を得ている。

「今はビッグデータとデータサイエンスの時代ですからね」と坂本氏は言う。「こうした壮大な研究や主張をしたいと思ったら、裏付けにはとてつもなく大きなデータが必要です。ですから、データベースが極めて重要です」

 もしあなたが今、データベース主導の古生物学を『ジュラシック・パーク』と『マトリックス』を合わせたような派手なものと思い描いているなら大間違いだ。そうではなく、数十万点の化石が登録されたデータベースを何度もくり返し丹念に調べる、退屈な仕事である。(参考記事:「「人と恐竜は共存できる」科学的で確かな理由」

「もう何年もこんな作業をしています。来る日も来る日も、モデルがうまくいかなかったり、プログラムが動かなかったり、データクリーニングに追われたり。『Maastrichtian』のつづり間違いに気づいたりしたときには、頭がどうにかなりそうですよ」と英バーミンガム大学の博士課程学生で古生物学者のエマ・ダン氏は話す。同氏は気候モデルを利用して恐竜の進化的起源を探っている。「けれども、それだけの苦労に値する、非常に面白い研究なのです」

 キアレンツァ氏も同じような道をたどった。彼は恐竜の研究をしたいだけだったのに、自分の疑問を解決するため、地球システムのモデルから最先端の生態学まで、幅広いテーマを学ばなければならなかった。

 今回の研究で彼はまず、古代地球の高解像度地形モデルを最新の気候モデルと組み合わせた。この気候モデルは、人間の活動が今日の気候に及ぼす影響を理解するために用いられるものと同じだ。それから、ティラノサウルス、トリケラトプスなどの角竜類、そしてアヒルのようなくちばしを持つハドロサウルスの3つのグループについて、化石が発見された場所をプロットしていった。(参考記事:「建設現場にトリケラトプスの化石、掘れば他にも?」

 彼らは大量のデータを使ってアルゴリズムを訓練し、3つのグループの恐竜を、土地の状況や気候のタイプと結び付けた。生息地のモデルが得られたら、北米全域に目を向け、理論的に恐竜がすむのに適した地域を探した。彼らのモデルは、白亜紀の終わり頃にかけて、北米の大部分が相変わらず恐竜にとってすみやすい環境だったことを示していた。

 並行して、北米地域の中で恐竜の化石が形成されやすかったと思われる場所をモデル化した。当時誕生したばかりのロッキー山脈から出た堆積物が、かつて北米西部を東西に分断するように覆っていた海に向かう流れをシミュレートしたところ、白亜紀の終わりにこの内海が縮むにつれて、化石を保存するのに必要な大量の堆積物もなくなった。

 キアレンツァ氏らはこのシミュレーションに基づき、北米西部で恐竜が衰退したように見えるのは、恐竜が進化の物語から退場させられたからではなく、地質が化石記録を残すのに適さなくなったからだと主張する。

あったかもしれない世界

 これで論争に決着がついたわけではないが、キアレンツァ氏の研究は、恐竜の長期的な衰退がなかったとする他の研究と同じ結論を示している。2018年には、博士課程学生のクララ・ノルデン氏が、歯の化石の研究から、白亜紀末期の草食恐竜が以前と同じ多様性を保っていたことを発見している。(参考記事:「実は肉食も!?“草食恐竜”パキケファロサウルス」

「私たちの発見は、他の研究から得られた証拠ときれいに一致しています」と彼女は言う。

 キアレンツァ氏のモデルは気候変動に対する恐竜の応答をシミュレートするものなので、恐竜を絶滅させた真の原因を解明するのにも利用できるかもしれない。例えば、隕石の衝突や巨大火山の噴火をシミュレーションに入れて、恐竜の生息地にどのような影響を及ぼすかを調べることができるだろう。キアレンツァ氏は現在、まさしくこの問題に取り組んでいる。同様に、過去にあった他の気候変動の例ならどうなるかを調べたり、現在の気候変動がどのようなことを引き起こすかを予測したりするのにも使えるだろう。

「こうした手法は、人間の活動による地球温暖化がもたらす変化を理解する基礎として、とても役に立つでしょう」。英ロンドン自然史博物館の古生物学者ポール・バレット氏はこのように評価する。なお、氏は今回の研究に参加していない。(参考記事:「世界で大幅増、海でも熱波が生物を苦しめている」

 英エジンバラ大学の古生物学者スティーブ・ブルサッティ氏は、この研究は隕石の衝突が恐竜絶滅の原因であることを明確に示していると同時に、隕石が衝突しなかった場合に恐竜がどうなっていたかも暗示していると指摘する。

「この論文の最も感動的な部分は、恐竜がすむのに適した環境がまだ豊富にあったことが明確になった点です。けれども隕石の衝突により、恐竜たちはいなくなってしまいました」と彼は言う。「隕石さえ衝突しなかったらと思うと、残念でなりません」(参考記事:「恐竜絶滅、小惑星の落ちた場所が悪かったせい?」

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