世界で大幅増、海でも熱波が生物を苦しめている

「海洋熱波」が生物多様性を脅かす、経済や災害に影響も、最新研究

NATIONAL GEOGRAPHIC

文=SARAH GIBBENS/訳=北村京子
(PHOTOGRAPH BY FLIP NICKLIN, MINDEN PICTURES/NAT GEO IMAGE COLLECTION)

京都産業大学による見どころチェック!

海洋熱波で生物多様性に地球規模の大打撃

生物多様性の減少が食品と経済など広範囲に影響を与える

海水温上昇の根本的原因に対処する必要性

 強烈な熱波は人間の健康を脅かし、場合によっては致命的な脱水症状や脳卒中を引き起こす。そして、地上での極端な高温と同様に、海の熱波もそこで暮らす生きものに多大な影響を及ぼす。(参考記事:「死の熱波、2100年には人類の4分の3が脅威に直面」

 学術誌「Nature Climate Change」に3月4日付けで発表された論文によると、過去30年の間に、海洋熱波が発生する回数が大幅に増加しており、生物多様性に与える打撃の大きさが明らかになりつつあるという。(参考記事:「2018年の海水温が観測史上最高に、研究発表」

 海洋熱波とは、特定の海域の表面水温が極めて高い日が続く現象だ。過去30年間に世界で海洋熱波が発生した日数は、以前の同期間と比べて54パーセント増え、この傾向が海の生きものの減少と重なることがわかった。

 2014〜2016年にかけて米西海岸沖に居座った「ブロブ(The Blob)」をはじめ、世間の注目を集めた有名な熱波も、今回の研究の対象となっている。無脊椎動物から海洋哺乳類まで、ブロブはたくさんの生きものを死に至らしめた巨大な熱波だった。(参考記事:「夏の異常気象、2100年までに1.5倍に? 最新研究」

地球規模での影響は

 海洋熱波が世界の海の生きものをどのように変えているのかを地球規模で把握するために、論文の著者で生態学者のダニエル・スメール氏らは、過去に発表された論文116本を調べ、1000を超える生態系の記録からデータを収集した。先行研究をなぞり、海洋熱波は5日間以上にわたって海水温が異常に高くなる現象と定義された。

 チームは次に、既存のデータを利用して、特定の海域における生物多様性の総量を測定した。とくに気がかりだったのは、生物多様性が極めて高い海域で、過去に熱波が発生したケースだった。そうした海域では、生物が被害を受けたり、死滅したりして、周辺の生態系に被害が加速度的に広がるリスクが高いからだ。(参考記事:「失われる海の生物多様性」

 海洋熱波の影響がとくに大きかった海域は3つあった。カリブ海のサンゴ礁、南オーストラリアの海草藻場、米カリフォルニア沖のケルプ(海藻)の森だ。

 海水温の上昇は、そうした大規模な生きものの生息地がもっている本来の機能を崩壊させる。たとえばサンゴ礁は、平均よりも高い水温にさらされるとストレスを受ける。すると共生している褐虫藻がサンゴの体内から放出され、通常は色鮮やかなサンゴが真っ白になる白化現象が引き起こされる。(参考記事:「【動画】白化するサンゴの断末魔、原因は温暖化」

熱帯低気圧による災害も拡大

 カリブ海の米領内にあるサンゴ礁は、2005年にその半分が失われた。グレート・バリア・リーフでは、一帯のサンゴの半分以上がすでに死んでいる。サンゴが死ぬと、サンゴ礁はそこに暮らしているたくさんの海洋生物の命を支えられなくなる。(参考記事:「最大のサンゴ礁の危機、「移植」で救えるか 写真15点」

「サンゴ礁は、平均海水温を上回る期間が10年間でわずか数週間だけという海で進化してきましたが、今では数年に一度、長ければ3カ月もの間、極端に高い水温にさらされています」。生態学者で、ナショナル ジオグラフィック・エクスプローラーのエンリック・サラ氏はそう語る。

「そうなれば、熱帯低気圧による災害も拡大します。なぜならサンゴ礁の成長が止まり、海岸を波から守ることができなくなるからです」

 生物多様性の減少もまた、将来的に食品の安全性と海に関連する経済に多大な影響を与える可能性がある。先週、学術誌「Science」に発表された論文には、気候変動によって魚が減っていることがわかったとある。世界の海で、人間が獲る魚の量は、およそ4パーセント減少した。海水温の上昇と乱獲の両方が起こっている一部の地域では、減少率が30パーセントを超えている。(参考記事:「温暖化で魚が小型化している、最新研究、反論も」

 スメール氏はまた、サンゴ礁、海草藻場、ケルプの森などの重要な海域が損なわれることによって、さらに多くの二酸化炭素が大気中に排出されることを懸念している。科学者らの推測によると、過去10年間で大気中に排出された炭素の26パーセントが、海に吸収されている。海の生態系が壊滅すれば、海中の植物に吸収された炭素がすべて放出されることになる。

いまやるべきことは

「海洋システムは、プラスチック汚染や海洋酸性化など、さまざまな脅威にさらされています」とスメール氏は言う。「しかし、極端な海水温の上昇は、生態系全体に急激な変化を及ぼし、広範囲に影響を与える可能性があるのは明白です」(参考記事:「深海底にすむ生物の体内からもプラスチック、研究」

 これからの数十年間も、海水温の上昇は海の生物のバランスに悪影響を与え続けるだろうと、スメール氏は考えている。

「この状態を引き起こしている根本的な原因に対処しなければなりません」と、国際海洋保護団体オセアナ(Oceana)の副主任科学者、ケイティ・マシューズ氏は言う。「さもなければ、そのほかに何をやろうとも、効果はほとんどないでしょう」(参考記事:「今後80年で海の色が変わる 気候変動から予測」

 マシューズ氏によると、気候を意識した漁業管理と、海水温上昇のモニタリングが、影響を最小限に抑えるためにできる当面の方策だ。

NATIONAL GEOGRAPHIC
日本版サイトへ

シェアする

関連する学び

あわせて読みたい記事

害虫

シロアリに「森を守る保険」の役割、実験で解明 干ばつになると倍増して土壌の湿度を維持、ボルネオ島で研究 NATIONAL GEOGRAPHIC

都市空間

移動が変われば、都市が変わる。 京都の大学初の試み。シェアサイクルのサービス導入を開始 京都産業大学

生命

古代の墓から新種の類人猿の 骨を発見、すでに絶滅 中国・秦の始皇帝の祖母の墓で出土、ペットだった? NATIONAL GEOGRAPHIC
記事一覧に戻る